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073話



 イリスの指示を受けながら、怪しく光る鉱物を外しながら歩いて行くこと10分と少し。


 ようやく、僕達はボス部屋に辿り着いていた。


「いやぁ。結構、時間掛かったねぇ…ハァ」


「陳腐な仕掛けだった。なのです」


 立ったりしゃがんだりの動作を繰り返して、若干バテ気味の僕とは違い、すこぶる元気なご様子のイリスさん。


……修練の賜物というやつか。


 僕も、もう少し真面目に体力作り頑張ろうかなぁ。


 いくら天界人が下界人よりも身体能力が優れていたとしても、やっぱりトレーニングは必要不可欠なのだ。


「さて、ご対面致しますか」


「はい。なのです」


 扉のない部屋の入り口から、一歩足を踏み入れると……そこは沢山の石像が飾られている、一見すると美術館のような雰囲気を醸し出している。


 暗闇の通路とは逆に、カンテラっぽいデザインの照明が、四方から照らされていて幾分明るいが、オレンジ色の灯りはこの部屋の主までは届いていなかった。


 部屋の中央奥に、ソイツはいた。


「ようこそ、我が癒しの空間へ……」


 抑揚をつけて話しかけてきたソイツは、背もたれの部分が長い肘掛け付の椅子に座っていた。


「全く、君達は賢いね。あの、仕掛けを解除してしまうのだから。そちらのお嬢さんだけなら、直ぐにこの部屋へ辿り着けたというのに……」


 相変わらず、ココが舞台か何かのように発声するソイツは、左側の口角を上げて鼻を鳴らした。


……なんだろう。すごく気分が悪くなってきた。


 コイツの態度は、明らかな上からの物言いだ。


 今までがそうだったように、これからも変わらないという驕りがあるのだろう。


……一般では、それを油断という。


「まぁ、いいや。賢い君達に免じて2人一緒に僕のコレクションに加えてあげるよ。少年の方も良く見るとココ(・・)にいる娘達と遜色ないくらい美形だしね」


 こちらに向けられた下卑た視線を感じた僕は、一気に身体中に鳥肌が立った。


 コイツ、キモイ!

 そして、クズ!


「カナタ様への侮辱……万死に値する。なのです!」


 そう、イリスの声が僕の耳に届いた時には、既にクズに向かって跳躍していた。


「おや、意外にも勇敢なお嬢さんだ。だけど、その刃はこの僕には届か……」


 ガギィーーーン!


 イリスのダガーは、彼が座っていた背もたれの外枠を切りつけていた。


 あの椅子、本物の金だったんだ。てっきり、木製に金箔を貼っている物だと思っていた。


 イリスはそのままクルリと宙返りをして、何事もなかったように僕の隣へと着地を決める。


「ーーなっ!なっなっなななななぁぁぁぁぁ!」


 運の良いことに、イリスのダガーを免れたクズは、椅子から無様にずり落ちて、先程までの余裕などなく、驚愕の表情を浮かべて言葉にならない言葉を叫んでいる。


 あの余裕、そして「刃は僕には届かない」と言おうとしていたところをみると、あのクズは己の周囲に障壁的な術でも施していたのかも知れないが、天界人(僕達)にはそういう類いのものはない(・・)に等しい。


 それにしても。と、僕はクズを観察する。


 僕より背が低い太っちょ体型で、絵本で見かけた王子服を着て、これも定番の赤色マントを纏っている。鼻からは鼻水を垂らし、金髪のサラサラマッシュルームヘアが大幅にズレ(・・)ているのを気付いていないところを見ると、クズにはもう余裕ゲージはゼロらしい。


 王冠は……あ、ズレ(・・)るから被るのやめたのかな?


 そんな中で僕は、クズの左腕に身に付けている腕輪に注視する。


……アレか。


 その腕輪は、蠍がモチーフになっているようだ。


『イリス、ビンゴだ。アイツの左腕に嵌まっている腕輪!』


『でも、どうやって外します?なのです』


……そうだった。腕を切断するわけにもいかないし、お願いしても聞いてもらえるわけないし。


 それに、かれこれ僕達と相対してから時間はそれなりに経過をしているのだか、クズに変化は見られない。


……おかしいな?


 司祭()の時は、僕達と相対して直ぐに精神崩壊が始まったから、このクズもそうなるものだと思っていたのだけれど。


 どうやら、僕の思い込みだったのか。


 それとも、このクズの精神が図太すぎるのか。


「~~っ!許さないぞっ!もう、オマエ達は()にした後、粉々に砕いてやるからなぁぁぁぁぁぁ!!」


 怒髪天とは良く言ったもので、クズが己の体を怒りに震わせ過ぎて、頭部が勢いよくズル剥けになる。


 しかし、その姿を目にした瞬間、僕の胸の鼓動が大きく跳ねた。


 僕は、てっきり金髪のサラサラマッシュルームヘアの下は、薄毛もしくはツルツルなのかと思っていたのだが……。


「……予想の斜め上をいくって……こういうことなんだねぇ……」


 思わず独り言が口から漏れるが、そんな僕の胸中など知る由しもないクズは、僕に左手を向ける。


「ーー行けぇ!」


 クズの言葉と共に、地面の土が波をうち始めて、土の下の何かがどんどん此方へと近付いてくる。


 再び、臨戦態勢をとるイリスを僕は右手を軽く上げて制し、視線は近付いてくる何かに向けたまま。


……左足を狙っているのかな?


 土の盛り上がり具合から察するに、細長い物のようだ。


 狙いがどうやら左足だと確信した僕は、相手に気付かれない様に少し浮かせる。


 そして、勢いそのままに僕の足下に来たソレに向かって、浮かせていた左足を少し強めに地面へと下ろすと、その振動が衝撃波並みの威力を発揮して、地面の中にいたソレが地面の割れ目からニョキッと飛び出してきた。


……何コレ!?気持ち悪い!


 思わず、右手で出てきたソレを叩き落とすと、少し力の加減が出来ていなかったようで、僕に叩かれたそれは、再び地面へとめり込むように倒れた。

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