野菜たちが実を結ぶ〜ヘタレ男の夜這い方法〜
『入って行けよ』
そう言えたらどんなによかったか。
しかしアルヴィンが考えてしまったのは。
(パ、パンツが見えてしまうっ!!)
悲しいかな、こうだったのだ──
「よし、病気もなく順調だな! 甘く美味しく育ってくれよ!」
暑くなり始めた夏のある日。
太陽の光が降り注ぐ中、アルヴィンはいつものように実り始めたトマトへと愛おしい目で語り掛ける。この世に生を受けて二十二年間、畑の野菜一筋の人間である。野菜が恋人、と言っても過言ではない。
アルヴィンの持っている愛や情熱は、すべて野菜のためだけに注がれる。他のところに回す余地など、あるはずもない。
「ふう、今日の仕事は終わりにするか」
かがめていた腰を伸ばすと、遠くの方でおーいと声がした。見てみると、村人の一人がこちらに向けて手を振っている。
「アルヴィン、畑仕事は終わりか!? 一服してかねーか?!」
一服、という言葉を聞いて、アルヴィンは少しだけ眉を寄せた。
アルヴィンの住むノルトの村は一見普通の村と変わりはないが、実は一風変わった風習がある。
それはなんと、夜這いだ。
しかしそれにはちゃんとしたルールが設けられていて、無理やり女が虐げられることはなかった。
そしてそのルールは、幼いうちに大人たちから教えられる。女たちは母親に、男たちは畑後の集会で聞かされるのが常であった。
もちろんアルヴィンもまた、このルールを聞いて知っている。が、そんなことをするつもりはさらさらなかった。アルヴィンの友人にロレンツォという名の男がいるのだが、彼はこの話を聞いたその日から、村中の女性宅を回って会話を楽しんでいるらしい。会話だけで終わっているわけはないだろうとアルヴィンは推察しているのだが。
無論、それが悪いというつもりはない。割と性にオープンなこの村では、女性たちも受け入れてくれることが多いようだ。アルヴィンは夜這いなどしたことがないので、そこのところはわかりかねたが。
つまり、この村人の言う一服というのは、例の集会のことなのである。内容はほぼ女のことばかり。昨日は誰それのところに夜這いに行った、断られた、成功した、具合はどうだった、とこんな感じの話し合いである。
遠くから声をかけてくるその男にわかるように、アルヴィンは首を横に振ってから答えた。
「いや、今から畑の開拓地を探しに行くんだ! 遠慮しておくよ!」
アルヴィンはほとんどその集会に出たことはない。興味がないわけではないが、それよりも畑に関することをしていた方が楽しいためだ。
「相手もいねぇうちから開拓地探しか! まぁ、頑張ってこい!」
そう笑いながら村人は去っていた。まあ笑われるのも仕方ないだろう。開拓というのは本来、長男以外の男が結婚した時にするものなのだ。アルヴィンは次男で、兄はもう結婚している。家の土地は兄が、そしてゆくゆくはその子どもの長男が継ぐことになるだろう。これだけ働いていても、結婚しない限りアルヴィンは『兄の手伝い』でしかないのだ。
「自分の畑が欲しいなぁ……」
こだわるつもりはないが、やはり自分の畑というものが欲しい。しかし開拓など一人でできるものではないのだ。結婚でもしない限り、村人も手伝ってくれはしないだろう。皆、自分の畑で手一杯なのだから。
アルヴィンは深く息を吐きながら、大きく隆起する丘へやってきた。
夏らしい青空の下、爽やかな風が囁くように吹き抜けていく。
「やっぱりここはいいな。水はけがよくって、トマト作りには最適だ」
そう、アルヴィンが呟くのと同時だった。いつの間にいたのか、アルヴィンの隣で女性が「水はけがよくて、オレンジ作りには最適ね」と呟いたのが。
「「え?」」
二人は再度同時に声を上げ、顔を見合わせた。知らぬ顔だ。ノルトは村と言ってもかなり広く、人口も割合多い。
その女性は長い黒髪をアップで束ねた、そこそこの美人だった。少し伏し目がちで、あまり快活でない印象を受ける。
「……開拓地を探しているのか?」
年齢はアルヴィンと同じくらいだろうか。しかし村で一つしかない学校で見かけた覚えがないということは、いくらか年が上なのかもしれない。
「いえ、そういうわけじゃ……ただ、ここはオレンジ畑にちょうどいいなって」
「そうか、オレンジも水はけがいいところじゃないと甘くならないもんな」
「ええ、トマトと同じね」
二人は見つめ合って微笑んだ。アルヴィンはフルーツ栽培は専門外だが、それでもこういう会話は楽しい。
