080話
僕達は1週間程、アルバ共和国の街の1つサンチェに滞在していた。
シャルロッテ姫とマリアンヌ率いる騎士団一行は、翌日には首都に向かって出発したらしいけど。
「……これは、何処まで続くのじゃぁ〜」
「……果てしない砂の大地ですねぇ」
僕のフードの中に入っている姫華がため息混じりに声を出すと、その言葉に賛同するかのように立ち止まったサクラが、帽子をずらしハンカチを額に当てながら周囲を見渡す。
……サクラ。
キミ、汗腺ないじゃん。
何のアピール?
サクラが立ち止まったのが合図だったかの様に、自然と皆の足が止まる。
熱い日差しが容赦なく、僕達に降り注ぐ。
ゲイツさんはハットで日差し避け、サクラと姫華は麦わら帽子で日差し避け、イリスはフードですっぽり目元まで隠して日差しを回避しているというのに……。
「……姫華、僕のフード返してよぉ」
「嫌なのじゃ」
うわぁ。
被せ気味に言い切ったよ。
「日差しが眩しいんだよぉ」
「カナタにフード返したら、妾は歩く事になるのじゃ」
「歩きなよ。もう、体調万全なんだよね?」
「こんな、足元が不安定な所は疲れるから嫌なのじゃ!」
うわぁ。
清々しいくらい力強い言い切りですよ。
しかも、優しさ成分0だし……。
「……それに、ココは快適なのじゃ」
確かに、僕のコートは暑さはもちろん寒さにも強く常に適温を保ってくれるから、気温が40℃近いこの地でも体は暑さを感じない。
……ただ、コートの恩恵を受けていない顔だけは、雲ひとつない空から照りつける太陽によって、額から出てくる汗がとまらないのだ。
……この体、日焼けするのかな?
「……姫華、カナタ様に我儘ばかり。いい加減にしなさい。なのです」
僕と姫華のやり取りに、とうとう我慢の限界が来たのだろうか、救世主イリスが立ち上がる。
そして、彼女は僕のフードに手を掛ける。
「な、何をするのじゃ。やめるのじゃ!」
背中越しに聞こえる姫華の声に切迫さを感じさせる。
姫華が抵抗するようにフードの中で暴れる度に、コートが後方に引っ張られ僕の首が絞まって苦しい。
「ーー姫華!暴れないで……」
「なら、イリスを止めるのじゃ!」
だから!
暴れるなって!
……苦しい。
「問答無用。なのです」
「はなっーー」
姫華の「やぁぁぁぁぁ!」という声が頭上から聞こえたと同時に、子狐姿の彼女が飛んで行った。
振り向くと、イリスが投げ切った感のある体勢でドヤ顔の表情のまま、姫華が飛んでいった方向を見ていた。
そして、僕と目が合うとスッと何事もなかったかのように姿勢を正した後、ニコリと微笑んだ。
僕もそんなイリスに特に指摘をすることもなく笑顔を返す。
……助かった。
もう少しで、落ちるところだったよ。
そして、僕の顔にフードが被さる。
おぉ!
めっちゃ涼しい!
さすが、アナベル女神特製のコート。
フードのお蔭で汗が引いていくのを感じながら、イリスを見ると嬉しそうに微笑んでいるので、僕は感謝の意味を込めて彼女の頭を撫でた。
「それにしても、随分飛びましたのぅ」
「マイロードの優しさに甘え過ぎた姫華さんが悪いのです」
ゲイツさんとサクラは姫華が飛んでいった先を眺めつつ、僕に近付いてきた。
「それにしても、この状況はいつまで続くのですかのぅ」
ゲイツさんのローブも僕とイリスと同様に高機能なのだが、ハットを被っているせいで顔まではカバーできていないというのに、彼の顔は涼しげで暑さを感じていない様に見える。
おそらく暑さをカバーする魔術でも使っているに違いない。
一方のサクラは、お忘れかも知れないが機械人形だ。
気温の変化という些末な事など、自動的に体が稼働可能体温の調整を行う彼女にとっては関係ない。
……便利な機能だよね。
「う〜ん。さっき確認した感じだと後10kmぐらいだったから……」
「マイロード。じゅ……きろ?とはどれ位なのでしょうか?」
あれ?この世界だとこの単位使えないのか。
ここの世界の人々は、時間で教えても理解出来ないし。
……う〜ん、どうしたものか。
「大体1万6千歩くらい歩けば着く。なのです」
僕と手をつなぎながら、何でも無い風に話すイリス。
「1万……」
「むむむ。まだ着くには遠いですのぅ」
イリスの言葉に、サクラは幾分呆然と進む方向を見つめ、ゲイツさんは顎髭をなでながら目を細める。
二人共、歩くのに疲れた様子だ。
「まぁ。日が落ちるまでには余裕で着くから、ここでひと休みしようか」
「では、用意します。なのです」
僕の提案にイリスが同意すると、ふ2人の表情も幾分和らいだ。
そういえば、ココに来てから今まで歩きっぱなしだった。
突然の出来事に、僕も含めて皆冷静さを欠いていたようだ。
……反省。
イリスが鞄からパラソルやテーブルやイスを取り出して設置し終えると、遠くまで飛ばされていた姫華が戻って来た。
「ーー大変な目にあったのじゃ……」
頭からつま先まで砂まみれの疲れ切った姫華の姿に、皆の笑い声が砂の大地に広がる。
そして、僕達は和やかムードの中で休憩を取るのだった。




