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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第三章 霧と迷いの森
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029:再会

 買い物を済ませ、マリラとアイリスは宿に向かおうとした。

「宿ってどこでしょうね?」

「確か、青い海の渚亭っていうところだけど……」

 マリラは近くにいた、荷物を運んでいる男に声をかけた。

「すみません、ちょっと道を」

 振り返った男は、マリラを見て驚いた。

「あれ、マリラ!」

 マリラも驚いていた。その男は、かつて魔法学園の学友だった、シャイールだったからだ。



 マリラは、仕事を終えたシャイールと、久しぶりに話していた。シャイールは二人を海がよく見える高台に案内してくれて、アイリスは夕焼けの沈む海の美しさに目を輝かせた。

 シャイールは、魔法で盗みを働いた罰として、杖を没収された。今はその償いとして、商人ギルドの下、港で下働きをしているのだという。

「でも、悪くないよ。弁償が済んだら、ゆくゆくは賃金をちゃんと貰って雇ってくれるそうだから」

 港で働くからだろう、シャイールは、学園にいた頃とはずいぶん変わり、日焼けして逞しい体になっていた。

「それで一人立ちできたら、もし許されるなら、もう一度ちゃんと魔法を学びたいと思っているんだ」

「そう」

「学園はなくなったけどね。アルバトロが倒されたって話、知ってる?」

「ああ……まあ」

 マリラとアイリスは顔を見合わせた。アルバトロを倒したのは自分達なのだと伝えると、シャイールは驚いてひっくり返った。

「マリラ、君、すごいや……」

「いや、私だけの力じゃないわよ。仲間が協力してくれたから。それより、学園、なくなったの?」

「ああ、うん。もうクロニカの街は誰もいないし、荒れ果ててしまったから、街は魔物が住み着いたりしないように、リドル先生が焼き払ったらしいんだ」

「……そうね」

 リドルが学園を焼き払った場に、マリラ達も居合わせている。あの美しい街が全て焼け野原になってしまったのは残念だが、仕方のないことだった。

「先生は近くの村に移って、小さな学校を始めたそうだよ」

「そうなの……」

「それより、君の話が聞きたいな。君は今、冒険者をしているんだろ?」

「ええ。この前は古代の遺跡に行ったし……あ、それよりまだ仲間を紹介してなかったわね」

マリラはシャイールに、改めてアイリスを紹介した。

「彼女はアイリスよ。可愛いけどしっかりしてるの。あと、ジェスとライっていうのがいるんだけど」

 楽しそうに話すマリラを見て、シャイールは笑った。

「君、少し変わったね」

「え?」

 シャイールの言葉の意味が分からず、マリラは聞き返した。

「学園にいた頃の君は、何だか人を寄せ付けない感じだったのに」

「ああ……」

 マリラは目を細めた。

 それは、今の仲間と出会ったからだ。もしあの時、彼らと出会えなかったら、マリラもシャイール同様、道を踏み外していたかもしれない。



 魔法学園を飛び出し、一人で冒険者の街ギールに来たマリラは、仕事を探していた。

 魔法使いが冒険者パーティにいるのと、いないのとでは、戦力に大きな差があると言われている。だから、マリラは冒険者の街に来れば、すぐに仕事が見つかると思ったのだが、現実はそう甘くはなかった。

 まず、魔法使い単独では、魔物退治や遺跡探索などの仕事は、まず成功しないから紹介できないと言われた。前衛がいての後衛である。

第一マリラだって、いくら魔法が使えても、一人で魔物退治ができるとは思えなかった。

 ならば、別の冒険者パーティに雇ってもらうような形を取ろうと、斡旋をお願いしたのだが、それは難しいと言われてしまった。理由は、マリラが学園を正式に卒業していないからだ。

