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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第三章 霧と迷いの森
30/162

030:山賊退治

「山賊退治ね……。まあ、いいわよ」

 いきなりのことで驚いたが、マリラは協力してほしいというジェスの申し出を受けた。本心を言えば、仕事のないマリラには、願ってもない話だった。

「助かったよ。二人じゃ厳しいと思ってたところなんだ」

「さっきの眠りの魔法があれば、大人数相手でも何とかなりそうだな」

 ジェスとライの言葉を聞き、マリラは驚いた。

「ちょっと待ってよ。まさか二人だけで山賊を退治しようとしてたの?」

「うーん、それは色々と事情があって」

 頬をかくジェスに、ライが事情を説明した。

「もともと、山賊に荷物を奪われた商人からの依頼でね。荷物を取り返してほしいってことだったなんだが、運悪く店を移動させようと全財産を持った時に襲われたらしいんだ。だから、冒険者を雇おうにも金がないとのことでね」

 前金なし、成功報酬は山賊から取り返した荷物の中から払う、という条件だという。

「……じゃあ、下手したら、全然報酬が入ってこない可能性があるじゃない」

 マリラは呆れて聞いた。

「ああ。だからこの依頼は全然引き受け手がなかった。それをまあ、ジェスは商人の困った顔を見ていられなくなって、引き受けた、というわけだよ」

「……乗り掛かった舟よ。それでもいいわ」

 今のマリラにとっては、冒険者の実績を作る方が大事だと考えて、この下手すればタダ働きの依頼を手伝うことにした。

「ありがとう。君の名前は?」

「マリラよ。よろしく」



次の日、マリラは、ジェスとライと共に、山賊のアジトがあるという北西の森に向かっていた。

なお、山賊から奪い返した荷物を持ち帰るべく、依頼主から預かった空の荷車を男二人でがらがらと引いている。

「商人の奪われた荷物は何なの?」

「服を扱う商人で、ほとんどがドレスらしいよ。あとは金貨を数袋ほど持ってたたしい」

「そんな大金を持って歩く方が不用心だったんじゃないの? 先に金を使って、護衛をつけとくべきだったわね」

 マリラの指摘はもっともなので、ジェスとライは苦笑した。

 森の中をしばらく歩いていると、家が見えてきた。家の前には、明らかに人相の悪そうな男が二人、見張りとして立っている。

「……さーて……」

 目立つ荷車はそこに残し、一行は木や茂みに身を隠しながら近づいた。充分魔法が使える範囲まで近づくと、マリラは杖を見張りの男に向けて、〈眠りの雲〉の呪文を唱えた。

 不意打ちということもあり、男たちは抵抗できずにその場でばったりと倒れた。

 ライとジェスは辺りを見渡してから眠った二人に近づき、素早く猿ぐつわをして縛りつけた。

 ライは扉に耳を当てて中の様子を伺った。

「人数は少ないな。行くぞ」

「分かった」

 ジェスとライは、扉を開けて一気に突入した。後ろからマリラも続く。

 突然の襲撃に、中にいた山賊の男たちは驚いたが、すぐに武器を取って向かってきた。しかし、それより早くジェスは剣を横に一閃させて相手の手首を叩き、武器を取り落とさせる。

「はっ!」

 マリラは攻撃を受けないように壁際で様子を伺い、隙があれば魔法で援護しようとしていたが、その必要はないようだった。

 二人だけで旅をしているというだけのことはあり、両者ともかなり腕は立つようだった。ジェスもライも、息のあった素早い動きで、あっという間に敵を倒していく。

 どさり、と最後の一人が気を失って倒れたところで、ジェスは周囲を見回した。

「聞いていたより少ないな……。まだ他にいるのかもしれない」

「ああ。早いところ、荷物を取って引き上げるか」

 依頼は、あくまで荷物の奪還であって、山賊一味を退治することではない。

「マリラは仲間が帰ってこないかそこで見張ってて」

「ええ」

 マリラは窓から外を伺っていた。その間に、ジェスとライはアジトを捜索し、倉庫らしいところに積まれた女物のドレスを見つけた。

「金はこれだけか? 少ねえな……」

 金貨も見つけるには見つけたが、聞いていた額より明らかに少ない。

「使われてしまったのかも。とりあえずある分だけ持っていこう」

 女物のドレスは、かなりかさばるし、見た目以上に重い。ジェスとライはドレスを両手いっぱいに抱えた。男二人は両手が塞がっていたため、マリラは金貨の袋を持った。

「おっと……あ、ドア開けてくれ」

「はいはい」

 三人は荷車のところまで走り、ジェスとライは前が見えなくなるほど抱えていたドレスを荷台において、やっと息をついた。

「……さあ、早く街に戻ろうか」

 そうしてジェスが振り返った時、そこにマリラの姿はなかった。


(――……)