「もし結婚したら、ここの土地を買い取って、オレンジ畑にするのが夢なの。段々にして、さらに水はけをよくして」
「そうなると石垣を積まなきゃいけなくなるな。それは大仕事だ。それよりもトマトを植えた方がいい。丘の頂上から流れるような畝を作れば、この日当たりのいい場所では甘さがぎゅっと凝縮されたいいトマトができるぞ」
「あら、それでは雨よけがなくて、トマトが弾けてしまうわ。こういうのはどう? 南向きに段々畑を作って、オレンジと交互に植えるの。オレンジは斜め植えにするから、トマトの雨よけになってくれるわ」
「斜幹無剪定定植法か。それならトマトが影になることもなく、陽性植物にも影響はないな。それはいい! そうしよう!」
アルヴィンの頭に、オレンジとトマトが交互に実らせる様子が浮かんだ。想像ではあったが、その段々畑はとてつもなく美しい。
「ここの土地を買うの? アルヴィン」
「いや、そんな金はないし、あったとしても結婚してないんじゃ許してもらえな……って、なんで俺の名前を?」
アルヴィンは妄想から覚め、その女性の顔を見た。彼女は伏し目がちの目を少し細め、ほんの少し微笑んでいるように見える。
「同じ学校に通ってたんだから、知ってるわよ。あなたは私よりひとつ年下ね」
「……ごめん、思い出せない」
「アルヴィンは畑にしか興味なかったものね。私はセシリアよ。うちは野菜中心に作ってるけど、私はいつかオレンジが作りたいの」
「へぇ、いいな」
アルヴィンがそう言うと、セシリアは少し頬を染めて嬉しそうに笑っていた。
互いの夢を語り合うのはいい。それも野菜や果物の話なら、尚更だった。
アルヴィンはトマト作りの情熱を、セシリアはオレンジ作りに思いを馳せ、二人は存分に語り合った。
セシリアと夢を語り合ってから、一ヶ月が経過した。
あれからほぼ毎日、アルヴィンは仕事終わりに丘へ行く。するとセシリアもまた丘へと来ていた。
二人はそうして農業話に花を咲かせる。家では野菜を作っているという彼女は、色んな栽培方法を試していた。その結果を彼女は惜しげもなく教えてくれる。アルヴィンもまた、独自の栽培方法を試したことを語り、二人の会話は盛り上がった。そう、いつも時間を忘れて。
「あら、もうこんな時間ね。帰らないと」
「あ……うん、そうか」
夏場の日は長いが、二人で話しているとあっという間だ。名残惜しい。もっともっと話したい。
「じゃあ、またね。アルヴィン」
「ああ、またな……セシリア」
アルヴィンはセシリアに手を振った。ロレンツォなら、家まで送るとかなんとか言うのかもしれない。だが、アルヴィンは言えなかった。
野菜一筋でやってきた彼には、どうすればいいのか見当がつかない。この徐々に芽生えた恋心を、どう表せばいいのかわからないのだ。
いきなり送ると言ってもよいのだろうか。変に思われないだろうか。手は繋いでもいいのだろうか。……好きだと言っていいのだろうか。
トマトとオレンジの段々畑を作りたい。それは自分一人ではなく、セシリアと作りたい。セシリアと……結婚したい。
そこまで考えて、アルヴィンはブルブルと頭を振った。いきなり結婚の話などできるわけがない。それくらいはいくらアルヴィンにだってわかっている。
アルヴィンはセシリアの控えめな笑顔を思い浮かべた。奥ゆかしい。そんな感じがするが、スッと一本筋の通っている女性だ。彼女には決まった人がいるのだろうか。誰かに夜這いされたことはあるのだろうか。
「夜這い……か」
セシリアに夜這いをしてみようかと考えたこともある。しかし間抜けなことに、彼女の家がどこにあるか知らなかった。それこそ家まで送ると言って調べるべきだろうが、妙な下心があると思われるのがどうにも恥ずかしい。夜這いを仕掛けるならば恥ずかしいもなにもないはずなのだが、人を初めて好きになったアルヴィンは、臆病になっていた。
一言で夜這いと言っても、滅多矢鱈に押しかけて犯すような真似はしてはいけないようになっている。夜這いをするためのルールというものがこのノルト村には存在するのだ。
先ず目的の相手の家には無理やり押し入ることはせずに、窓越しに会話をしなければならない。
夜這いに来られた側はすぐに追い返すのは許されず、最低でも三分は話をしてみること。
断る時はそっと窓を閉めること。閉められたらしつこくせずにすぐに帰ること。
男性側から夜這いをして妊娠をさせた時には、なんらかの責任を取らなければいけない。
もちろん、女性の方から逆夜這いをしても構わない。
