表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第五章 竜の大陸と剣の王
76/162

076:黒幕

 アイリスが呪文を唱え、優しい光がアルロスを包んだ。その場にいた怪我人全員の傷の治療を終え、アイリスは一息ついた。

「あの……怪我させちゃって、すみません。あんまり覚えてないんですが……」

 マリラが、吹き飛ばしたことをアルロスに謝る。アルロスは首を振った。

「いや、あなたが普通の状態でないことは、分かりましたし……それにしても、呪いとは……」

 人を魔物にする呪いなど、恐ろしいものがあるものだ。



 ファルトアスは、ライ達をレイチェラと共に別の部屋に連れて行き、事情を聞いた。なお、眠っているガルドラ王は、ジャズデンが寝室に運んでいる。

 逃げ出すのは無理だろうと判断したライ達は、大人しく全ての事情を正直に話した。

 それをファルトアスは黙って聞いていた。この状況で自分達の話を聞いてくれるのはありがたいが、何を考えているのかまるで読めないと、ジェス達は感じた。

「ところで、ファルトアスは何故、こんな時間に王城に来ていたの?」

 レイチェラの問いに、ファルトアスは淡々と答える。

「暗殺者らしき者が城から逃げ出したとの目撃情報があったから、念の為に様子を見に来た。ついでにオロン・ロンドベルがついに尻尾を出したから、捕らえた報告をと思ってな」

 オロン・ロンドベルって誰だっけ? という顔をマリラがしたので、ライは説明する。

「謁見の間に若い男がいたろ? 姉上の婚約者だ」

「いえ、婚約は破棄するわ。レオンハートを暗殺しようとしたのだから」

 レイチェラの発言に、ライとアルロスは固まった。

「何だって?」

「二年前から怪しいと睨んでいたが、公爵家を捕らえるほどの証拠が今まで掴めなくてな」

 ライが急に戻ってきたことで、何か不穏な動きがないか、ずっと監視を続けていたのだという。ライは呆然とし、アルロスも、唇を噛んで下を向いている。

「しかし、レイチェラに送られた暗殺者は、利害関係から考えるに、オロンの手の者ではあるまい」

「あ、それって、ベルガとザンドのこと……?」

 ジェスが発言すると、場の全員がジェスを見た。

「知ってるのか」

「あ、いえ、さっき僕達が足止めされてた相手で……王女様のこと、剣が強いって言ってましたから」

 ザンドは去り際に、『ドラゴニアの王女も王子も、大した剣の腕前だ』と言っていた。ジェスがベルガとザンドの特徴を伝えると、レイチェラは頷いた。

「その魔法使いの男の方は知りませんが、女盗賊の方は間違いないでしょう」

「君達と戦って逃げたか。できれば捕らえて、黒幕を吐かせたかったが」

 しかし、レオンハートとレイチェラが両方狙われたという事から、黒幕の目的が見えにくい。

 だが、王家の人間を暗殺しようとする者を、放っておくわけにはいかない。ファルトアスは思案した。

 そこに、またジェスが発言し、皆の注目を集める。

「それなんですが、僕に心当たりが……」

「はっ?」

 ジェスのまさかの発言に、ライも驚く。

「僕はこの城のことはよく知らないですし、推測でしかないですけど……」

 ジェスが自分の考えを話すと、ライとレイチェラは驚き、ファルトアスは面白そうに鋭い目を光らせた。

「なるほど。しかし、君の言う事が本当か、確かめる必要があるな」



 翌朝――謁見の間には、王城の重要人物が集められていた。

 第一王女レイチェラと、第一王子ファルトアス。

 その横に控える第一兵士隊長ジャズデン。

 宮廷魔術師のヘリプローザ、宰相のイースクリフ。

 ガルドラ王の姿はない。

 そんな緊迫した空気の謁見の間の様子を、扉の隙間から伺いながら、ジェスはため息をついた。

「緊張するなあ……」

 相変わらず冒険者の格好をした一行は、アルロスに連れられ、謁見の間まで来ていた。

「アルロス、そっちはどうなんだ?」

「部下に滞りなくやらせている。それより、今日は忙しいんだ、早くやるぞ」

 アルロスは、扉を開いた。そして、ジェス、ライ、マリラ、アイリスは、再び謁見の間を訪れることになった。


(よかった、きれいに片付いてる……)

