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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第二章 砂漠の古代遺跡
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023:遺跡の番人

 ゴーレム――石で作られた、魔法で動く人形。

 四角形の岩を人型に組み合わせて作られたようなそれは、やや頭が大きく、愛嬌のある形をしていた――もう少し小さければの話だが。

 見上げるほど巨大なゴーレムの、その石柱のような拳が、三人に殴りかかってきた。

「くっ!」

 三人は慌てて避ける。ジェスとライは武器を構えた。

「マリラは部屋の奥まで逃げて!」

「でも!」

 悔しいが、マリラは竜の像の後ろに身を隠す。まだ精神力がそこまで回復していない。戦闘の中、素早く魔法が使える自信がなかった。

 ゴオオオン、と唸り声をあげたゴーレムは再び拳を振り上げ、近くのジェスとライを潰そうとした。それぞれ、左右に跳んで避ける。

 体が大きい分、動きは単調で、それほど避けるのは難しくはない。だが、重さに任せて勢い良く振り下ろされた拳は石畳を叩き割り、破片が飛び散る。その破壊力を見る限り、一撃でもくらえばアウトだ。

「つーか、遺跡の番人が遺跡を壊すなよ!」

 ライの突っ込みを聞くわけもなく、石で作られた人形は、ただただ忠実に、目の前の相手を排除しようと襲ってくる。

 攻撃をかわしながら、隙を見てジェスはゴーレムに切りかかる。だが、ガツ、と固い音を立てただけで、まったく歯が立たない。岩を剣で切ろうとしているようなものだ。

「駄目だ! マリラ、弱点はないのか?」

 ジェスの問いに、マリラは叫んで返す。

「ガーゴイルと違って、動きを止められるような弱点はないわ! 外から動きを与える魔法ではなくて、ゴーレムはその動力を内に持つのよ!」

「じゃあ、〈眠りの雲〉で眠らせることは?」

「人形が眠るわけないでしょう!」

「けどこのままじゃ、こっちが消耗する一方だぜ」

 それはライの言う通りだった。石人形は疲れることはない。

 まあ、内に蓄えた魔法の力を使い尽せば、ゴーレムでも倒れることはあるかもしれないが、それより先にジェスとライが動けなくなる方が早いだろう。

 ジェスとライは、絶え間なく繰り出されるゴーレムのパンチを避けながら、相談した。

「動きは単調だ。一番近い相手をただ殴るだけみたいだしな」

「うん。さっきから、僕とライしか襲ってこない」

 びゅん、と巨石が跳ぶような勢いで、二人の間の床を、またゴーレムが砕いた。衝撃で水路の水が跳ね、飛沫がかかる。

「あとは……攻撃するとすれば、関節っていうか、石の繋ぎ目か。岩を剣で砕くのは無理でも……」

「そこしか狙うところはねえか」

 ジェスとライは、目配せをし――そして、ジェスが一人でゴーレムに突っ込んでいった。ライはそこから離れ、マリラの隠れている竜の像の後ろに向かう。

「手伝え、マリラ」

「何をする気なの?」

 ライは荷物からロープを取り出した。


 ジェスはずっとゴーレムの近くで、跳び回っていた。こちらから切りかかることはせず、相手の動きを見て、その攻撃を避け続ける。

(父さんと――格闘の訓練をした時も、こうだった)

 ジェスは、幼い時から男子にしては身長が伸びず、小柄で華奢だった。

 従って、攻撃は全て避けることを教えられた。受ければ、そのまま体格差で弾き飛ばされてしまうからだ。

 そして機を待ち、急所を確実に突く。

 母に教えられた、盗賊の技だ。

 ゴーレムは、遠くに逃げたライを追うことはせず、手近なジェスをただ潰そうとしてくる。それは好都合だった。こうしてジェスが相手をしている限り、マリラとライの安全は保証されている。

 その視界の横で、ロープを持ったマリラとライが走り回っていた。


「マリラはそこにロープを!」

「ええ!」

 渡されたロープの端を、マリラは竜の像に縛りつける。しっかりと固定した後、部屋を壁伝いに走って、ゴーレムから距離を取りながら移動する。

 一方でライは、もう片方の端を持ち、ロープを床すれすれに低く張る。マリラもライのところに行き、ロープの端を一緒に持った。

「よし、ジェス、今だ!」

 合図を受け、ジェスは攻撃をかわしながら、巧みにゴーレムをロープを張ったところまで近付ける。あまり離れると、ゴーレムの攻撃対象がライとマリラに向かうかもしれない。一定の距離を保ちながら、次第にロープのところまで近づき、ジェスは床に張られたロープを、後ろ向きに飛び越えた。

「行くぞ!」

 それと同時に、ロープの端を持ったライとマリラが、走り出す。ロープはゴーレムの足元に巻き付き、その足をすくうような形になる。

 もともとジェスを潰そうと、前のめりになっていたゴーレムは、足元のロープにつまづき、前方に倒れ込む。

 ジェスは倒れてくるゴーレムの巨体に潰されないよう、素早く横に跳んで避けた。

「痛っ!」

 ロープを引くライとマリラは、ロープがゴーレムに引っ張られたことで、手の中でロープが滑り、掌の皮がむけた。だが、そんなことは言っていられない。

 必死にロープを握り、力の限りに引いた。何とかその場に縛りつけなくてはいけない。

 グオオオン、とゴーレムは、体のどこから発しているのか分からない、低い唸り声を上げ、立ち上がろうと手を付く。しかし、ジェスは跳躍して素早く剣を振るい、倒れたゴーレムの右肩――石の塊と塊の繋ぎ目を、断ち切るように叩いた。


 ズン、と大きな音がして、ゴーレムの右腕が落とされる。

「やった!」

 ジェスは手を付けずに起き上がれずにいるゴーレムの前を素早く駆け、もう片方の腕も落とそうとした。

 グオオン、とゴーレムは唸りながらもがく。腕のなくなったところからは、水が染み出していた。

 その感情のない赤い目は、勢いよく跳び上がり、両腕で剣を振りかぶるジェスに向けられる。

 その奥で、どれだけの計算が成されたのか――ゴーレムは、切り落とされる寸前の左腕を、自ら吹き飛ばした。

 肩と、左腕の境目から大量の水が噴き出す。その水圧のまま、重い石の腕は真っ直ぐ飛び、空中で剣を構えていたジェスは勢いよく叩きつけられた。


 ライとマリラは、目の前の光景が信じられなかった。

「ジェス!」

 ゴーレムの腕は、ジェスを正面から捉え、吹き飛ばした。そのままジェスは壁に叩きつけられる。

「ぐ……」

 ジェスは一撃でかなりの怪我を追っていた。あまりの衝撃に、息すらまともにできない。額を切ったらしく、勢い良く血が流れ、顔を濡らす。

 両腕を失ったゴーレムは、床を転がってロープから逃れ、器用にも、勢いよく跳び上がって立ち上がった。その着地の衝撃で部屋が揺れ、天井からパラパラと粉が落ちた。

「嘘、でしょ……」

 マリラは呆然と呟いた、

 ゴーレムは両の腕を失っていた。転がった左腕からは、まだ噴水のように水が噴き出している。

 だが、石でできた人形に、腕を失うことなど、何の痛みもあるはずがない。

 侵入者達を踏み潰そうと、その足を大きく上げ、迫ってきた。

ゴーレムのロケットパンチ。

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