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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第二章 砂漠の古代遺跡
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021:地下迷宮

 女盗賊はベルガ、フードを被った魔法使いの男はザンドと名乗った。

「協力だって?」

「ええ。人数が多い方が魔物と戦うにもいいでしょ?」

「それは勿論――」

 と、快く受けそうになったジェスを遮って、ライは確認するようにベルガに聞いた。

「いいのか? 人数が多ければ、宝も山分けになるぜ?」

「そこは仲良く二等分しましょうよ」

 そう、艶然と笑むベルガに、ライは頭をかいた。

 四人組のパーティと二人組のパーティで協力して、宝を二等分、ね……。

 いや、ジェス達は元々財宝を目的としているわけではないのだが――彼らと協力して、遺跡の攻略が進むならそれでもいいのだが――。どうにも胡散臭いような気がするのだ。

 特に、魔法使いの男の方は、最初に名乗ったきり、一言も話さず、目線も合わせようとしない。どこか不気味な雰囲気があった。

「……どうするよ」

 ライは後ろの仲間を振り返った。

「悪い話じゃないとは思うわよ。というより、この遺跡は分かれ道が多すぎるわ。彼らが私たちとは違う道を通ってきた以上、それを知るだけでも役に立つんじゃないかしら」

 そう答えたのは、地図を作っていたマリラだ。

「うん、この遺跡は分かれ道もあるし、二人組だと死角から攻撃されることもある。協力してもいいんじゃないかな?」

 この相手目線の、お人好しの回答はジェスだ。

「じゃあ決まりね」

 そのベルガの一声で、一緒に行動することが決まった。


 お互いに通ってきた道の情報共有を済ませ、一行は進み始めた。ちなみにベルガ達は、最初の十字路を右に曲がったらしい。

「なんとなくだけど、私たちの通ってきた道と繋がりそうね。で、一番奥には着けていない、と」

「そう。噂では、一番奥には、聖水の湛えられた黄金の部屋があって、財宝があるとか」

 ライはそれを聞き、マリラに目線をやった。マリラは、ライの考えを読んで、小さく頷いた。

 聖水――つまり、水だ。

 この遺跡を進みながら、植物らしきものは一切見つからなかっていない。だが、その水がある部屋なら、ジェス達の目的とする古代の花もあるかもしれない。

「じゃあ、その黄金の部屋とやらを目指しますか」

 それから一行はT字路に差し掛かる。ここはベルガ達の通ってきた道なので、迷わずに左へ曲がることを選ぶ。

 だが、その曲がり道の死角から、勢いよく魔物が飛び出してきた。

「小鬼か!」

 猿にも似た、すばしこい魔物は、鉤爪で先頭のライに跳びかかる。だが、ライはそれをかわし、すれ違いざまに短剣で切りつけた。

「まだいるぞ!」

 不意打ちが失敗したとみて、小鬼の仲間は集団でかかってくる。数は五、六匹というところか。

「ジェス、任せたわ」

 不意打ちだったため、魔物とこちら側の距離が近く、通路も狭いため混戦状態だ。ここで攻撃魔法を放つのは危険と考え、マリラはアイリスと共に後ろに下がった。

 ジェスとライ、そしてベルガが先頭に立ち、それぞれ剣を振るった。一人当たり、二匹ほどの小鬼を相手に、立ち回っている。

「くっ」

「危ない!」

 攻撃をかわされたベルガを援護するため、ジェスは壁を蹴って大きく飛び上がった。そのまま剣を振り下ろし、一撃で小鬼を仕留める。

 そのままベルガを背に、もう一匹の小鬼に向かっていく。

「……へえ、やるじゃん」

 ベルガはヒュウ、と口笛を吹いた。

 ライも、やや傷を負ったものの、二匹の小鬼を倒していた。

 戦闘が終わり、アイリスはライの傷を〈癒し〉の魔法で治した。

「これくらい大丈夫だけど」

「いや、血の匂いがしてると魔物が寄ってくるから、治した方がいい。それにしても、アンタら、なかなかやるのね?」

 ベルガはそう言ってジェスとライを見た。

「特に、ジェスだっけ? へえ、なかなか可愛い顔してやるじゃない?」

 そうしてジェスの顎を人差し指で持ち上げるようにして顔を見つめた。至近距離から見つめられ、ジェスは慌てる。

「あ、あの」

「……ジェスは純朴だから、あんまりちょっかい出さないでね」

 マリラは呆れながらベルガを止め、ザンドの方を見た。

(……彼も杖を持っているし、魔法使いのようだけど、最初から戦いに参加する気はなかったようね? どんな魔法を使うのか、気になってたんだけど……)