 謁見の間に入った瞬間、マリラは場違いにもそんなことを考えた。絨毯は取り替えたのか、染みも焦げもない。四人は前持って言われた通り、横一列に並んで跪く。

 その四人の前に、ファルトアスが出て、宣言する。

「レオンハート王子へ、罪状を述べる。供を引き連れ、警備兵を気絶させて城へ侵入した。レイチェラ王女への暗殺行為、ならびに城の宝物の略奪を行った。これは我が国を脅かす企てである。何か申し開きはあるか」

 四人とも黙り、下を向いたまま微動だにしない。

 ファルトアスはじっと四人を見た後、ヘリプローザに命令した。

「ヘリプローザ。レオンハート王子の口を割らせ、真実を聞き出せ」

「……畏まりました」

「魔法を使っても構わん。どうせ供の者達は何も知らぬであろうから、放っておけ」

 ヘリプローザは、恭しく礼をすると、ファルトアスと入れ替わるように前に進み出た。

 ヘリプローザが杖を取りだし、その先を、呪文をかけるべき相手の額に向けて、宣言した。

「――では、レオンハート殿下。覚悟はよろしいですか」

 そうヘリプローザが言った途端、周囲がざわめく。ヘリプローザが、呪文を小さな声で呟こうとした時――ジェスは、自分に向けられた杖を避けて、立ち上がった。

「……僕のことを、レオンハートと呼びましたね」

 ジェスの黒い瞳が、ヘリプローザを見据えた。

「この期に及んで、何を仰るのですか……」

 ヘリプローザは答えたが、すぐに何かがおかしいと感じる。ライ、マリラ、アイリスも立ち上がり、ヘリプローザを囲んだ。

「ジェスから話を聞いた時はまさかと思ったが、まさか本当に宮廷魔術師が俺の顔を知らないとはな……お前の前にいる黒髪の青年は、王子じゃない。俺が、レオンハート・エムロイド・ドラゴニア。あんたが本当に暗殺したかったのはこの俺だよ」


 ジェスは、ライを守るように横に立ち、いつでも剣を抜けるように身構えた。マリラやアイリスも、ヘリプローザの魔法を警戒しながら、成り行きを見守る。

 相手を取り違えたことに、当のヘリプローザも硬直していた。

「ライ……じゃなくて、レオンハート王子と僕は見ての通り、目や髪の色が違うし、背格好も似ていません」

 それなのにベルガは最初からジェスを狙っていた。ザンドも相手を間違えていたのは何故か。

 それは、最初から標的を間違えて伝えられていた――つまり、ベルガとザンドの雇い主も、レオンハート王子の顔を知らなかったからではないのか。

「この城は今、陛下のご病気を隠すため、ごく僅かな側近しか置いていません。侍女たちも皆、昔馴染みの者達です。一年前に城に来た、ヘリプローザ、貴女を除いて」

 レイチェラが言う。

「二年前、陛下はレオンハートの出奔に怒り、レオンハートの全ての肖像を焼いてしまった。だからお前はレオンハートの顔を見る機会がなかった」

 続け、ファルトアスが言う。

「僕達四人と、ヘリプローザさん、貴女が会ったのは、あの謁見の時だけでした。その時僕達は、レオンハート王子を含めて、全員冒険者の格好をしていたし、一言も話せなかった。だから間違えたんですね。――長剣を提げている僕の方が、王子だって」

 ドラゴニアの王子である以上、必ず剣の腕を求められる。ライももともと、王城内では剣の腕を評価されていたのだ。成長すれば、レイチェラに並ぶと期待されるほどには。

 レイチェラは王女であるが、常にレイピアを提げている。剣の腕に優れているからだ。

 ドラゴニアの王族は剣を提げているというのは、常識だったのだ。だからこそ、ライは敢えて長剣を持っていなかったのだが。

「レオンハート殿下の一件で、城の警備はかなり強化されました。その中で、暗殺者が入り込む、もしくは、以前から匿われていたのだとすれば、城の内部に手引きした者がいたと考えるのが妥当でしょう」

 アルロスが、腰の剣に手を当て、いつでも抜けるようにしながら、ヘリプローザを追い詰める。

「つまり、城の中にいながら、俺の顔を知らないのが、暗殺者の黒幕――アンタしかいないって訳だ。何か申し開きはあるか?」

 ライがそう聞いたが、その答えは顔面蒼白になりながら震える、ヘリプローザを見れば明らかだった。

今、アルロスの部下が、ヘリプローザの部屋を探って証拠を探しているが、それを待つまでもないだろう。

 ヘリプローザは、その美しい顔を歪め、杖を取り落として膝をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