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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第二章 砂漠の古代遺跡
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020:龍の伝承

 遺跡に入り、しばらく歩いていた一行は、十字路に差し掛かった。

「さて、どっちかな」

 とはいえ、判断材料もない。とりあえず真っ直ぐ進もう、と決め、一行が十字路の交差地点へ、足を踏み入れた時、左右、そして前方の通路からぞっとする気配を感じた。

「なっ!」

 キイキイと甲高い声をあげ、両側から迫ってきたのは、血吸い蝙蝠の魔物の群れだった。一匹一匹は大きくないが、何十羽に一斉に噛まれたら血を吸いつくされてしまう。暗闇に赤く光る眼が、無数に迫ってきていた。

「下がれ!」

 このままでは挟み撃ちになる。ライは慌てて戻るように促した。

「ちょっと待って。試してみたいのよ」

 その時、マリラが前に進み出て、黒檀の杖を振り上げた。

呪文を唱えると同時に、円を描くように杖を振る。その動きに合わせて突風が巻き起こり、小さな羽の魔物たちはいとも簡単に壁に叩きつけられ、その身を真空の刃で切り裂かれて床に落ちた。

〈疾風〉の呪文だ。

「すごい!」

 ジェスが驚きの声をあげる。〈火球〉の呪文と違い、風を操って全方向を攻撃できるため、今のように小さい魔物の群れに襲われた時は、とても強力な攻撃呪文となる。

「はあ……」

 すぐ隣にいた、ライの松明が風でかき消されていないところを見ると、風の制御は完璧らしい。マリラは少し得意げな顔をした。

「新しい呪文ですね」

「そう。学園も卒業したし、色々使える呪文を増やしていこうと思うのよ」


 その後も一行は、時折出現する魔物を倒しながら進み続けた。あの後、また二回ほど十字路に差し掛かったが、全て真っ直ぐ進み続けた。

 あれこれ曲がるより、真っ直ぐ進んだ方が、とりあえず道を戻ることはないだろうという考えだ。道に迷わないよう、地図を作るのはマリラの役割だった。

「古代の人ってすごいですね。こんな大きな遺跡を作るなんて」

「今より、魔法の技術は高かったんだろ? けど確かにな……」

 歩いても歩いても、なかなか奥までつかない。

「結構進んだかしらね? ずっと暗いから時間の感覚がなくなるわ。あら?」

 ずっと狭い通路を進み続けていたが、一行は少し開けた場所に出た。八角形の形の部屋で、二本の通路と繋がっている。今自分たちが入ってきた通路と、もう一方はさらに先に進む通路のようだ。

「ちょうどいい。今日はもうここで一旦休んでしまおう」

 まずは部屋に罠がないことを、一通り確かめる。松明を手に壁に近づいたライは、おっ、と声をあげた。

「これ凄いぜ」

「え、どれどれ……わあ」

 部屋の壁という壁には、入り口と同じ、竜のレリーフが彫られていた。

「へえ……」

 レリーフはかなり細かく彫られており、美しい絵画のようだ。明るいところで見られないのが惜しいと思う。

 ライとマリラとジェスは、そのレリーフの見事さに驚いていたが、アイリスだけはそれ以上のことに気付いた。

「すごい! これ、創世神話です」

「え?」


 部屋の中心で焚き火を囲んで食事を取り、交代で眠りについた。寝息を立てているマリラとライを起こさないよう、ジェスは小さな声で、ランプに油を足しているアイリスに話しかけた。

「ねえ、アイリス」

「はい」

「創世神話だけど、僕は知らないんだ。良かったら、話してもらえないかな」

 アイリスは、少し驚いたが、すぐに笑顔で頷いた。

壁に彫られたレリーフが創世神話を表すものだとアイリスが指摘すると、ライもマリラも納得し、物語を追うように、八面の壁を順に眺めていた。

 しかしジェスはその意味が分からず、ふうんと頷いただけだったのだ。

「ええと……この壁に彫られているのは、龍による世界の創造です。まず、混沌に大いなる始まりの龍――神龍が現れました。神龍は七つの龍を生み落とし、眠りにつきました。その龍の背が、今私たちのいる世界となりました」

 アイリスは一つの壁を指さした。その壁には、大きな龍と、その周りを飛ぶ七つの龍が描かれている。

 アイリスは穏やかな声で、修道院で何度も聞いた神話を語っていく。


「一の龍――光龍は、世界に光をもたらしました」

 六枚の翼を持つ、輝く龍から放たれる光が、何もない世界を包む様が、二つ目の壁に描かれている。

「二の龍――闇龍は、世界に闇をもたらしました」

 次の壁には、世界が繰り返す朝と夜を迎える様が描かれている。

「三の龍――風龍は、世界に流れる風をもたらしました」

「四の龍――地龍は、世界に大地をもたらしました」

「五の龍――炎龍は、世界に炎をもたらしました」

「六の龍――水龍は、世界に水をもたらしました」

 巨大な龍の、その口から吐く吐息が、次々に世界を作り上げていく様子が、一つずつ壁に描かれている。

「大いなる言葉によって世界を作った六つの龍たちは、世界に飛び去っていきました。それが、今世界に存在する竜の始祖となったといわれています」

「へえ……」

 ジェスも、教会などで、龍の姿の像が祀られているのを見たことがあるのだが、こうしてちゃんと神話の説明を聞くのは初めてだった。

 寝物語のように優しい、少女の語りは、最後の壁を指して続く。

「七の龍――聖龍は、命あるものたちを生み出しました。世界に生まれた命を見守るため、聖龍は、世界にその存在を溶かし、私たち全ての命に、寄り添っています」

 世界に満ちた龍の意思の声を聴くのが、私たち神官なのだと、アイリスは少し照れたように付け加えた。

「えっと、うまくお話しできたかどうか分からないんですけど……」

「ううん、よく分かったよ。ありがとう、アイリス」

 ジェスが礼を言うと、アイリスは嬉しそうにはにかんだ。

 神官としての高潔さを持つ一方、少女としての素直さも合わせもつアイリスを、ジェスは時折、不思議な存在だと思う。

「さてと、そろそろライとマリラを起こそうか。いい加減休んだけど、ここじゃ明るくならないからね」

「はい」

 アイリスが、優しくマリラとライに呼び掛けている間、ジェスは焚き火の片付けを始めた。



 神話の描かれた八角形の部屋を出て、一行がしばらく進んだところだった。

 魔物の気配を警戒しながら、先頭を歩くライが、前方に明かりを見つけた。魔物の目かと、武器を抜いて警戒する。マリラはライから松明を受け取り、もう片方の腕で、いつでも呪文を唱えられるように杖を構えた。

 明かりはどんどん近づいてくる。そして、相手の姿が明らかになる。

「あら。同業者みたいね?」

 向こうは、そんな声をかけてきた。


 近づいてきたのは、二人組の冒険者だった。

 一人は、どうやら盗賊のようだ。踊り子のような軽そうな衣装を来ている女性は、曲刀を腰に差していた。紫の髪に、気の強そうな赤い瞳をしている。

 もう一人は、魔法使いらしく、長いローブを着ている。フードを目深に被っているため、その表情はよく見えないが、連れの盗賊と同じ、赤い瞳が一瞬見えた。

 どうやら先に入ったという、二人組らしかった。

「ふうん、私たちの後から入ってきたのね? 四人、か……」

 女盗賊は、ジェス達一行を値踏みするように見ていたが、ふふ、と笑って言った。

「どう? あなた達もこの遺跡の宝を狙っているなら、協力しない?」

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