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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第六章 恐怖の幽霊屋敷
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081:絵手紙

 王家の騒動から、数日後。一行は、王都ドラゴヘルツを出て東に進み、キーベという小さな村にいた。

 後のことはこれから考えるとして、とりあえず王都からは出よう。一行は夜のうちに城下町を出て、一番近い農村に行ったのだった。

「――で、これからどうするの、ライ?」

 ジェス達は農村の宿――宿というほどのことでもなく、村長の家に、いくばくか金額を払って泊めてもらっているだけだが――で、今後の方針を話し合っていた。

「うーん。これといって目的はねえし、今まで通り自由に旅しようぜ、冒険者として。ま、フォレスタニアとはちょっと勝手が違うけどな」

「どういうこと?」

「フォレスタニアと違って、ドラゴニア大陸には自由に活動する冒険者は少ないんだよな」

 その理由は主に二つある。

 一つは、魔物が強いこと。それなりに腕の立つ冒険者でなければ、野営しながら旅をするのは危険だからだ。この点については、ジェス達は実績のある冒険者パーティなので問題はない。

 もう一つは、王家の力が強く、魔物退治は王国の警備隊が国を挙げて行っているから、冒険者に仕事を依頼しようとする人間が少ないのだ。

「フォレスタニアは、個々の村や街での自治性が強い。ドラゴニアはそれに比べ、税の負担は重い分、村や街はそれぞれの領主や国がちゃんと守るからな。山賊被害なんかも少ないぜ」

「そうなると、腕に覚えのある人は、冒険者になるより、国や貴族に雇われる兵士を目指すってわけね」

「そういうこと。実力次第で出世できるしな」

「じゃあ、この国で冒険者としてやっていくのは難しいってこと?」

 ジェスがライに相談する。今まで彼らは、路銀は依頼をこなしてもらった報酬で賄ってきたのだ。

「そこはまあ、やりようだろ。国の兵が動かないような内容の依頼なんかむしろ、引き受け手が少ない分、こちらが仕事を取りやすいだろうし。冒険者に仕事を依頼する際の相場が決まってない分、交渉次第では儲けられるかもしれねえな」

「そっか。やっぱり僕としては、ドラゴニアにせっかく来たなら、見たことない場所に行ってみたいから、このままこの大陸を回りたいかな」

 ジェスは、地図を広げながら楽しそうに言う。もともと根っからの冒険者なのだ。知らない土地を巡るのはわくわくする。

 そこで四人は相談し、このまま東に進み、クロウの街に向かうことにした。比較的大きな街なので、まずはそこを目指すのがいいだろうということになったのだ。

「まあ、道案内はライに任せたよ!」

 ジェスがぽんとライの肩を叩く。ライは苦笑した。

「俺、そんなに王都の外に出たことねえからな……。俺も王都より東は初めて行く場所も結構あるぜ」

 このキーベの農村だって、ライは来たのは初めてだ。わくわくしているのは、ライも一緒だった。



 アイリスは、宿の部屋で机に向かって、考え事をしていた。

「あら、アイリス、どうしたの?」

 マリラが尋ねると、アイリスは、照れたように笑って答えた。

「修道院に、手紙を書いてるんです」

「手紙? ……そっか、マルソ院長、心配してらっしゃるでしょうしね」

 色々騒動はあったが、無事にマリラの呪いが解けたことを伝えた方がいいだろうと、アイリスは手紙を書いていた。

「無事に届くか、分かりませんが……」

「そうね……念のため、何通か出した方がいいかもね」

 一般に手紙は、街や村を行き来する商人や冒険者などに手渡しされ、何かのついでに届けられることが多い。途中で紛失することも多いし、時間もかかる。なお、貴族や国であれば、伝令を雇っていることもある。

