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青空の冒険者  作者: 梨野可鈴
第七章 竜の山と旅人達
105/162

105:竜の山

 柔らかい草を踏みながら、一行は西へと進んでいた。朝露で膝が濡れる。

「不思議な村だったな。あんな村があるなんて……」

 流れる空気も、時間も、他の村とはまるで違っていた。

「ライも知らなかった?」

「ああ……。多分、あの村はどこの領にも属してねえし、国も関知してないんだろ」

 あんな山奥の村まで税を取りに行くことなどないし、魔物の脅威がないのなら、国の庇護を受ける必要もない。

 太陽の位置と、見える山の形を頼りに、西の山へと進んでいく。山を歩くのは、普通の平地を進むのとはまるで勝手が違うので疲れるが、助かるのは、魔物に一切遭わないことだった。

「この山の中に入ってから、本当に全然魔物に遭わないよね」

「本当にね……もしかして、竜が守っているのかしら」

「それはあるな」

 ライが答えた。

「どういうこと?」

「あー……俺もはっきり覚えてねえけど、ドラゴニア王家の言い伝えって、竜にまつわる話が多いんだよな」

 ライはそれを、幼い頃から、寝物語のように伝えられてきた。

「竜は、世界を創った六属性の龍の力を受け継いでいる。だから、竜が力を放つことで、世界の力を安定させることがあるらしい」

「だから、竜がいると、魔物が減るんですか?」

 魔物は、世界の力の歪みから生まれる。

「逆もあるんだろうけどな。竜同士が激しく戦った古代においては、その時放たれた強い力の影響で、魔物が増えた。今でもドラゴニアに魔物が多いのはその影響だって聞く」

「うーん。フォレスタニアから離れて長いから、この魔物の多さにも慣れちゃったけど、こんなにのんびり外を歩けるのはいいね」

 ジェスは立ち止まって深呼吸し、山の空気をいっぱい吸い込んだ。山から吹き下ろす風の匂いがする。

(……あれ?)

 ジェスは、その時、妙な感じがした。懐かしい匂い。

 僕は、この場所を知っている?