しかしその場合は男性側とは逆で、相手に責任を取らせてはいけないのだ。
それがこのノルト村の夜這いの大まかなルールである。
そのルールを心の中で反芻し、アルヴィンが導き出した答えは──
「あいつに、聞いてみるか」
人に頼ることだった。
あいつというのは、何度夜這いを仕掛けたか数知れない、アルヴィンの友人である。
ロレンツォという名の友人を、アルヴィンはトマトの出来を見に来いという名目で呼び寄せた。
自慢のトマト畑の中で、アルヴィンはロレンツォに話しかける。
「ちょっと、お前に相談があって……」
「相談? トマトの出来を見せたいんじゃなかったのか?」
「いや、それはそうなんだが……」
「どうした? 好きな女でも出来たか?」
ロレンツォはこちらを見てニヤニヤしながら聞いてきた。こういうことにはやたら察しがよくて助かる。少し、恥ずかしくはあるが。
アルヴィンは頭を掻きながら頷いて見せた。
「う、うん、まぁそんなところだ」
「っほう!」
ロレンツォは自分で言っておきながら、驚いたように声を上げている。
「相手はどこのどなただ?」
「……どこかは知らない。名前はセシリアというんだけど、知ってるか?」
「ああ、セシリアか。東の井戸の近くの、エルリーズの隣の家の子だろう? 黒髪で伏し目がちの」
簡単に住所がわかった。さすがロレンツォである。と当時に、不安が過る。
「ロレンツォ、お前、セシリアを……」
「夜這いか? してない。まぁ、窓越しに何度か話はしたがね。きっちり三分経った時点で、ピシャリと窓を閉められた。よく覚えているよ」
ロレンツォは可笑しそうにクックと笑う。拒絶されたことに腹を立てている様子も、落胆している様子も見られない。さすがロレンツォ、と言うべきであろうか。
「するのか? 夜這い」
そう問われて、アルヴィンはカッと赤くなり目を逸らした。
「そんな、つもりは……」
いや、ある。本当のことを言えば、したい。
「あるんだろ? 行ってくればいい。別に部屋に入れてもらえなくたっていいじゃないか。こっちにはその気があるっていう、いいアピールになる」
「……行ってもいいと、思うか?」
「行って悪い理由なんか、ひとつもないだろ?」
「今の関係が壊れるのは、嫌なんだ」
そう、怖い。今の関係が心地よく、楽しいから余計に。
ロレンツォは真剣に悩むアルヴィンの肩を、ポンと気安く叩いてきた。
「お前から恋の悩みを聞ける日が来るとは思わなかったなあ」
「茶化すなよ、ロレンツォ」
アルヴィンが顔を熱くさせながらロレンツォを睨みつける。すると彼はアルヴィンの気持ちを知ってか知らずか、苦笑いを漏らし始めた。
「茶化してなんかないさ。いい傾向じゃないか。行ってこいよ。そんなことで関係が壊れるほど、お前もセシリアも子どもじゃないだろう。大丈夫だ」
ロレンツォはびっくりするほど簡単に言ってのけた。そりゃ、ロレンツォにとってはそうかもしれない。夜這いと結婚をまったく結びつけていない、この男にとっては。
だが、アルヴィンにとってはそうではないのだ。
アルヴィンが嘆息していると、ロレンツォは勝手に畑のトマトをもぎ取り、バクリと食いついている。
「お前ん家のトマトは最高だな。これ、もうひとつもらっていいか?」
「ああ、いいよ」
「サンキュー。あ、そうだ。初めて夜這いに行くなら、なにかプレゼントを持っていけ。高価な物は駄目だぞ、受け取ってもらえないからな。相手が遠慮せず受け取れて、かつ場が和む物だ。成功率が上がる」
「難しいな。なにがいい?」
「そのくらい、自分で考えろ」
そう言ってロレンツォはもうひとつトマトをもぎ取ると去っていった。
肝心なところを聞き出せなかったアルヴィンは、腕を組んで思い悩む。
一体なにを持っていけばいいのだろうか。首を捻らせたアルヴィンは、目の前で揺れる真っ赤なトマトを見ていた。
夜十時。アルヴィンは今、セシリアの家の前に来ている。
(心臓が破裂しそうだ……)
異常なほどに高鳴っている胸を押さえつけながら、そっと窓を覗く。するとカーテンの隙間からセシリアの姿が確認できた。どうやらまだ起きているようだ。アルヴィンはさらに大きくなった鼓動をどうにかしようと、数回深呼吸をした。
今の季節、この時間になると、ノルト村ではそこここで男女が窓越しに会話をしている姿を見ることができる。冬は寒くて窓越しに会話なんてしていられない。故に夏は恋の季節だ。
逆にすぐ部屋に入れてくれるからと、冬を好む者もいるようだが、それは少数派だろう。
「すーはーすーはー……よし」
