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079話



 道と呼べる所まで辿り着いた僕達は、この上なく運が良かった。


 シャルロッテを探しに来たアルバ共和国の騎士団に遭遇し、シャルロッテの「お送り致します」の一声で、僕達は貴族仕様の馬車に乗せてもらえることになったのだ。


 さすが貴族仕様の、しかも王族用馬車だけあって、内装も豪華で乗り心地も良い。


 車内は、僕達5人(プラス)シャルロッテが座ってもまだ余裕がある。


 まぁ、姫華は僕の膝の上なのだけれど……。


 僕の膝上ではしゃぐ姫華を、頬を膨らながら見つめているイリスの可愛い姿を見れたから、GJ(グッジョブ)!と思っておこう。


 ちなみに、マリアンヌは騎士団の部下から馬を拝借して乗り、護衛として馬車に併走している。


 そんな流れで、僕達を乗せた馬車は快適に順調に村を3つを通り過ぎた後、共和国では初の街・サンチェに到着したいのだった。


「ーー姫。日も落ちかけておりますゆえ、本日はこのサンチェにての宿泊になります」


 街に入る前に、馬車は一時停止すると、マリアンヌが片膝を付き、目線を下げたままシャルロッテに報告する。


 中々、堂に入った優雅な所作を見せるマリアンヌの姿に、思わず僕は息を呑む。


おぉ。

マリアンヌ、騎士っぽい。


「先触れを出すのと同時に宿の手配もしておきましたので、そちらにご案内致します」


「分かりましたわ。ではーー」


「では、僕達はここで……」


 僕達が腰を上げて馬車から降りようとすると、シャルロッテから待ったがかかる。


「えっと、皆様どちらへ?」


「ん?このまま一緒するのもなんだから、ここで降りようかなと」


「そんな!このまま、我が城までご一緒してもらい御礼をさせて頂きたいとーー」


「あ。結構です」


 僕は右掌を前に出しながら、シャルロッテの言葉に被せ気味で即答すると、戸惑いを見せていた彼女の顔が固まった。


「へっ?」


「カナタ様は、御礼はいらないと言っている。なのです」


 僕に向けて手を伸ばしたシャルロッテに対して、イリスが僕の前に入り立ち塞がる形になった。


……なんだろう。

この一触即発的な雰囲気。


「それは困りますわ。恩を返さないなんて王家の恥になってしまいます」


 伸ばした手を引きながらも、僕達に同行を求める態度は引かないシャルロッテ。


 2人の間に火花が散った気がしたが、気の所為だろう。


『面倒な女子(おなご)達なのじゃ』


 フードの中から顔を出しながら、起きたばかりなのだろう、欠伸を噛み殺しながら念話を飛ばしてくる姫華を僕は同意する代わりに彼女の頭を撫でると、頭を撫でられて嬉しかったのか、僕の手に頭を押し付けてくる。


『シャルロッテもイリスも真面目さんなんだよ』


『そんな事よりも、早うのんびりしたいのじゃ』


……それは、僕だって同じだよ。


「あ。いや、カナタ殿を含め私共の旅の目的は、見聞を広めるというものでありますからのぅ」


 先に馬車から降りていたゲイツさんが、珍しく慌てた口調で僕のフォローに入ってくれる。


「カナタ殿は、一足飛びに首都まで行くのは良しとしないと」


「確かに、見聞を広める旅でしたらそれは不本意になってしまいますわね」


 ゲイツさんの言葉に、シャルロッテとマリアンヌ達は納得した様子を見せる。


なんか、良い感じに話がまとまったかな。

僕、何もしていないけど。


「カナタ様は、面倒くさいと言っている。なのです」


「「……………」」


 イリスの一言は、ゲイツさんを額に手を当てながら渋い表情にさせ、シャルロッテとマリアンヌを口を開けたままフリーズさせてしまった。


さすが、イリスさん!

パネェッスね!


ーーって、言ってないじゃん!

……思ってはいたけども。


「「…………」」


 ギギギィと擬音が聞こえてきそうなぎこちない動作でこちらを向き、そして僕を見つめる2人の瞳に何となく水っぽいモノを浮かべているのを見つけた瞬間、自分の中で焦りが生まれる。


エッ!?

泣かした?

本気(マジ)泣き?

女子の涙は反則ですっ!


「……えっと…いつになるかは分からないけれど……首都に着いたら会いに行く。という事で……」


 ーー許して欲しい。

 と、言葉を続けようとした瞬間、シャルロッテから不意に両手を握られる。


「約束ですよ!絶対に会いに来てくださいね!」


「カナタ殿!絶対ですよ!」


「……あ、はい」


「「「………………(じぃー)」」」


 背中越しに突き刺さる視線を感じながらも、僕は2人と約束を交わす。


仕方がないじゃないか!

美人の2人に上目遣いで見つめられて、断れる男がいるのなら今すぐ連れてこい!


「では、そういうことで……」


 笑顔で手を振るシャルロッテを乗せた王族馬車が、街の門を潜っていくのを少しの間見送っていた僕達だったが、歩行者用の入り口に向かって歩き出す。


「……疲れたね」


「……疲れましたのぅ」


「早く休みたいのじゃ」


「もう、姫華さんはずっと休んでいるじゃないですか」


「しぶとかった。なのです」


「「「………………」」」


ようやく、僕達はアルバ共和国の街に足を踏み入れたのだった。

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