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081話



 パラソルの中で、代わり映えのない景色を眺めつつ喉を潤しながら僕は、心の中でため息をつく。


「ーー全く、カナタの姉上は無茶ぶりが好きな方なのだのぅ」


 飲みきったグラスの中の溶け残っている氷をストローでかき混ぜながら、呆れた声音で姫華がため息混じりに言う。


「本当に。朝市の見学に出かける為に外に出た途端、マイロードにお手紙が届いたと思ったら足元に突然の魔法陣……」


「で。気が付いたら、この砂ばかりの場所じゃよ」


「ムム、アナベル様への冒涜は許さない。なのです」


 アナベル(姉さん)の事が大好きなイリスは鋭い視線を姫華に飛ばすが、飛ばされた本人はそれを軽く流しながら口を開く。


「イリスや。これは冒涜ではないのじゃ。姉上は凄いお方だと言っておるのじゃ」


「そうですよ。『ヨロピク』の一言で有無を言わさず飛ばす……さすが、マイロードのお姉様です」


……あ。

サクラって、意外と天然だよなぁ。


 その証拠に、サクラの笑顔には純粋に尊敬の念が込められていて裏が感じられない。


「そうなのです、そうなのです。アナベル様は凄いお方。なのです」


 嬉しそうにフンッと小鼻を膨らませ胸を張るイリスの様子に、僕は彼女に見えない様に肩を落とす。


……イリスさんや。

騙されておるぞぉ。


 まぁ、姉さんの無茶ぶりは今に始まった事ではないが……ここまで即実力行使に出るのは初めてだった。


「手紙には、『カルターナの街のとある場所に問題の物があるから取ってきて』でしたかのぅ」


 ゲイツさんは、キンキンに冷やされた酒をグラスに注ぎ足しながら、僕が伝えた内容を口にする。


「にしても、ココって何処なの?」


 だけど、僕は敢えてそれには触れる事なく別の話題を口にした。


 そんな僕に、ほんの一瞬だけ悲しそうな表情を見せるゲイツさんだったが、直ぐにいつもの穏やかな表情に戻って口を開く。


「カルターナの街の近くというのであれば、アルバ共和国ですのぅ」


「エッ?アルバ共和国?ここも?」


「正確には、アルバ共和国とルメール公国の境ですのぅ」


「へぇ、広いんだねぇ。アルバ共和国って」


 この世界の地図を頭の中に浮かべながら、大体の位置を把握する。


 でも、以前見た世界地図は元の世界の地図と比べてかなり大雑把だったから、アルバ共和国に砂漠があることに気が付かなかったよ。


「そうですのぅ。アルバ共和国の領土は、この世界では2番目ですからのぅ」


「1番は?なのです」


 コテンと首を傾けながらゲイツさんに訊ねるイリス。


う〜んっ。

可愛さ倍だね!

ギュッてしたい!


「うむ。それはーー」


「ーーダカールガ帝国なのじゃ!忌々しい嫌な国なのじゃ!」


 ゲイツさんの言葉を遮るように、テーブルを強く叩きながら、嫌悪感を顕わに大声を出す姫華のただならぬ様子に僕はビックリ。


 いや、他の皆も普段とは違う姫華の変わり様に、目を見開き驚いているようだ。


「……嫌いなんだ。帝国」


「帝国は、完全な(・・・)人族主義の国なのじゃ!獣人族は勿論、他種族を差別しておっての!戦争奴隷にして捨て駒に使うのじゃ!」


「……それは、酷い国ですね」


 グラスの中の氷を帝国連中に見立てているのか、姫華の口の中で砕き続ける姿をサクラは顎に手を当てながら同情するかの様に呟く。


「人族主義の国かぁ。なら、僕達は行けないねっていうか、たとえ行ったとしてもトラブルに巻き込まれそうだから、絶対行きたくないな」


「しかし、アナベル(女神)様の願いならば。カナタ殿は行かれるのではないですかのぅ」


ムッ。

痛いところをついてくるね。


 ホホホッと好々爺の様に顎髭を撫でながら笑うゲイツさんに、僕はハッキリ否定は出来ない理由もあるので、軽く恨めし目線を送る事しか出来ない。


「ところで、カルターナの街というのはどんな所なのですか?」


 サクラが、姫華のグラスにお替りのジュースを注ぎながらゲイツさんに訊ねる。


「そうですなぁ。一言で言えば砂漠の民の街ですな」


「砂漠の民?」


「そのままに砂漠の地で生まれ砂漠の地で育った者という意味ですな。元はカルターナという1つの国だったのですがのぅ。といっても砂漠の中の国ですからの、至ってその規模はとても小さいものでしてのぅ。長年に渡って砂漠化が進み、国と呼ぶには些か難しくなり、その状況に心を痛めた当時のカルターナの王が民を守る為に隣国のアルバ共和国に助けを請い、アルバ共和国からはカルターナを国ではなく街としてならと。要は同盟国でもなく属国でもなくただの接収ですのぅ。それでも民を護れるのならばと、カルターナの王はそれを受け入れ国ではなく街になったという訳ですのぅ」


「では、そのカルターナの王族は今のカルターナの街の領主というわけですね」


 サクラの言葉に、姫華が首を左右に振る。


「いや、そんな簡単な話では無いのじゃ。当時の王族は売国奴として民から反発を受けたのじゃ。良かれと思ってした事が相手にしてみたら迷惑行為。それを悲しみながら断腸の思いでカルターナの地を離れたそうじゃ」


 流石、ゲイツさんよりも長く生きている姫華も知っている話だったね。


「……むぅ」


ちょっ痛い!

姫華!

脇腹抓るのやめて!


「では、今のカルターナの街の領主は誰?なのです」


「確か、当時のアルバ共和国出身で近衛大隊長をしておった者が兵士を引き連れて、カルターナに乗り込みそのまま領主になったとか。当時のカルターナの貴族や民衆からの反発を抑える為の示威行為ですのぅ」


「ふ〜ん。じゃぁ今のカルターナの街の領主はその血筋なんだね」


「そうですのぅ」


 脇腹を擦る僕を見ながら、笑いを堪えるかのように顎髭を撫でながらゲイツさんは頷く。


「で、結局カルターナの街はどんな所なのですか?」


 どうやら、サクラが聞きたかったのは歴史ではなかったようで、再び同じ疑問を投げかける。


「ふむ。街の中心に大きな湖があり、何とも異国情緒が漂う場所だと聞いておるのぅ」


「それは、楽しみですね♪」


 自分の聞きたかった事が聞けて嬉しかったのか、それとも異国情緒という言葉に感化されたのか、サクラは両手を合わせながら微笑む。


……それにしても砂漠の民かぁ。空飛ぶ絨毯とか魔法のランプとか願いを3つ叶えてくれる大魔神とかの国に近いのかなぁ。


「う〜ん!じゃぁ、そろそろ行こっか」


 両手を上に伸ばしながら立ち上がると、他の皆も賛同するかの様に立ち上がる。


「楽しみ。なのです」


 嬉しそうに僕へと笑いかけるイリスの頭を同意する意味で僕は撫でると、彼女の笑みがよりいっそう深くなった。


 そして片付けを終えた僕達は、再びカルターナの街へと歩き出した。

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