呼吸を整えて意を決すると、コンコンと窓を叩いた。セシリアが驚いた様子で向かってくるのがわかる。まず女性は知り合いかどうか、村人かどうかを確認してから窓を開ける。
カーテンを避けてアルヴィンと目が合ったセシリアは、大慌てで窓を開けてくれた。
「アルヴィン……!」
「あの、えーと……こんばんは」
「え? ええ、こんばんは……」
最初の言葉がこんばんはではおかしかっただろうか。
ロレンツォなら『月が綺麗な夜ですよ。あなたには敵いませんが』とかなんとか言いそうだ。しかしそんな歯の浮くような台詞は、アルヴィンにはとてもじゃないが言えそうにない。
「……」
「……」
アルヴィンが黙っているためか、セシリアも黙ってしまっている。仕事終わりならばとめどなく会話が溢れるというのに、なにも出てこない。思えば、野菜の話でしか盛り上がらなかった二人だ。アルヴィンに甘い言葉を囁けという方が、無理なのである。
ふとアルヴィンは手の中にある物に気付いて、それをセシリアに差し出した。
「……トマト?」
「ああ、今日収穫したばかりのトマトだ。セシリアに食べてもらいたくて」
セシリアに食べてほしいだけなら、仕事終わりに会うのだから持っていけばいい話だ。しかし、なぜこんな時間に持ってきたかなど問いはせず、セシリアはトマトを受け取ってくれた。
「うわあ……大きくて、色も形もいいわね。美味しそう。今食べてもいいの?」
「ああ、食べてみてくれ! 感想が聞きたい!」
アルヴィンが身を乗り出して言うと、セシリアは笑みを洩らしながらトマトにかぶりついてくれる。
「……うん」
「どうだ!?」
「すごい糖度。まるでスイカのようよ! 甘くて、水っぽくないのにジューシーで、こんなに皮が薄くて繊細なトマトは初めて!」
「そうだろ!? これを作るまでの苦労と言ったら、俺の人生をすべて語らないと言い表せられないんだ!」
アルヴィンの大袈裟な表現に、セシリアは微笑みを見せて頷いてくれていた。彼女はわかってくれているのだ。このトマトを作り出すための苦労が、どんな物であるかを。
アルヴィンはなぜだか、不意に泣きそうになった。セシリアが自分を理解してくれている気がした。そして、そんな彼女を本当に愛おしく感じた。一緒にトマトとオレンジ畑を作りたいと強く願った。
と、同時に。
彼女から拒否されることに、酷く恐怖を覚えた。拒否されてしまったらどうなってしまうのか。ロレンツォは大丈夫だと言ったが、一体何がどう大丈夫なのかさっぱりわからない。
「どうしたの? アルヴィン……」
セシリアは涙ぐんでいるアルヴィンを見て、不思議そうに首を傾げている。色んな感情が一気に噴き出し過ぎて、どうにも表現しきれない。
「……」
「……」
二人はまたも黙してしまった。気になるのは時間だ。どれ位経ったのだろうか。まだ一分だろうか、それとももうすぐ三分だろうか。
ロレンツォは三分経った途端に窓を閉められたと言っていた。自分もこの窓を閉められてしまうのだろうか。あの言葉巧みなロレンツォでさえも、三分しか話をさせてもらえなかったという事実。それは沈黙しか生み出せない自分では、拒絶されるのは確実ということだ。
「じゃ、じゃあな、セシリア」
「っえ?」
アルヴィンは三分経過する前に、自分から逃げ出した。
怖かった。彼女に拒絶されるのが、とてつもなく。
もしも迷惑顔で窓を閉められたりしては、もう今までのように話ができない。そう思った。
逃げ帰る夜道で、来る途中で見た男女が、まだ楽しそうに窓越しに談笑している。なぜあんなに会話を続けられるのだろう。とてもじゃないが、自分にはできそうにない。
ふと別の方に視線を向けると、ロレンツォが窓から部屋に入っていくのが見えた。相変わらずお盛んな男である。あんなに簡単に部屋に入れてもらえて、羨ましくもあった。
アルヴィンは大きく溜め息をついた。こんなことなら、もっと早くから経験を積んでおけばよかったと。好きな人ができた時、こんなに困るとは思ってもいなかった。
「はぁぁ……俺、ずっとこんななのかな……」
ガックリ肩を落とし、涙を滲ませる。
セシリアのことを考えると胸が痛くて、その胸を両手で押さえつけた。こんなにもセシリアを想っているというのに、その思いの丈を一言も表せられない。伝えたい気持ちはあっても、どうしても伝えられないのだ。
その夜のアルヴィンの部屋は、溜め息の漏れ出る音で満たされていた。
次の日の夕方、アルヴィンは当たり前のようにセシリアに会った。