 自分と同じように、攻撃魔法を使うのをためらったのだろうか? 無表情で、何も話さないこの男は、マリラが視線を向けているのも気付かないようだった。


 しばらく歩いていると、またT字路に差し掛かる。似たような通路と曲がり道が何度も出てくるため、地図をつけていないとどのような方向に進んでいるか見失いかねない。

「ここはまあ、右でしょうね」

 六人は道を曲がり、ぞろぞろと並んで歩いていく。だが、ジェス達は、地響きのような音に気が付いた。

「……?」

 何か、大きく重いものが動くような音が、近づいてくる。

「何だ?」

 何か良くない予感がする。そして――

「やばい! 逃げろ!」

 前方から、通路いっぱいの巨大な岩が、一行を潰そうと転がってきたのだ。


「何よあれ!」

「知るか! 遺跡の罠だろ!」

 ゴン、ゴン、と重い音を立てながら、岩が勢い良くこちらに向かって転がってくる。一行は必死に走って逃げた。

「さっきの曲がり角まで戻れば!」

「は、はあっ」

 そうは言っても、岩の転がる速度と、全員の走る速度では、岩の方が速い。間は徐々に詰められてきていた。

「って、ええ?」

 前方に、天井から分厚い石の壁が下りてきているのが見えた。

 石の壁が下りてくる前に、その向こうまで逃げられたら助かる。だが、壁が下りてくるのに間に合わなかったら、確実に挟まれて潰される。

「も、もう……」

 走っているアイリスは、息が上がっていた。もともとそんなに体力のある方ではない。

「ちっ!」

 下りてくる石の壁の下に最初に滑り込んだのは、盗賊のベルガだった。機敏な動きで、腰ほどの高さになっていたその隙間を通り抜ける。

 次に石の壁の前までたどり着いたのは、元々後ろを歩いていたジェスだった。

「みんな早く!」

「馬鹿、早く行け!」

 だがジェスは、自分の剣を取り出すと、それを下りてくる壁と床の間に挟み、少しでも壁が下りてくるのを遅らせようと、壁の前で支え始めた。

「……」

 ザンドは、それを不思議な顔で見た。そして、自分の後ろで、徐々に足がもつれて動かなくなっているアイリス、元々先頭を歩いていたため、とても岩から逃れられそうにないライとマリラを見た。

「……」

 ザンドは、無言でアイリスを、ひょいと掴んだ。

「きゃっ?」

 そしてそのまま――人を一人抱えているとは思えないほど、今まで以上のスピードで、壁の下を通り抜ける。

「え?」

 その様子を見ていたマリラは意外に思った。あの魔法使いの男に、あれほどの力と俊敏さがあったとは。

「まずい、もう……!」

 剣で支えても、もはや石の壁は、どんどん下がってきていた。ついに、支えきれなくなり、剣は弾かれて勢いよく吹き飛ぶ。

ドン、と音を立て、重い石の壁は床に付いた。


「あっ!」

 ザンドに抱えられて、石の壁を通り抜けたアイリスは、背後で石の壁が床に落ちる、絶望的な音を聞いた。

「ああっ!」

 急いで壁のところに戻ろうとするアイリスを、ザンドは再び掴み、急いでそこから走って離れた。

 あの岩が、壁を突き抜けて転がってこないとも限らない。

 必死にもがくアイリスを抱えたまま、ザンドはさっきのT字路まで戻った。その時、後ろから、ドン、と大きな音が聞こえた。

「――っ!」

その音を聞いたアイリスは、ザンドの腕の中で気を失ったかのように力が抜けた。

 ベルガは既にT字路を曲がり、安全な場所まで逃れていた。

「……ザンド、遅かったじゃないか。潰されたんじゃないかと思った……ん? その子」

「ひ、ひっく……」

 泣き出し、しゃくりあげるアイリスを抱えたザンドを、ベルガは驚いたように見た。

「助けたのか? へえ……良くやったじゃないか」

「……」

 ザンドは無言で、アイリスをそこに下ろした。

「み、皆、が……」

 涙をぼろぼろこぼす少女を、ベルガはどうしたものかと見ていたが――ふと思いついたように、笑った。

「ねえ、アンタ、アイリス、だっけ?」

「……は、はい……」

「アンタ、神官だね?」

 アイリスは泣きながら頷いた。

「……仲間のことは残念だったけど……アンタ、神官なんだっていうならさ、仲間の冥福を祈ってやらなきゃいけないんじゃないかい?」

「……え?」

「こんな薄暗い所で、魂が彷徨ってたら可哀想だろ。つらいかもしれないけどさ、仲間のところに行って、弔ってやろうじゃない」

「……」

 アイリスは顔を抑えた。目に浮かぶのは、優しい仲間達の顔だ。彼らをここに置き去りにしていきたくはない。

「……はい」

 アイリスは涙を拭って、そして立ち上がった。

「いい子だね。じゃあ、行くか」

 ベルガはそう言って、別方向へとスタスタと歩き始めた。アイリスは慌てる。

「え? あの、どうしてそっちへ……」

「さっきの所は壁ができてもう通れないだろ。おそらく、別の道が繋がってるはずさ」

 そうして早足で歩き始める。松明を持ったザンドもそれに付いていくため、アイリスは真っ暗な場所に置きざりにされないようにと、急いでついていった。


 ベルガは、小声で横にいる相方に話しかけた。

「……聞こえるかい? ザンド」

「……」

 ザンドは、少し耳を澄ませて、頷いた。ベルガはそれを見て、ニヤリと笑った。

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