068話
……どうして、こうなった。
ブリタの村で、そこの住民である獣人族の連中と一触即発状態だったのに。
焚き火を囲む様に、飲めや歌えやの大宴会に突入していた。
「客人達をおもてなしするぞ〜!」
突然の村長の一声に、様子を伺っていた村人達が一斉に準備を始めていき、僕達は主賓席に追いやられた。
……大歓迎ムードだねぇ。
「ーー飲んでおりますかの、ゲイツ殿」
「おう、村長。うむ、この酒は美味ですのぅ」
戸惑う僕を置いてけぼりにして、ゲイツさんは大好きなお酒が入っている盃を片手に、村長と和気藹々と酌み交わしている。
僕はその光景を見ながら、溜め息を飲み込むかのようにライムエールを口にする。因みに、姫華もこの味がお気に入りだったりする。
そうして宴は進んでいく中、次第に「ま、いっか」と言う気持ちに変わった僕は目の前の料理を摘みながら、ふと思う。
「それにしても、流石に獣人族の食事というべきか……肉ばかりだね」
「野菜は重要。なのです」
「じゃの」
「茶色ばかりでは、つまらないですね。主様のオベントウの方が私は好きですね。目でも充分愉しめますし」
やはり、各々の言う事は「野菜がない」の1択だった。
そう、とにかく肉肉肉ばかりか、大皿に積まれているのだ。まぁ、それぞれ、肉の種類が違うのだろうが、全て焼き料理なので一緒に見えるのは仕方がない。
……胸焼けしそう。
でも、ココで鞄から姉さん特製の弁当を食べる暴挙は、差し控えることにする。
言い忘れていたけれど、今の僕は『良い人キャンペーン中』なんだよね。
この世界に来た頃に比べて、そろそろ1年経とうかとしている今、最初からのメンバーに加えて、サクラや姫華という新たなメンバーが増えた事によって、以前の様に自己中心的な行動が出来なくなったのが正直な理由なんだけど。
サクラは非戦闘員であり、姫華も今は力が無いし、元巫女の身の上で元々戦闘は得意ではないので、僕はこの2人を守らないといけない。
2人に出会う以前のように、例え気に入らない事があっても、すぐに行動に移せるわけもいかなくて、我慢も覚えた。
……少し、だけどね。
そんな訳だから、黙って出された料理を口にする僕。
飲み物は、譲れません!
「食事はともかく、賑やかで楽しいのじゃ」
「飲めや歌えや。なのです」
「獣人族の踊りは、何だか逞しいですねぇ♪」
僕以外の仲間達は、この宴を楽しんでいるようで。僕の気持ちはともかく、皆の楽しそうな笑顔を見る事が出来ただけで、良しとしよう。
「それにしても、力強い踊りだねぇ。あ、でも女性は逞しさの中にもしなやかさがあるんだなぁ」
いつの間にか、僕も仲間達と同じ様に、獣人族の踊りに見入っていた。
男性陣は、拳を握り締めて雄々しく太鼓の音に合わせて、地を踏み鳴らしながら踊っている。一方の女性陣は、指先までしっかりと伸ばした掌をこちらに向け太鼓の音に合わせて、リズミカルにステップを踏みながら踊っている。
焚き火を囲いながら、踊るその光景は火の揺らめきがそう思わせるのか、とても幻想的な光景として僕の目には映っていた。
「ーーなぁ、ちょっといいか」
暫し踊りに見入っていた僕の視界を遮るように、声を掛けてきたきたのは、イリスに吹っ飛ばされた白狼族のラックだった。
「邪魔。なのです」
イリスの鋭い声に、「ヒッ」と声をビビり声を上げつつも彼は僕の前で正座になる。
「村長から聞いた。お前「言葉に気をつけるのじゃ」……あなた様の強さの事を」
僕の右側にはイリスが、そして左側には姫華が座っているのだけれど、ラックが僕を「お前」と言った瞬間、姫華の鋭い声に「あなた様」に言い換えるヘタレなラック。
「それで?」
「ーーオレと勝負してくれっ……じゃなくて、勝負して下さい!」
……あ、土下座。
「……ゲイツさんとの結果は?」
聞くまでもないけど、取り敢えずラックに振ってみると、やはりなのか下唇を噛み締めながら苦々しい表情になる。
「どうなったか聞いている。なのです」
「ーーけた」
「うむ?良く聞こえなかったのじゃ」
ラックは、地面に顔を伏せたまま微動だにせず、仲間達の言葉に益々唇を噛み締めて……若干目には涙を滲ませている。
負けを告げるのは、獣人族としても男としても、悔しくて屈辱なのだろう。ましてや、大人の男のゲイツさんならまだしも、どう見てもラックから比べれば、か弱そうな少女に見えるイリスに吹っ飛ばされた事実の方が精神的にキテいるはずなわけで。尚更、口にしたくはないだろう。
「ゲイツさんに、勝てない君が僕に勝てると思っているのかい?」
「ーーそれはっ」
「というか、君はこの村で何番目なんだい?」
僕の言葉に、ハッとした表情で顔を上げたラックは、僕と視線が合うと直ぐに自ら視線を外した。
「君は、勝負!勝負!と言うけれど、負けっぱなしの勝負は君の糧になっているのかい?」
僕は彼とのやり取りで、ラックは負けるのは悔しいという気持ちは持っていることは分かったし、自分がそれほど強くないという事も自覚しているということも分かった。
そして、彼と視線がぶつかった時に、彼の瞳にヒントを見つけた。
ーー彼は、誰を探しているのだろう。