昨晩のことを話に出されてしまうかと思ったが、彼女はなにも言ってこなかった。ほっとしたのと同時に、少し拍子抜けでもある。
会話もいつも通り野菜の話で盛り上がった。互いの夢を熱く語り合う、この時間が本当に幸せだ。しかしなにも変わらず接してくれる彼女を有難いと思う反面、心の中で不安が芽を吹き始める。
(昨日のこと、なんとも思ってないのか? 俺がその気だって気付いてて、なおかつ普通に振る舞ってるってことは……セシリアにとって、俺はそういう対象で見てくれてないってことなのか)
どうすればいいのだろう、とアルヴィンは真剣に頭を悩ませ考えた。昨夜、逃げてしまったのが悪かったのかもしれない。もっと、ちゃんと話をしなければいけなかった。セシリアもいきなり逃げられてしまっては、混乱したに違いない。
今夜もトマトを持って行こうと、アルヴィンは心に決めた。
しかし、その晩も同じことを繰り返してしまうこととなる。
トマトを渡し、会話はできず、三分経つ前に逃げ出す。それを、二度ならず三度、三度ならず四度、毎日毎日同じことを繰り返した。
毎日トマトを渡すだけの日々。やがてトマトの季節が終わり、最後のトマトを渡す時も同じ過ちを繰り返してしまった。
夏が終わる。
なんの進展もなかった。
トマトが手の中にないと、セシリアのところに行く勇気さえ起きなかった。他の野菜では代わりにはならない。
夜這いに行かなくなってからも、仕事終わりにセシリアとする会話は相変わらず続いている。
彼女からは夜這いに来なくなった理由を、特に問われることはなかった。夜這いというより、トマトの配達に行っていたようなものだったが。
(来年に、持ち越しかな……)
胸がぎゅっと締めつけられ、アルヴィンはベッドの上に塞ぎ込む。
(ずっとこんな気持ちを抱えて行かなきゃいけないのか)
そう考えると急に涙が溢れた。来年、上手くいくとは限らない。もしかしたら今日、彼女は誰かに夜這いをされているかもしれない。来年には誰かと結婚しているかもしれない。念願のオレンジ畑を、誰かと作っているかもしれない。
「……いやだ……っ」
居もしない誰かに、アルヴィンは激しく嫉妬した。セシリアが誰かの傍で笑っている姿を想像するだけで、頭がおかしくなりそうだ。
苦しい。胸が苦しくて、息もできない。涙ばかりが勝手に溢れ出てくる。自分の不甲斐なさが、悔しくて仕方ない。
「セシリア……ッ」
彼女と一緒になりたい気持ちはあるのに、どう伝えていいかわからない。もしもなにも思われていなかったらと思うと、怖くて聞けない。
とその時、コツンと音がした。
兄がドアをノックしたのかと思い、大慌てで涙を拭う。
「はい?」
しかし、入ってくる様子はない。聞き違いだったのだろうか。
コツン。
「……窓?」
アルヴィンは訝りながらも立ち上がる。そっとカーテンを開けると、そこには黒髪で伏し目がちの女性の姿。
「セシリア!!」
アルヴィンは大慌てで窓を開けた。月夜に照らされたセシリアは、いつも以上に綺麗に見える。
「アルヴィン……あの、こんばんは」
「え? えっと、こんばんは」
二人は窓越しにぺこりと頭を下げた。おかしな光景である。
しかしアルヴィンは混乱していた。こうして夜に、窓越しに話しかけてくるというのは、ノルト村では立派な夜這い行為なのだ。女性側から仕掛ける逆夜這いがある、とは聞いたことはあったが、まさかそれを自分がされるとは思ってもみなかった。しかも相手は、アルヴィンの思い人であるセシリアである。
「え、えーっと……」
なにしに来たのかと言い掛けて、思い止まった。なにしに来たのかなど、明白だ。夜這いとは本来、男女の行為を指すのだから。
(どうしよう……?)
なんと言えばいいのか悩んだ。夜這いに来たということは、少なくともアルヴィンに対して悪い感情を抱いてはいないだろう。それ自体はすごく嬉しかった。
しかしどうやって部屋に誘えばいいのか。『入ってく?』ではなんだかお軽い。待ってました、大ラッキー! という感じだ。アルヴィンはそれだけが目的で毎日トマトを持って通ったのではない。自分の気持ちを伝えて、愛を囁き、受け入れられた上で行為に及びたかったのだ。
「……」
「……」
やはりいつものような沈黙が訪れた。意を決して来てくれたであろう彼女に、恥をかかせてはいけない。気の利いたことを言って、部屋に入ってもらって。
そこまで考えて、アルヴィンは顔は火照っていく。今の彼女の服装は……スカートだ。
(窓を越えさせると、パンツが見えないか?)
