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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
最終章 空を翔ける冒険者
133/162

133:追跡

 ライ、アイリス、ザンドの三人は、ギールの街を出て南に向かった。飛び去ったジェスを探し、追うためだ。

 ギールの街の近くでは、人と会うことが多いため、ライはとにかく出会った冒険者や行商人には、ジェス――黒い竜を見なかったか聞いてみた。ただし、馬鹿正直に「竜を見なかったか?」と聞いてしまうと、竜を討伐して大金を稼ごうとする輩が出てこないとも限らない。

「空を飛ぶ巨大な魔物を見なかったか? 俺達は討伐の依頼を請けてるんだ」

 ライはそう尋ねて回った。ほとんどの人は知らないと答えたが、稀に、そういえば鳥にしては大きな影を見たという人に会うことがあった。

「どっちに飛んでった?」

「うーん、南西かな」

 ギールの街でも、黒竜は魔物と見間違えられていたようなので、ジェスを見かけた人は、魔物だと思ってもおかしくない。

 目撃情報を聞くたびに、進む方角を修正しながら、道なき道を進む。そんな日々が続いた。



「ギャギギギ!」

 土の中から、魔物が飛び出した。魔物は醜悪な骸骨のような腕を振り回し、三人に襲い掛かる。

 ザンドは魔物を素早く見極めると、アイリスに〈祝福〉の魔法を用意するように指示を出した。

「土骸骨は普通、群れている。まだ土の中にいる」

「はいっ!」

 ライが剣を抜いて素早く飛び出し、後ろのアイリスとザンドが呪文を唱える時間を稼ぐ。

「ライさん!」

 ライの突剣が輝き出す。ライは退魔の光を宿した剣で、次々に現れる魔物を切り捨てていく。

 ザンドは自分に〈強化〉の魔法をかけ終わると、武術の構えを取った。そして、アイリスの周りを守ることに徹する。ザンドの放った蹴りは、魔物の体を砕いた。

「ちっ、まだ地面の中を移動してるぞ」

 ザンドが跳び上がって、地面を蹴った。地面に蜘蛛の巣状にヒビ割れが生じた。土の中、魔物が潜んでいる位置だけ、ぼこりと土が盛り上がる。

「そこか!」

 ライは土の中に剣を刺した。確かな手ごたえがあり、魔物は土の中で倒された。

 ライは剣の汚れを拭うと、鞘に収めた。

「よし……そこそこの群れだったが、倒せたな」

「はい、二人とも怪我はしていませんか?」

「大丈夫だ」

 三人の行く手には、何度も魔物が現れたが、問題なく倒すことができた。

 ザンドは、マリラと違い、直接的な攻撃魔法を使うことはない。自分に〈強化〉の呪文をかけ、それで身体能力を向上させて戦う。

 繰り返し戦闘を続けるうちに、魔物が出た時は、ライが最初に魔物の前に飛び出して足止めし、ザンドやアイリスが魔法を使う時間を稼ぐという流れが出来上がっていた。

「……そろそろ日が暮れるな。休む場所を探すか」

「ちょっと待て。いい場所を探す」

 ザンドは再び、〈強化〉の呪文を探し、視力を向上させる。そして、ぐるりと回りを見渡す。

「……ここから少し南に行けば、野営に良さそうな場所があるな。歩いても日が沈む前には着く」

「よし。じゃあ、そこに行くぞ」

 ザンドの〈強化〉の呪文は、身体能力だけでなく、聴覚や視覚といった五感も向上できた。遥か先まで見渡す能力は、かなり便利なものだった。



 ライとアイリスが火を起こしていると、ザンドが、手に気絶した鳥を持って戻ってきた。

「捕まえた」

「お、それ美味い鳥だな」

 ザンドは、鳥をライに渡す。ライはそれを手際よく捌いて、肉を焼き始めた。それを見て、ザンドがぼそりと言った。

「王子だというのに、料理が上手いものだな」

「あ? 何年も旅を続けて、王子も何もあるか。お前が不器用なんだよ」

「……。」

 ライとザンドのやり取りに、アイリスはくすりと笑った。一昨日の食事では、ザンドはせっかく捕まえた鳥を、焼き加減が分からず、黒焦げにしてしまったのだ。

 アイリスは火に当たって温まりながら、ザンドに尋ねた。

「ベルガさんと一緒に旅をしていた時は、料理はベルガさんが?」

「そうだな。鋭敏な味覚には、かなりきつかったが」

 それを聞いてライは突っ込む。

「味覚まで〈強化〉してどうすんだよ!」

 刺青を消していたマリラが、「何でこんな力まで?」と、呆れたようにため息をついていたのはこのせいか。

 しかしザンドは、至って真面目に言った。

「ベルガは、味音痴だった。大概のものは美味いと食べたからな。俺が味覚を強化して、毒や腐ったものがないか確認していた」

「……マリラも味音痴だけど、そこまでじゃないな……」

 ライが言うと、アイリスはまたまたくすくす笑った。マリラが聞いたら何というかと想像すると、またおかしかった。

「そろそろ食べましょうか」

 アイリスは食前の祈りを捧げてから、串焼きの肉を取った。湯気のあがる焼きたての肉を、近くで採取した香草の葉で包んで渡した。

「というか、ザンド、思ってたんだが」

「何だ」

 肉に齧りつきながら、ライがザンドに尋ねる。

「お前、〈強化〉の呪文を刺青で体に彫る必要ってあったのか? 普通に唱えるだけでいいじゃねえか」

 ザンドは呪文を体に彫っていた影響で、呪文の効果を常時発動できる代わり、常に思考がぼんやりとしていた。しかし、それはかなり勿体ないことだと、ここ数日一緒に旅をしていたライは思っていた。

 ザンドは魔物についての知識がかなりあり、戦闘ではかなり的確な分析ができた。どこで学んだのか、動植物についても詳しく、あれが食べられるだのこれは毒があるだの、野営の際に色々と役立ったのだ。

 ザンドはその問いには黙って、何も答えようとしなかった。ライも深く追及はしない。

「ま、お前はその方が強いぞ」

「……そうだな」

 答えながら、ザンドは何か考えていたようだった。


 食事を終え、眠る準備をする前、ライは地図を広げた。

「しかし、これから、どうするかな……」

 『空を飛ぶ巨大な魔物』の目撃情報を追って進んできたが、だいぶギールから離れ、あまり人に会わなくなってきていた。

「そうですね……。これ以上確かな情報がないまま、進んでも、ジェスさんから離れてしまう可能性もありますし……」

 それに、あまり野営が続くのも辛い。一度人里に行って、体をゆっくり休めることも必要だ。

「ここから近いのは、ディーネだな。一旦、ここに行くか」

「そうですね……」

 ディーネは、ここから南東に進んだところにある都市で、魔法の研究が盛んな、美しい都だ。

 かつて、古代魔法王国が崩壊し、カステールが砂漠と化した後、フォレスタニア大陸の都は、ディーネに移された。

「ここなら、人が集まっているから、何か情報があるかもな……」

「ええ……」

 アイリスは目を伏せ、地図の上の都を複雑な思いで見つめた。以前、この街を見たときの、ジェスの言葉が思い出される。

(ここは本当に綺麗な場所だね。また来たいな)

 こんな形で、もう一度訪れることになるなんて。

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