 マリラはアイリスの手紙を後ろから何の気なしに覗き込んで、あら、と声をあげた。

「その手紙の絵、アイリスが描いたの?」

「あ、はい……その、景色が綺麗だったので」

 恥ずかしそうにしているが、絵がかなり上手だったのでマリラは驚いた。村から見える、切り立った山々を見事に写しとっている。

 ライとジェスも、それを覗き込んだ。

「へー、ドラゴニア北の山脈をこうも見事に描くとはな」

「絵、上手なんだね、アイリス!」

 次々に褒められ、アイリスは照れて顔を赤くした。

 長く一緒に冒険をしているが、お互いにまだ知らない一面があるものだ。

「私なんか、そんな、全然です」

「そんなことないわよ。そういえば、前ジェスが描いた絵もなかなか上手かったわね」

「え? 僕、絵なんか描いたことあったっけ?」

「ほら、魔物退治の話の時に」

「ああ、あれ」

 アイリスは首を傾げた。

「まだアイリスが仲間になる前かなあ? 僕とライでした魔物退治の話をした時に、マリラがどんな魔物だったの、って聞くから、絵で説明したんだよね。でもあれは、絵っていうより図じゃないかなあ」

 そう言いながら、ジェスは余っている紙を貰って、魔物の絵をさらさらと描いてみせた。翼の生えた、四つ足の大きな魔物の絵。アイリスはそれが何かすぐ分かった。

「あ、屍竜の絵ですね?」

「特徴とらえてるわねえ」

 ジェスはちょっと照れて頬をかいた。

「マリラも絵、上手いよね?」

「え? 私こそ絵なんか描いてみせたことあったかしら?」

「えっとほら、魔法陣を描いてくれた時あったよね」

「それこそ、絵っていうより図じゃない? ……ところで」

 マリラは、さっきから会話に加わってこないライを振り返った。

「……ライ、さっきから何か、こっちの話を避けてない?」

「気のせいだろ」

 明らかに視線を逸らすライ。マリラはくすりと、少し意地の悪い笑みを浮かべた。

「ライの絵も見てみたいわね」

「……くっ」

 分かって言ってやがるな! と半眼でマリラを睨むライ。それを意に介さず、これは面白いものを見つけたと笑顔のマリラ。

「いいじゃないの、別に笑ったりしないわよお」

「すでに笑ってるじゃねえか!」

 紙とペンを突き出しながらからかうマリラと、逃げるライ、子供のようにじゃれる二人の様子を見て、アイリスはちょっと首を傾げたが、何も言わなかった。

 そんな二人をよそに、ジェスは、ぽんと手を叩く。

「手紙かあ……あ、そうだ、いいこと思いついた」

「ジェスさんも誰かに手紙を書くんですか?」

「ううん、そうじゃなくてさ、僕達はこれからドラゴニアをあちこち旅するわけだし、僕達が行く方向に届けられる手紙があれば、それを預かる仕事をするのはどうかなって。それほど荷物にならないだろうし」

「いいですね、冒険者が少ないんでしたら、なかなかお手紙を届ける機会がない方もいるかもしれませんし」

 アイリスは再び、手紙に向き合った。先に風景画を描いたが、実はまだ肝心の文章が書けていない。

 どうかこの手紙が、無事に届きますように。

 そんな祈りを込めて、アイリスは丁寧な字で、文章を綴り始めた。

 私達は元気にやっています、と。


 一方。マリラはライの絵を見て、申し訳なさそうに言った。

「……な、なんか……ごめんね、ライ」

「謝るなよ! むしろ辛いだろうが!」

 笑いたければ笑え、とライは赤くなった顔でマリラを睨むが、これはとても笑えるというレベルではない。

「……えーっと……」

 マリラは真剣に考える。まるで小さな子供に筆を持たせてみました――というような仕上がりの絵だ。この絵は一体、何を描いたのか。

 これは、芋? いや、芋はないわよね。普通絵を描くんだったら、動物とか、花とか、そういうのを選ぶわよね、多分……。

 ぷい、と真っ赤な顔でそっぽを向くライに申し訳なく、必死で絵を解読しようとするマリラはつくづく思った。

 本当に、長く一緒に旅をしていても、お互いまだ知らない一面があるものだ、と。

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