邪な絵図が脳裏をよぎり、アルヴィンはバツの悪さからセシリアの顔から視線を外した。ほんの少し視界に入っている彼女がビクリと動いたのは、気のせいだろうか。
「あの……これを渡しに来ただけだから」
その手には、ひとつの綺麗なオレンジ。それがセシリアから差し出される。
「アルヴィンに食べてもらいたいとずっと思ってたの。食べてくれる?」
「ああ、もちろん!」
アルヴィンはそのオレンジを喜んで受け取った。皮に指を入れると、小気味いい音を立てて綺麗な実を覗かせている。そのまま剥き進め、一房手に取ると口に頬張った。瞬間、その味にアルヴィンは目を見開かせる。
「ああ、美味い! 甘味とほどよい酸味が合わさった、濃厚さ……それにこの香りの高さ! 粒もひとつひとつがしっかりしていて、口の中で弾ける! こんなオレンジは初めてだ!」
ありのままの感想を言うと、セシリアは彼女らしく嬉しそうに控えめな微笑みを見せてくれた。
「ありがとう、アルヴィン。そんな評価をもらえて嬉しい」
その笑顔を見ると、いつも心臓が高鳴る。セシリアが可愛くて愛しくて、抱き締めたい衝動に駆られる。
「……」
「……」
なにか言葉を繋がなければ。部屋に誘う文句を言わなくては。
「……じゃあ、またね」
しかし考えている間に、セシリアは踵を返してしまった。
「……っあ」
待ってくれとも言えず、その後ろ姿を見送るしかなく。
その寂しげな姿を、闇夜に消えてしまってからも探していた。
手の中にオレンジの香りだけを残したセシリアはその日、アルヴィンの元に戻ってはこなかった。
アルヴィンは後悔した。
今まで何度も繰り返した後悔よりも、遥かに大きい。
セシリアがどんな思いで来たのか本当のところはよくわからないが、少なくとも自分が誘えていたら、部屋に入っていてくれていたはずだ。
セシリアの気持ちが知りたい。自分に対して、どういう感情を抱いてくれているのか、知りたい。
そんなことを考えながら、アルヴィンは悶々とした気持ちで眠りについた。
次の日、セシリアはいつもの丘に現れなかった。こんなことは初めてだ。やはり、昨日のことを気に病んでいるのかもしれない。それとも、ただ単に風邪でも引いたのだろうか。
アルヴィンはいてもたってもいられず、己の畑から野菜をいくつか取ると、そのままセシリアの家へと走った。
まだ夜這いには早い時間。アルヴィンは初めて彼女の家のドアノッカーを叩く。すると中から、セシリアの母親であろう女性が現れた。
「あら、あなたは確か、ノーランさんのところの?」
「はい、アルヴィンと言います。あの、セシリアさんはいらっしゃいますか?」
ノーランというのはアルヴィンの父親の名前だ。どうやらセシリアの母親も、アルヴィンのことを知っていたらしい。
「ええ、いるわよ。待ってね、呼んでくるわ」
「いえ! 風邪を引いているなら、無理には……」
「風邪? 引いてないわ、元気なものよ」
風邪を引いていない。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中は真っ白になる。
しかしその直後、アルヴィンは手の中の野菜を彼女の母親に押しつけた。
「え!? なに??」
「元気ならいいんです、失礼します!」
狼狽える母親を残し、アルヴィンはいつものように逃げ帰る。
風邪など引いてはいなかったのだ。なのに、丘には現れなかった。
その、意味。
(俺は、愛想を尽かされたのか!)
アルヴィンは歯を食いしばった。
何度も夜這いを仕掛けるくせに、いつも三分を待たずして逃げてしまう、臆病な男。
口を開けば野菜のことばかりで、気の利いた言葉ひとつ言えない情けない男。
女性側から誘われても、受け入れることさえできない不甲斐ない男。
誰がこんな男を好きになってくれようか。
今までは丘で会うことができた。だけど、もうそれもなくなる。
嫌われたのだ。セシリアに。初恋の女性に。最も愛する人に。
(終わってしまった……)
来年の夏を待たず、あっけなく終わった。
あの丘は、きっと彼女が買い取ることになるだろう。自分ではない、誰かと結婚をして。
あそこにトマトの実がなることは、おそらくない。
アルヴィンの夢は、叶わない。
「くそぉおおおっ」
アルヴィンは家に帰ると、一人そう洩らした。
畑にしか能のない自分が嫌になる。今まで野菜にしか情熱を注いでこなかったことを、生まれて初めて後悔した。
今さら悔やんでも遅いが、それでも悔やんで悔やんで、泣いた。そしてそのまま視界がぼやけて──
いつのまにか眠ってしまっていたアルヴィンは、ある音で目が醒めることとなる。
それは、窓から聞こえるコツンという音。アルヴィンはその音を聞くなり飛び起きた。アルヴィンを相手に窓を叩くのは、彼女以外にあり得ない。急いでベッドから降りると、すぐさま窓を開け放った。