 ひどく頭が痛む。マリラは、呻きながら目を開けた。自分が、どこかに寝転がっていることに気付き、体を起こそうとしたが、うまくいかない。

「どうなって……」

 そこでマリラは自分が後ろ手に縛られていることに気付いた。足も縛られており、立ち上がることができない。

「!」

 はっとして目を覚ます。マリラは慌てて辺りを見渡した。

「気が付きました?」

「誰っ?」

 マリラは背後から急に声をかけられ、首だけを動かして声のした方を見た。そこには、自分と同じように縛られた女性がいた。

「……ここは? あなたは?」

 マリラの質問に、女性は悲しそうに首を振った。

「……ここは山賊のアジトです。私は捕まって閉じ込められてしまっていて……」

「ええ?」

 マリラは必死に記憶を辿る。

 そうだ、確か山賊のアジトから商人の荷物を取り返して、それで戻る途中、急に背後から口を抑えられた。そこで一気に意識が遠のいて……。

 マリラは唇を噛んだ。

「やられた……」

「私たちはもうすぐ奴隷として売り飛ばされるみたいです」

「……くっ」

 奴隷なんてとんでもない。縛られたままのマリラは、必死に床を這って、その女性の方に近付いた。

「早く逃げないと。ねえ、その腕をこっちに向けて。縄を噛み切れるかも……」

「む、無理ですよ! 私はもうここに三日も閉じ込められてますけど、ずっと上は見張りがいて!」

「大きな声を出さないでっ」

 マリラは慌ててそう言ったが、すでに遅く、マリラの閉じ込められている部屋の戸が勢いよくどんと開いた。

「静かにしやがれ!」

 顔に大きな傷のある男が、剣を持って入ってきた。マリラは男の方を睨みつける。

「ほう、気が付いたか」

「……っ」

「俺様のいない間に、随分やってくれたな。まあいい、お前を人質に残りの荷物も取り返すだけだ」

「もともとアンタの荷物じゃないでしょうが」

 マリラはそう言い返したが、山賊はフンと笑った。

「俺たちの世界じゃ、奪ったものは俺たちのものだ。男は殺して、女は奴隷市場で売ってやる」

 その言葉を聞き、マリラの横で女性はふるふると震えた。

「……。」

 マリラは考えた。

 私を人質に――?

 どうやら、この山賊たちは、どこからかマリラとジェスとライが、アジトから商人の荷物を持って出ていくところを見ていたらしい。いや、アジトの中で戦っているところまで見られていたのかもしれない。

そこで腕の立つジェスとライは、一旦逃がしておき、マリラだけを背後から抑えて、人質にしようとしたのだろう。

 しかし、問題はマリラが彼らにとって、人質になるかどうかだ。

 山賊の方は、マリラが二人の仲間だと、つまり人質になりうる人物だと思っているようだが、実際は昨日会ったばかりだ。

信頼関係もない。下手をすれば彼らは、マリラが金を持って逃げたと思っている可能性すらあるし、捕まっていることが知られたところで、助けにくるかどうか。

「……。」

 だが、それを言ったところで、マリラにとって得にはならない。人質としての価値がなければ、奴隷として売られるだけだ。

 マリラが黙っていると、山賊は戸を乱暴に閉めて出て行った。ガチャガチャと鍵のかかる音もする。

「……大丈夫よ」

 マリラはそう言って女性に話しかけたが、彼女は絶望しきったように首を振る。きれいな長い髪がさらさらと流れ、その顔を覆った。

 マリラも、こんなところで諦めるつもりはない。だが、どうしたらいいか見当もつかなかった。

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