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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第五章 竜の大陸と剣の王
58/162

058:賭け事

 南の島を出て、さらに数日――航海は順調だった。船の帆は風を受けて膨らみ、船はぐんぐん進んでいた。

 そんな船の甲板の上で、マリラは風に吹かれていた。

 見える景色はどこまでも青い海。最初の方こそ新鮮だったが、代わり映えしない景色に徐々に飽きてくる。

 マリラはため息をついた。

 船の上では、基本的にやることはない。暇だ。

 そうすると、どうしても考えてしまうのは、自分の体を蝕む呪いのことだ。左手から始まった痣は、徐々に左腕を包んでいき、今は鎖骨の辺りまで伸びてきていた。

「……くっ……」

 不定期に襲ってくる、胸の苦しさには、慣れることはない。必死に息を落ち着けるが、動悸はなかなか収まらない。

 この胸苦しさの発作の後は、決まって痣が広がっている。このペースで呪いが広がっていくと、あと半月程度でマリラは呪いに覆われてしまいかねない。

(やだなあ、今はローブの下だけど、顔に先に広がってきたら……)

 そんなことを考えていると、マリラを呼ぶ声がした。

「……あ、マリラ!」

 よく知った声に振り向くと、ジェスが手を振っていた。

「探してたんだ。今、船室で皆で遊んでるんだけど、マリラも来ない?」



 暇を持て余していたし、特に断る理由もない。

 マリラがジェスに連れられて船室に行くと、アイリスとライ、それから休憩中の船乗りの男が、賽子と椀を手に輪になっていた。

「よし、俺の勝ち」

「ライさん、今の……」

「ハッタリかましてたな、兄ちゃん」

 賑やかな様子を見ると、どうやら遊びは盛り上がっているらしい。

「何してるの?」

「おー、マリラ。やるか? 賽子遊び」

 それは、船員たちから教わった遊びだという。

 それぞれ、賽子を三個ずつ椀の中で振り、出た目は自分にしか見えないように隠す。

 そして、場に出た全体の賽子の目――三人で遊ぶ場合は九個になる――の目を順番に予想する。

 誰かのした予想が外れていると思えば、それに物言いをつけることができ、その時に全員の賽子の目を確認する。

 結果、予想が外れていれば、物言いをつけた人間の勝ち、その予想をした人間の負けとなる。逆に予想が当たっていれば、物言いをつけた人間の負け、予想をした人間の勝ち。

「本来は賭け事だけど、ま、今回は金をかけるのはなしで」

「ふうん……」

 ルールを一通り聞くと、マリラは賽子と椀を手に、船員の男と交代する形で座る。

 ライ、アイリス、マリラは椀の中で一斉に賽子を振った。


(4、4、6か……)

 マリラは自分の目を見て考える。

 場にある賽子九個のうち、少なくとも二個は4、一個は6ということだ。

 期待値を計算すれば、4は場に三、四個程度はあるだろうか。他の数は一、二個程度だとは思うが、確かなことは分からない。

「じゃ、俺から。1が二個」

「えーと……2が二個です」

「4が二個」

 ここでライ、アイリス、マリラの順に予想が一巡した。予想は徐々に賽子の目か、個数の数字を吊り上げなくてはならない。

「ん、じゃ、4が三個」

「……2が四個です」

 ライ、アイリスが予選を終えたところで、マリラは考える。

(ああ言うってことは、アイリスのところは2が多そうだけど……ライも4を多めに出してきたってことは、4があるのかしら?)

「じゃあ、4が四個」

 マリラが考えて予想を口にすると、ライは、ふっと笑った。

「じゃ、オープンで」

 一斉に椀をどかして賽子を見せ合う。

 ライの目は1、3、6、アイリスの目は2、2、4、だった。

 つまり、マリラの負けである。

「……。」

 マリラは目を見て、しばし考える。

 何これ。ライのところ、4の目が一つもないじゃない。……これは、ライは私を狙ってたっていうのは、考え過ぎかしら?

 マリラがそっとライを見ると、ライはこちらを見て、にやりと笑っていた。

(………!)

「ま、こんなもんで。今ので要領は掴んだだろ。次はジェスも入るか?」

「僕は弱いんだけどなあ」

 そう言いながら、ジェスも輪に入る。

 四人で賽子を振りながら、マリラは心の中で標的をライに絞った。


 それから――。

 延々、食事の時間が来るまでマリラはライを負かすべく、賽子を振り続けた。



「よし! 勝った!」

 運が味方し、ようやくマリラはライを負かすことができた。

 ジェスとアイリスはとっくに抜け、最後の方は粘るマリラが何度もライに勝負を挑み、ほぼ二人で遊んでいた。

「何連敗もした末に勝ったって……こんなことなら金を賭けりゃよかったか?」

「パーティの財布はほとんど一緒でしょうが」

「ま、確かに」

 ジェス達のパーティでは、仕事などの報酬は、一旦パーティ全体で必要な経費を差し引いた後に、等分して渡している。

 とはいえ、旅をしていれば個人でそれほど物を持つことはできないし、宿代や食事代は、経費として数えているので、ほとんどが経費、パーティ共通の財布になっているので、結果として、ほぼパーティ四人は財布を共通にしているのと変わらない。

「それより、腹減ったし、もう終わりにするぞ」

 ライは苦笑し、賽子を椀に片付け始めた。


 その様子を見ながら、ジェスとアイリスはこっそり話す。

「ライさん、本当に強いですね。……私を相手にしてた時って、手加減してたくらいなんですね」

 このゲームは、運の要素ももちろん強いが、駆け引きが物を言う。

 ライは、相手の表情や、予想を言うまでに考える時間、それらを巧みに読んでいる。一方で、表情を隠すのも上手い。きわどい予想をされても、余裕の笑みだ。

「……マリラも頭いいんだけどね、割と感情が顔に出るから」

 ジェスの言葉に、アイリスは微笑む。表情豊かなのはマリラの魅力的な所だが、こういう賭け事には向かないのかもしれない。

 だから、マリラが皆に心配をかけまいと、不安を隠して、気丈に振る舞っているのは、どうしたって伝わってくる。

 これが、そんな彼女の気晴らしになったならいいのだけど。

パイレーツ・オブ・カリビアンで海賊がサイコロで遊ぶシーンありますよね。

作者もよく高校の時はこれやってました。(詳しくは「ブラフ」で検索してください)

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