「セシリア……!」
「アルヴィン……」
目の前に、想い人が現れた。さっきまで、もう顔を合わすことはないと思っていた人物が。
「今日、丘に行かなくてごめんなさい。それと、たくさんの野菜をありがとう」
「……いや」
セシリアはその伏し目がちな視線をさらに下げ、申し訳なさそうにそこに立っていた。
寝起きのせいで頭が回らない。どうして彼女がここに来たのかわからない。ただ『行けなくて』ではなく、『行かなくて』と言ったということは、自分の意思でそうしたということだろう。
「……」
「……」
なにかを言わなくては、と、寝起きの頭をフルに働かせる。もう同じ過ちを繰り返してはならないのだ。絶対に。
「じゃあね、アルヴィン。また今度……」
「待ってくれ、セシリア!」
帰ろうとする彼女の手を、アルヴィンは急いで窓から乗り出すように掴んだ。初めて掴むセシリアの手。女性の手は小さくて柔らかいんだなぁという感想が、頭の中に舞う。
「ア、アルヴィン?」
セシリアの驚いた声が闇夜に溶けた。その手をアルヴィンはギュッと強く握る。
(考えろ考えろ考えろ! このまま部屋へ連れ込むか? 違う、そんなじゃない。第一女性側からの夜這いは、もし妊娠しても男に責任を取らせてはいけないルールだ。そんなリスクを、セシリアに背負わせちゃいけない)
セシリアの顔は、手を握られたためか紅潮していた。今すぐにでも抱き寄せてしまいたい。
そんな欲求がこみ上げてくるが、アルヴィンはどうにかグッと堪えた。
「セシリア、明日は来ないでくれ!」
「……え?」
「明日は、俺が夜這いに行く! だから、その……っ」
夜這いという言葉を口に出してしまい、アルヴィンは大いに照れた。それでもなんとか言葉を繋ぐ。
「だから、明日は……家で、待っていてくれ……」
どうにか最後まで言い終えると、アルヴィンはセシリアの手を離した。セシリアはアルヴィンを見つめ、そして控えめな笑顔で頷きを見せてくれる。
「うん……待ってる」
セシリアの言葉に、アルヴィンの心は明るく輝いた。待ってるという肯定の言葉に、歓喜の表情が勝手に生まれる。
そんなアルヴィンの姿を見てどこか恥ずかしそうに笑った後。セシリアは子リスのように素早く夜道を駆けていった。
翌日。アルヴィンはなにも持たずに、セシリアの部屋の窓辺にやってきた。
そしてその窓をコツンと叩くと、すぐに中から人の気配がして窓を開けてくれた。
「約束通り、来たよ」
「うん。待ってた」
約束をしての夜這いを、夜這いと呼べるのかは疑問だが、そのお陰でアルヴィンはとても落ち着いていた。
「今日は、聞きたいことがあるんだ」
「なあに?」
「どうして昨日は丘に来てくれなかったんだ?」
別に責める気はない。ただ、疑問に思ったのだ。
アルヴィンは愛想を尽かされたからだと思っていたが、どうやら違うようであるということはわかった。その理由を知りたい。
その疑問に、セシリアは悲しそうに視線を下げている。
「だって、私……アルヴィンに嫌われたと思って……」
「へ!? なんで!」
「だって、ずっとその……よ、夜這いに来てくれてたのに、急に来なくなっちゃったでしょ? それで……私、勇気を振り絞って行ったのに、アルヴィンに顔を背けられちゃったから、はしたない女だと思われて嫌われたんだと……」
顔を背けたのはアレだ。セシリアのパンツを想像してしまったからだ。
「ごめん! 違うんだ! そ、そのセシリアのパン……えっと、その……」
「パン?」
「だから、えーっと……」
あ、まずい、とアルヴィンは思った。このままではまた沈黙が始まってしまう、と。
「セシリアが窓枠に足をかけた時に見えるパンツを、想像したらつい……!」
「えっ!?」
セシリアは顔を赤らめ、スカートを押さえつけた。なにを馬鹿正直に告白してしまっているのか。これでは変態だ。嫌われてしまう。
「ご、ごめん! 別に見たいわけじゃ……いや、見たかったんだけど、あ、いや、そうじゃなくて……」
言い訳するたびにどんどん墓穴を掘るアルヴィン。そんな慌てふためくアルヴィンを見て、セシリアは盛大に笑った。
「あは、あははははっ! もう、アルヴィン、いいわよ。あなた、夜這いに来てるんでしょ? パンツくらい、その……ね?」
急にお姉さん風を吹かされて、アルヴィンは眉を下げる。やはり、彼女には経験があるのだろう。セシリアには、自分の他に『誰か』がいる。でも、それでも。
「セシリア、俺とじゃだめかな……」
「ん? なにが?」
「俺は、セシリアと畑を作りたいんだ。あの丘で、家を建てて、オレンジとトマトを植えて」
「アルヴィン……」
「セシリアが、好きなんだ」
