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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第一章 炎の魔法学園
14/162

014:決着

 ごうごうと、階下で炎の燃える音がする。

「貴様!」

 アルバトロは激高した。貴重な魔術書――その全てを読むことなど、もちろん出来ていない――それを盾に、仲間を放すよう要求するなど、理解できなかった。

「自分が何をしているのか分かっているのか!」

「仲間を放せって言っているでしょう!」

 マリラは遮って怒鳴りつけた。

 内心焦っていた。徐々に首が絞まっているのか、ジェスの息づかいが苦しそうなものになっている。肩の傷から流れた血は、毒の液と合わさって小さな水溜まりを作っている。その傷口に触手が触れるたび、ジェスは苦しそうに呻く。

 早く助けなければ。

「貴様それでも魔法使いか! あれがどれだけ貴重か――」

「うるさい! 黙れ!」

 もはや声が枯れそうになるくらい、マリラは叫んだ。

「――仲間より大切なものなんかないわ!」


「くっ……くそお!」

 アルバトロは、杖を振りまわして触手を操った。触手は、ジェスを乱暴に投げつけて放す。

 どさり、と床に落とされたジェスに、アイリスが駆け寄った。

 こいつらをいたぶって遊んでいる暇はもはやない。すぐにでも殺して、そして早く下の火を消さなければ。

 マリラは倒れたジェスとアイリスの前に立ち、ジェスが回復するまでの少しの間、時間を稼ごうとする。

「早くジェスの傷を」

「はいっ!」

 アイリスは〈癒し〉の呪文を唱えた。優しい光が、ジェスの体を包み込み、傷が塞がっていく。だが、傷口から毒が回っているのか、ジェスの呼吸は苦しそうだった。

 マリラはもはやこれ以上、魔法を使うことができなかった。襲い掛かる触手を、杖を振りまわして振り払おうとする。だが、さっきまでの様子とは違い、一気に全ての触手が突進するように伸びてくる。杖で受けたが勢いを抑えきれず、マリラは突き飛ばされた。

「殺せ、早く!」

 アルバトロの叫びに応じて、触手は続けてアイリスに向かってくる。

「逃げ、ろ」

 それを見たジェスは、自分を放って早く逃げるようにアイリスに言った。

「――駄目です!」

 アイリスは、ジェスの治療を続けた。例え自分が傷つくことになっても、いつも自分を守ってくれる仲間を見捨てることはできない。痛みに襲われることも覚悟して、毒で苦しむジェスに、〈浄化〉の呪文を唱えた。

 その時、アイリスを襲おうとした触手が、ぴたりと動きを止めた。

 それを見たジェスは、はっとした。

「毒、だ」

「……えっ」

 あの触手は、毒に覆われている。もしかすると、毒液が体液のような役目を果たしているのかもしれない。

 そして、アイリスの呪文は毒を浄化させる。

 もしかしたらいけるかもしれない。

「アイリス、あの触手に、〈浄化〉の魔法を!」

「えっ!」

 アイリスは戸惑った。今まで、味方に魔法をかけたことはあるが、敵にかけたことはない。そして、神に祈りを捧げ、神聖魔法を唱える時、いつもアイリスは、痛みがなくなるように、この傷が癒えるように、と祈っているのだ。

 触手は恐ろしげな様子で、うごめいている。あれに、慈しみの気持ちを持たなければならないことに、アイリスは恐怖した。

(――違う)

 ここで戦わなければ、仲間が傷つく。

 これ以上大切な人が傷つかないように、祈るのだ。

 アイリスは両の掌を触手に向けると集中して祈りの呪文を捧げた。

 アイリスの手から放たれた白い光が触手を包みこむと、触手は水のなくなった草のように萎れていき、やがて動かなくなった。


「く……くそおお!」

 アルバトロは、触手が倒されたのを見ると、すぐに次の攻撃呪文を唱えた。思い切り杖を振り上げ、〈雷撃〉の魔法を放とうとした時だった。

「させるかっ!」

 気がついたライが、近くに落ちていたジェスの長剣を拾い上げ、アルバトロに素早く斬りかかった。とっさにアルバトロは、それを杖で受けた。

 バシ、という重い音がした。

 思い切り剣で叩かれた杖を、持っていることができず、アルバトロは杖を手放してしまった。

「あっ」

 杖はまさに雷をその先から放とうとしていたところで、先から閃光を吹き出しながら、くるくると宙を舞う。

 杖は攻撃魔法を噴射し続けながら、そのまま窓を割り、外へと落ちていく。

 アルバトロはそれを必死に追った。窓の先に手を伸ばし、届かないので身を乗り出し、そして――

「危ない!」

 反射的にジェスが叫んだが、遅い。アルバトロは窓から落ちていった。

 ――この学長室は、高い塔の最上階にある。

 アイリスは顔を覆った。マリラは、哀れな男の末路を、苦い思いで見ていた。



「……どうなってんだ」

 自分が気絶している間に、大変なことがあったらしいことは、ライにも分かる。だが、この状況は一体どうしたらいいというのか。

 戦いのあった学長室を出たが、螺旋階段の下は、燃え盛る炎に包まれていた。熱気がここまで伝わってくる。

「あはっ」

 この事態を引き起こした張本人のマリラの額を汗が伝う。アイリスもジェスも、どうしようと思案している。この炎の海の中を突っ切って、無事で済むとは思えない。だが、早くしなければ、自分達のいる場所だって崩れかねない。

「あっ」

 どこかに逃げ道がないかと探していたアイリスが、一点を指さした。

 ぶわり、と竜の形をした水が炎を破って現れた。そのまま水で作られた竜は、飛沫を撒き散らしながら飛び回る。

 呆気に取られているうちに、火は勢いを失くし、徐々に消えていく。やがて、完全に炎は消え、辺りには煙の臭いだけが残った。

「……一体……」

 一行が階段を下りていくと、そこには、杖を持ったリドルがいた。あの巨大な水を出現させ、炎を消してくれたのは、この人だ、とマリラはすぐに理解した。

「……先生」

「終わったようだね」

 リドルは一行を優しく見つめ、労った。

2017.2.5 挿絵UPしました。(BY 妹)

挿絵(By みてみん)

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