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072話



 静まり返った洞窟の中を、僕達は奥へと進んでいく。


 土に染みた水分が水滴となり、時々ポトリと地面に落ちるので、歩く度にヒタヒタと音が鳴るくらい湿っている。


 今回は、敢えて光球は控える事にする。


 何となく、この奥に居るであろう相手を下手に刺激して、被害が甚大になるのを防ぐのが狙いだ。


 僕達は、恩恵のお陰で暗闇でも視界は良好!なんだけど、それでもこういう若干怖い雰囲気を醸し出している場所は、正直苦手だ。


 そんな僕とは正反対のイリスは、むしろ嬉々とした様子で足早に歩いている。


 あぁ、嫌だなぁ。

 進んでも、嫌な予感しかしないし。

 でも、行かないわけにもいかないし……。


「……イリスさん?そ、そんなに急ぎ足でなくても…逃げたりしないと」


 思うよ。という前に、イリスの歩みが止まる。


 彼女は、どうやら扉から少し進みだしてから目につくようになった、一定の間隔に置かれている石像が気になったようだった。


「皆、女性。なのです」


「まぁ、ココの(ぬし)?が女好きだからねぇ。コレクターっていうのは、見せびらかしたい生き物だし」


 ここまで来て、目にした石像は先ほど述べたように、女性の石像で兎族の子や犬族の子など様々な種族で、勿論人族の女性もいる。


 見た目からで言うと、年齢の幅も広い感じだし。これを設置した何者かの好みなのだろうか?


 地面に座っていたり、仁王立ちだったり、剣や弓を構えていたりとポーズも様々だ。


「……これは、どういう状況ですか?なのです」


 そんな中、イリスが足を止めたのは変わったポージングをしているエルフ族の女性の石像。


 どうやら、あまりにも彼女の姿が謎過ぎて気になったようだ。


「確かに。何だろうね、コレ」


 中腰姿勢で、こちらに中々に形の良いお尻を向けて、右手は右膝に左手で口を隠して後ろを気にするかのように、こちらを見ている。


……本当に、どういう状況なんだ。


「それにしても、どうやって造ったんだろう?……」


「ナントイウコトデショウ!」


 突然、両頬に手をあて驚きをの表情を見せるイリス。


「見事な巧みの技ですねぇ。なのです」


「………………」


 胸の前で両腕を組みながら軽く頷いたイリスの口から、なんちゃら鑑定団と何とかアフターのコラボ発言が飛び出した。


……だから、どこで仕入れてくるんだ!そういうネタ!っていうか、ごちゃ混ぜだし、それに声真似まで。


 一瞬、ロマンスグレーの頭に眼鏡越しから見える優しげな眼差しの着物が良く似合う御仁がよぎったし。


「……イリスは、芸達者だねぇ」


「えっへん。なのです♪」


 これ以上は、許容範囲外だと判断した僕は、取り敢えずイリスの頭を撫でて誤魔化すことにする。


「それにしても、僕的にはコレ等は趣味じゃないなぁ……やっぱり、笑顔が1番だよねぇ」


「同感。なのです」


 石像の総評をし終わった僕達は、止めていた歩みを進め始めた。


 こうも1本道だと、距離感が少しずつ麻痺してくる。


 千里眼を探った感じだと、歩いて10分位の1本道だと認識しているのだが、体感だとかれこれ30分位経過している気がするなぁ。


 確かに、僕の歩みは普段より遅かったにせよ、石像を眺めていた時間などがあったにしても、もうそろそろ到達しても良い頃なのに。


 まだ、着く気配が感じられない。


「……ねぇ、イリス。何か不思議だねぇ」


 この感覚、グレナ王国での司祭の件と酷似しているのだ。


「また、人工石ありますか?なのです」


「あ~、あの石かぁ。どうだろ……確かに、阻害されている感じは似ているカモ」


 周囲を見回した限り、あの石は無さそうな感じ。


 おそらく、阻害されている原因は僕だという事は明白なのだが、じゃあイリスにお任せ!とはいかないわけで……。


「……そう言えば、あの司祭が身に付けていた首飾り……『強欲』って姉さんが言っていたっけ」


「今回も。なのです?」


「う~ん。一概には断定出来ないけれど、その繋がりで当てはまるのは……『色欲』かなぁ」


 こうもあからさまに、女性ばかりの石像を並べられては、そう判断するしかなく。


「きっと、当たり。なのです」


「ハズレているのを、願いたいなぁ。僕としては」


 そうは言ってみたものの、まずは目の前の課題を打開しないと確かめる術もなく、ラックの想い人も救えない。


 何かしらの方法で、無限回廊状態になっているのだとしたら、おそらく奥に居るであろう奴の魔術か魔道具の2択になるわけで……その事を、イリスに伝えると。


「魔術の可能性は、ありません。なのです」


 天使族は、聴覚だったり嗅覚だったりと5感などが神族より鋭いのが特長であり、その感覚の鋭さから危険を察知する能力に長けている理由で、神族を助ける守護天使なる役職が誕生したのだ。


 勿論、術の気配なるものも察知する事ができ、教会での石の発見も偶然ではなく天使族のイリスだから気付けた事。


……イリスって、天界ではトップクラスの有能天使なんだよなぁ。外見が幼すぎるから、つい忘れがちになるんだけど。


「僕には見つけられないけど、怪しい雰囲気の石の類いの気配なんかあったりするかな?」


 僕の問いかけに、彼女は右腕をスッと上げて1体の石像を指差した。


「あそこから嫌な感じがします。なのです」


 イリスが指し示した石像を注意深く見て回ると、イリスが感じた嫌な感じは石像自体ではなく、その足下に嵌め込まれた鉱物が原因のようだ。


「きっとコレが、阻害の正体だね。でも、コレ外しても良いのかなぁ……」


 外した途端に、石像壊れたりしないかな?


「何も起こらない。なのです」


「ーーへっ!?」


 嵌め込まれた鉱物を、無造作にカポッと取り出すイリスさん。


……こういう時って、女性の方が男子力発揮するんだよね。


 男前過ぎます、イリスさん。

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