 胸が騒ぐ。

「おーい、ジェス、行くぞ?」

「あ、うん!」

 ジェスは慌てて、前を進む仲間の方へ駆けだした。



 ホルンの村は、東西南北をそれぞれ四つの山に囲まれている。

 ジェス達がウィンガから上ってきたのは、東側の山で、今から上ろうとしているのは、西側の山だ。

 ここからは急峻で険しい道が続く。少し早いが、たっぷりと寝て、明日の朝から西の山に上ることにした。

 魔物はいないようだが、油断はできないし、狼などが出ないとも限らない。火を焚いて、警戒をする。

 アイリスは、祈りを捧げている。その手には、白亜のロザリオがある。

「……それにしても、竜の牙で出来たロザリオなんて」

「まさに国宝級だろ。一見、石で出来てるようにしか見えないけど、人に言わない方がいいだろうな」

 ジェス達は、竜の体の持つ強い魔法の力を、身をもって体験している。

 竜の骨から作られた秘薬は、マリラにかけられた強い呪いを、たちどころに消し去った。

 他にも竜の体には様々な言い伝えがあり、竜の血はあらゆる傷を癒す、鱗はあらゆる攻撃を防ぐなどと言われている。

 なお、牙にはあらゆる物を貫くという言い伝えがある。ロザリオに加工されている以上、さすがに何かを貫くのは無理だろうが、それでも宿っている力は未知数だ。

「うーん。考えれば考えるほど、竜に危害を加えられる存在が本当に思いつかないわ。それこそ、別の竜くらいなんじゃないの?」

「まあなあ……この山には今のところ、魔物も全然いないようだし」

 ライがそう言うと、素振りをしていたジェスがライに尋ねた。

「でも、昔、エデルさんから聞いたんだけど、昔、ドラゴニアでは竜と人が戦っていて、その時に生まれたのが、竜と戦うためのドラゴニア流剣術だって」

「……ああ」

 爪や牙による強力な攻撃を躱し、急所を突く剣術。ドラゴニアの強力な魔物と戦うのにも向いていると言われる。

「どうなんだろうな? まあ、竜だって全身鱗で覆われているわけじゃないんだから、隙を突ける場所はあるかもな。例えば目とか、舌とか」

 ライは、修道院で戦った、竜の屍から作られた魔物を思い浮かべながら答えた。

「ちょっとちょっと。もし竜と戦わないといけないような事態になったら、絶対に逃げるわよ? 危険すぎるわ……」

 そうマリラが言った時、遠くからガサガサという音が聞こえた。風の音ではない。何かが近付いてくる音だ。

「……。」

 ジェス達は警戒し、それぞれ武器を握る。

 だが――その物音の方から、複数の人の声が聞こえた。

「明かりが点いているぞ」

「誰かいるのか?」

 相手は魔物でも獣でも、まして竜でもないと知って、ほっとするが、警戒は緩めない。相手が山賊であり、こちらを襲う可能性もある。

 ジェスは剣を抜いたまま、声の方に答えた。

「僕達は冒険者です。この山を旅しています」

 そう答えた時、向こう側で何か驚きがあったようだった。向こう側の一人が、こちらに駆けてくる。

 木々の間から姿を表した相手を見て、ジェス達も驚いた。

「エデルさん!」

 赤い髪の双剣の戦士が、そこにいた。


 エデルは、ジェス達を見て驚いたようだった。

「おい、知り合いか?」

「ああ。彼らのことは知っているが、山賊などではない」

 エデルは連れに向かって声をかけた。向こうも野営しているこちらを見て、同じことを心配していたようだ。

「エデルさん、お久しぶりです……この大陸に来ていたんですね」

 ジェスがエデルに話しかける。エデルは少し笑みを浮かべた。

「それはお互い様だな。……!」

 そこでエデルは、改めてマリラを見て驚いた表情を浮かべた。

「マリラ……生きていたのか!」

「え? ああ……」

 エデルは、修道院の一件で、マリラに強い魔物化の呪いがかけられたことを知っているが、それ以降は長いこと会っていなかった。当然、マリラ達が呪いを解くためにドラゴニアに来たことも知らないので、死んでしまったと思っていたのだろう。

「色々あって、呪いが解けたのよ」

「そうか……良かった」

 エデルはほっとした表情を見せた。

 そうして、ジェス達とエデルが話していると、エデルの連れも、こちらにやって来た。

「何だ、こんな山奥で知り合いと会うなんてな」

「ちょうどいいや、俺らもそろそろ休もうとしてたとこだしな。一緒にいいか?」

「ええ、どうぞ」

 ジェスは答えて、火の傍をエデル達に譲った。

 エデルが連れていたのは、三人の冒険者らしい男だった。

 一人は、戦士らしい中年の男。長い剣を持っており、逞しい体には古傷が多く残っている。

 そして、若い弓使いらしい男。目が細く、笑うと目がなくなりそうだ。

 最後の一人は、魔法使いの男。着ているのはローブではなく軽そうな鎧だが、剣ではなく杖を持っていることから、魔法使いで間違いないだろう。

「エデルさん、パーティを組んだんですか?」

 ジェスが彼らに尋ねた。

 ライも意外に思っていた。エデルはまるで他人を寄せ付けない雰囲気があり、その剣の腕を頼りに一人で旅をしているようだったからだ。

「いや。私は今、彼らに雇われているだけだ」

 エデルは素っ気なく答える。

「ああ。凄い剣の腕を見せて、売り込みにきたんでな。普段パーティを組んでいるのは俺ら三人だが、こんなに腕が立つなら、ずっとパーティにいてもらってもいいくらいだ」

 中年の男が豪快に笑うと、弓使いの男は、ふっと鼻で笑う。

「それは同感ですが、あなたはただ、美しい女性が近くにいて欲しいだけでしょう」

「何を!」

 男達三人は冗談を言い合って笑うが、エデルは眉一つ動かさない。そんなよそよそしいエデルの様子を見て、ライは納得した。

(ま、確かにパーティって感じじゃないな……)

「ところで、ジェス」

 エデルは、ジェスに向かい合って尋ねた。

「この山にいるということは――竜を目指しているのか?」

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