 つまり、マリラがちゃんと魔法を使えると、証明するものが何もない。そんな人物を紹介して、文句を言われては困るというのだ。

 まあね。学園に入るだけなら、お金さえ積めば誰でも入れるしね……卒業することが大事だものね……。その言い分はもっともなので、マリラは頷くしかない。

 残された道は、自分自身の力で実力をアピールすることなのだが、そのためには依頼をこなして実績を積まなくてはいけない。どうすればいいのだ。

 マリラは、ため息をついて、冒険者の店で一人食事を取っていた。

 そこに、二人組の男が入ってきた。一人は、黒髪の小柄な青年で、恰好からすると剣士らしい。もう一人は、狐色の髪の背の高い青年で、盗賊のようだ。

 二人はマリラの隣のテーブルに座ると、何やら相談を始めた。

「やっぱり二人じゃ難しいかな」

「頭金があれば、人を増やせるんだけどな」

「不意を突く? いい考えはあるかな、ライ」

 マリラはその二人どころか、周りの他の客に、まったく注意を払っていなかった。自分のこれからのことを考えるだけで精一杯だったからだ。

 だから、マリラの前に酔っぱらった大柄な男がやってきて、その肩を掴まれるまで、相手に気付きもしなかった。

「おい、姉ちゃん、一人か?」

「放しなさいよ」

 マリラはむっとして振り払おうとしたが、男の力が強い。酒臭い息をかけられ、不愉快だった。

「良かったら来いよ、今日は俺様は、強い魔物をな、退治したばっかりで金は十分だからよ」

 マリラはむっとした。完全に女を馬鹿にしている。マリラが黙っていると、男はそれを何と勘違いしたのか、外へ引っ張っていこうとした。


「あー、またアイツ」

 ライは、隣のテーブルにいた金髪の女性が、ここらで有名な荒くれ者に絡まれているのを、呆れた顔で見た。魔物退治の腕は立つが、脳みそが残念すぎるパーティ『獅子の王』のメンバーである。

 それを見たジェスは急いで立ち上がり、その男から女性を助けようと駆け寄って行った。ライはまったく心配していなかった。ジェスの身のこなしで、あの馬鹿にやられるわけはなく、そしてこんなことは日常茶飯事だったからだ。

 だが――そこで予想外のことが起きる。

「放せ、このブサイク男が」

 金髪の女性は低い声でそう言って男を睨みつけ、杖を取り出して男に向け、呪文を唱えた。

 男は一瞬呆けたが、その場でどさりと倒れる。

「……魔法使い?」

 そして、酔っ払いの男と共に、彼女を助けようと近づいていたジェスも、その場で倒れ込み、寝息を立て始めた。

「……あら?」

 女性は、狙っていなかった相手が眠っていることに気付いた。

「あー……」

 ライは仕方なく近づき、ジェスを起こそうと揺さぶるが、起きる気配がない。ライは金髪の女性を見る。

「おい、アンタ、何したんだ」

「眠らせただけだからすぐに起きるけど……。ごめんなさいね」

「はー……この馬鹿の仲間が来る前に、外に出た方がいいな」

 ライはジェスを背負い、女性を促して外に出た。


 マリラは話を聞いて驚いた。どうやらこの剣士は、自分を助けようとしていたらしい。

「必要なかったみたいだけどね」

 起きた剣士は、そう言って頬をかいた。

「迷惑かけちゃったわね。それじゃあ……」

 マリラはそう言ったが、剣士は屈託なく話しかけてきた。

「女性の一人歩きは危ない……いや、危なくないのかな……?まあ、良かったら送るけど」

「ええ?」

 マリラは呆れた。迷惑をかけられた相手を送っていくのか?

 その表情をマリラは探るようにじっと見たが、下心はなさそうに見える。

「あー、まあ、コイツはこういう奴だよ」

 背の高い盗賊の方は、そう言って肩を竦めた。

「はあ……。いや、でも私、今日泊まる宿とか見つけてないから、送ってもらおうにも、行先がないし」

「え? じゃあ、あなたは、魔法使いみたいだけど……一人で旅をしているの?」

 剣士の問いに、マリラはまあ、と頷いた。

「旅は始めたばかりなのよ。これからどこかに雇ってもらうつもりで、この街に来たところ」

「そうなんだ。……ねえ、ライ」

「ん? おお、まあ確かに、これなら……」

 剣士と盗賊は、何やら視線をかわし合った。剣士はマリラに向き直る。

「僕はジェス。こっちはライ。僕たちは、今、山賊退治の依頼を受けているんだけど、もし良かったら、協力してもらえないかな?」

「えええ?」

 マリラは驚いて声をあげた。

しばらく、マリラがパーティに加わることになった過去の話となります。

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