アルヴィンは自分の想いを真剣に伝えた。その言葉を聞いたセシリアは、驚いたように口元に手を当て、そしていきなり涙を流し始めている。それに驚いたのはアルヴィンの方だ。
「セシリア!?」
「本当に? 本当なの、アルヴィン?」
「本当だ。何で毎日ここに通ってたと思ってたんだよ」
「トマトを持ってきてただけだったじゃないの。ついでにやれたらいいな、くらいに思ってたのかと……」
「違う! 俺は、少なくとも俺は、そんな軽い気持ちで夜這いに来たりなんかしない!」
時が止まったかのように見つめ合う二人。アルヴィンはなにも言わずに、セシリアの次の言葉を待った。
すると彼女はアルヴィンの瞳を覗くようにして、言葉を紡ぎ始める。
「ねぇアルヴィン。あの丘で、初めて会った時、こう言ってくれたの覚えてる?」
「え?」
「オレンジとトマトを交互に植える案を出したら、あなたは『それはいい! そうしよう!』って言ってくれたのよ。私その時から、アルヴィンのお嫁さんになるって、決めてたの」
それは、アルヴィンがセシリアに恋心を持つ前の話だ。最初からそんな気持ちを持っていてくれていたことに驚いた。目の前にいる愛しい人は、瞳を潤めて優しい笑みを溢れさせている。
「じゃあ、セシリアも俺を……」
「ええ、好き。大好き」
セシリアがそう言ってくれた瞬間、アルヴィンは窓越しにセシリアを抱きしめた。窓の桟がお腹を圧迫して痛い。それでも構わずセシリアを抱き寄せる。彼女が折れてしまうんじゃないかと思うくらい、力一杯。
「ア、アルヴィン!」
「部屋の中に入れてくれ、セシリア。俺、もう……やばい」
身体中が、燃えるように熱くなっていた。頭まで沸騰していそうだ。腕の中でセシリアがコクリと首肯してくれる。
「うん……いいよ」
アルヴィンは一度離れると、窓に足をかけてひょいと部屋へ飛び込んだ。ふと鼻を掠めるのは、彼女らしい柑橘系の香り。ふと見ると、オレンジがテーブルの上に置いてある。アルヴィンはそれをひとつ手に取った。その動作を見たセシリアは、少し照れ臭そうに微笑んでいる。
「あのね、それ、アルヴィンが初めてトマトを持って来てくれた日から、毎日用意してたの。ここで、一緒に食べてほしくて」
「そうなのか」
しかしアルヴィンはそれを一旦テーブルに戻した。そして真っ直ぐにセシリアを見つめる。
「食べるのは後でもいいか? 俺、勢いに乗った時じゃないと、できそうにない」
正直なアルヴィンに、セシリアは両頬を紅潮させていた。それはもう、トマトのように赤く。
「わかった……でも私、窓からの侵入者を受け入れるのは初めてで……」
なにかを言ってあげたかった。大丈夫だとか好きだとか、安心させる言葉を言ってあげたかった。
けど、もう待ってなどいられない。アルヴィンは強引に彼女の唇を塞ぎ、そのままベッドへと倒れこんだのだった。
***
アルヴィンはいつものように、コツンと窓を叩いた。
中からは恋人が嬉しそうな笑顔で対応してくれる。
「アルヴィン、どうしたの? すごく嬉しそう」
「あの丘の所有者と話をつけてきた。格安で売ってもらえることになったぞ!」
「え!? 本当に!?」
アルヴィンが窓を飛び越え、セシリアは当たり前のように迎え入れてくれる。
そうしてアルヴィンは大きく息を吸い。
「結婚しよう、セシリア! あの丘に、オレンジとトマトを植えるんだ!」
「ええ! 赤と黄色と緑の、コントラストが綺麗な畑になるわね! 楽しみ!」
承諾の言葉を聞いたアルヴィンは、強くセシリアを抱きしめた。そしてまた、彼女も抱きしめ返してくれる。
大切な人を、誰よりも愛する人を。その手におさめたアルヴィンは、想いを噛み締める。
喜びを二人で共有できる幸せ。
そして、共に夢を叶えられる幸せ。
たくさんの幸せが二人を包み、抱き合いながら未来へと思いを馳せた。
種を蒔いた作物たちは、やがて立派な実をつけるだろう。
野菜たちが結んだ縁で、二人は新たな種を植える。
その種は、やがてかけがえのない生命として、この世に生まれてくるだろう。
二人の赤ん坊として生まれるその命は、とても大きな実を結ぶに違いない。
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ファレンテイン貴族共和国シリーズ
『野菜たちが実を結ぶ〜ヘタレ男の夜這い方法〜』
『夢想男女』
『元奴隷とエルフの恋物語』
『幼馴染みの騎士と結婚したいのに、振り向く気配がないのは何故? これでも令嬢よ!』
『マーガレットの花のように』
『娘のように、兄のように』
『君を想って過ごす日々』
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