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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第四章 修道院の聖女
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046:剣技

 ジェス、ライ、マリラ、アイリスと、双剣を腰に差したエデルの五人は、修道院の敷地を出てしばらく歩いていた。

 修道院の周辺に跋扈する魔物を退治するためである。ジェス達も魔物の状況を見ておきたい。

「私は少し前にここに来たんだが、魔物の多さに、ここで魔物退治を請け負った。一人では警備が足りないと考え、冒険者を集めるように院長に勧めたんだ」

 エデルは、どうやらここにしばらく滞在して、魔物退治をしていたらしい。

「え? エデルさんは、一人で旅をしているんですか?」

「ああ」

 言うまでもなく、一人旅は危険だ。当然、魔物に襲われた時も一人で対応しなければならない。それは、彼女の腕が相当立つということなのだが。

 エデルは武芸大会で優勝するほどの剣の腕前だ。ジェスもその時剣を合わせたが、まるで歯が立たなかったといっていい。

 そうして歩いていると、不意に地面が揺れる。


「来たか!」

 振動と共に、土の中から、魔物が飛び出した。

 泥まみれの、骸骨のような魔物は、ガチャガチャと骨をぶつからせながら近付いてくる。

「せやっ!」

「はっ!」

 ジェスとエデルが、同時に剣を抜き、素早く一体を叩き伏せる。魔物はバラバラに崩れて倒れた。

「まだまだ来るわ!」

 一行を取り囲むように、地面に穴がぼこぼこと開き、魔物が次から次へと出現する。軽く十体はいるだろうか。かなり数がいる。

 エデルは素早く跳躍し、両手の剣を目にも止まらぬ速さで振るっていく。数体の魔物に同時に襲われても、一体を確実に切り倒しながら、片方の剣で別の魔物からの攻撃を防ぐ。

 武芸大会でジェスが苦戦した、攻守ともにバランスの取れた、双剣の見事な技だ。

 ジェスとライもまた、それぞれ剣を振るって、魔物を倒していく。

「よし!」

 三人の前衛に守られ、マリラは呪文の詠唱に集中することができた。〈火球〉をぶつけ、魔物を吹き飛ばす。

「――まだ穴から出てきてます!」

 まだ残りの魔物は地下に潜んでいるらしい。自分達の足元から不意をつけて攻撃されないよう、アイリスは〈護り〉の呪文を自分達の足元に向けてかけた。

 魔法の障壁が、五人のいる地面の下に生まれ、今まさにジェスの足を掴もうと、土の下から伸びてきた骨の手が、見えない壁に押されて砕けた。

「よっしゃ!」

 残りの魔物たちは、仕方なく少し離れた地面から飛び出てきては、一斉に襲い掛かってきたが――。

「遅い」

 魔物たちは、共に素早い動きを得意とする剣士たちに、あっという間に地に叩きつけられた。



 地面の揺れや、魔物の気配がなくなったのを確認して、一行は武器を下ろした。

 土骸骨は、倒しても剣に魔物の血肉が付くことはないが、泥がついてしまう。ライは短剣を軽く振るって鞘に戻した。

「それにしても、近くで見ると迫力あるわね、エデルさんの剣技」

 この戦闘で、もっとも多くの魔物を倒したのはエデルだった。ジェスやライも、決してその実力は低くないが、彼女の剣技はやはりずば抜けている。

 ジェスも頷いた。あの武芸大会以降、自分も剣の腕を上げたとは思うが、やはり彼女には敵いそうにない。

「剣の振りが素早いですよね」

 細身の剣なのもあるだろうが、彼女の剣技はとにかくスピードで相手を圧倒するのだ。

「私はドラゴニア出身だからな」

 彼女は褒められたことには肯定せず、ただ一言そう言った。

「ドラゴニア……どういうこと?」

「ドラゴニアの剣術は、敵からの攻撃を受けることより、避けることを重視する。身軽な装備で俊敏に動き、的確に相手の急所を狙うものだ」

「そうなんですか」

 ジェスも剣士なので、興味深く聞いた。

「かつて、古代王国との戦いがあった際、ドラゴニアでは竜と人が激しく争ったことから、このような剣術が発達したそうだ」

 竜の爪や牙で襲われれば、どんな鎧を着ていてもひとたまりもない。自然、攻撃はかわす必要が出てくる。

「対して、フォレスタニアの剣術は、重装備を着た戦士のもので、相手の攻撃を受ける動きが多い。こちらは古代王国との戦いの時代に、魔法使いとの戦闘が中心だったことや、魔法の武具が多かったことによるらしい」

 フォレスタニアには古代魔法王国があったため、非常に優れた魔法の防具が多く存在した。ならばその防具で攻撃を受ければよい、というのが理由の一つだ。

 また、魔法に対しては、精神を集中させて抵抗することになる。体を動かして避けるより、その場で精神を統一して耐える必要があったことから、体を大きく動かさない剣術が発達した。

「なるほど……勉強になるわね」

 マリラは感心した。

「というと、ジェスの剣術も避けるタイプだから、ドラゴニアのそれに近いのかしら?」

「僕のは自己流だよ。体格でやむなくそうしている面が強いし」

 ジェスの父は、典型的なフォレスタニア流の剣術使いだったのだが、ジェスの動きは、母から教わった盗賊の技に近い。

「そうだな。どちらかといえば、ライの短剣捌きの方が、ドラゴニアの剣術に近い動きだな」

 エデルの言葉に、ライは軽く肩を竦めただけだった。



 それから一行は、また別の魔物の群れを倒し、また、そこから帰る途中でも二回ほど魔物と戦闘になった。

 幸い、魔物自体はそれほど強くはなかったが、とにかく数が多いように思う。

「……本当に、魔物が多いですね」

 アイリスの声は沈んでいた。

 こうして退治に出ていることが、果たして有効なのかどうか疑うほどだ。

「まるで次から次へと沸いてくるな」

「……。」

 マリラは腕を組んで考えた。

 やはりおかしい。

 急激に魔物が増えた原因が、何かあるように思える。

「まあ、今日は疲れたし、食事にでもしようよ」

 ジェスはそう言った。食事は修道院側で出してくれており、礼拝堂に運んできてもらっているという。

「そうね。私も行く。アイリスは?」

「そうですね……」

 アイリスは元々ここの修道女なので、食事は、修道女の皆と一緒に食堂で食べるということもできる。

 本来、実家に帰ったようなものだし、アイリスもお世話になった皆と共に食事がしたい。だからこそ、あのよそよそしい態度には、どうしていいか分からないという気持ちもある。

「……私も礼拝堂に行きます。他の冒険者の皆さんとも、ご挨拶しておきたいですし」

「そう」

 マリラはアイリスの頭を撫で、優しく微笑んだ。

「だな、俺らも明日からは、修道院の警護やら、ローテーションに組み込まれるわけだろ? 相談がてら、行くか」

 そう言って礼拝堂に向かって歩き始めた四人に、エデルは背を向けて、反対方向に歩き始めた。

「あれ? エデルさん、食事は?」

「……私は部屋で食べる」

 それだけ言って、さっさと行ってしまう。その背中を、ぽかんとした顔で一行は見ていた。

「何だあれ」

 ライは思わず呟いた。

 実は、集団行動が苦手なのだろうか? 一人旅をしているというのも、何やら訳ありのような気がするが。

「……まあ、行こうか」

 廊下を進み、礼拝堂に入る大きな扉を開けた。入って目につくのが、大きな龍の像だ。

 その姿に、ジェス達は感心し、アイリスは懐かしさを覚える。

 銀に輝く聖龍の像の瞳は、静かに一行を見下ろしていた。

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