第一層
初めてです。
家の境内にはキリンがいる。何を馬鹿なって言うかもしれないが本当にいる。
しかも、アフリカにいるのじゃなくてビールでおなじみの麒麟だ。小さいときは変わった、おうまさんだなぁって見てたけど5年生の時に気付いたね、こんな光って角生えてる馬いないって。これはすごいことだ!と思って勢いこんで家族に話したよ。
「なに言ってるの?花ちゃんは立派なお馬さんよ?」
「そうだぞ、勇。来週の遠足で行く動物園がもう気になってるのか?」
最初は笑って聞いていた二人の顔がだんだん心配顔に移行する。
「勇、具合でも悪いの?」母さんが額に手を当ててくる。
「お父さんちょっと熱っぽいかもしれないわ、すぐ車だして!」
あわてたように車のキーを持ち外に飛び出す父。
その様子を見てこれはおかしいことだと認識した。
結局病院では、36℃の平熱だったので何事もなく家に帰されたわけだが…
僕はこの驚きをとにかく誰かに伝えたくて、車を降りると一目散に祖父である勇大の元に走った。
後ろから心配する母の声は聞こえたが構わない。
おそらく、この時、僕は怒っていたのだろう。今となっては両親の反応は普通だとは思うが。
境内に走り込んでいくと、勇大はちょうど馬(麒麟?)の世話をしていた。
僕は走ってきたそのままの勢いで言った。
「じいちゃん、これ麒麟なんだね!すごいよね!」
そのときの祖父の顔は、驚いた後にかすかに笑ったような泣くようなとにかくよく分からない顔だった。ただそれは一瞬のことで、すぐに笑ったような顔になるとこう言った。
「おまえの目は間違ってない。ただこのことは、他の人には内緒にしとけ。」
その言葉を聞いて僕は何でと思った。すぐに言葉にしよう思った。
その時、声が響いたのだ。頭の中に。
「僕からもお願い。」
女の子の声だった。誰かと思って周りを見渡す。
祖父と僕だけしかいない。また声がする。
「あなたの前にいる。」
僕は前を見る。そこには、花がいた。
「話し相手がいなくて退屈してたの、よろしくね勇」
これが僕と花との初めての出会いだった。