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006話



 森を出たら、そこは草原でした。


………………。


「――って。確かに森から出て直ぐに、町があるとは思ってはいなかったけどさぁ」


「見渡す限り草ばかり。なのです」


 それにしても、と思うのは僕の我が儘だろうか。


 テンプレ的な話の流れでは、森を抜けた先で盗賊に襲われている商隊に遭遇、救助するとお礼にと近くの町まで馬車で送ってもらうというのがある。


 もしくは、商隊をお姫様が乗っている馬車に置き換えたりもする。


 最近だと、商隊から冒険者に置き換えている話も、あったりなかったり。


「……草と僕」


「イリスもいる。なのです!」


 僕の呟きに、イリスが右手を挙げる。


 意味のない事でも、仲間に入れて欲しいらしい。


「そうだね。草と僕とイリスだね」


「はい。なのです♪」


 頭を撫でると嬉しそうに笑うイリスを見て、和んだ僕は思考を切り替え、草原を見渡しながら、このままでは埒が明かないと思った僕は、能力を使う事にする。


 神族の特性その1、千里眼。


 その名の通り、遠く離れた土地まで見える能力。


 僕は取り敢えず、現在地から近いと思われる場所を頭に浮かべながら視る。


 目測だと大体、10km先に村があることを確認する。


 村でいいよね?

 木造建築の家ばかりだったし。


「よし、見つけた」


 僕は能力を解除して、イリスに結果を報告する。


「ここから、南南東10km先に村?が在るみたいだよ」


「では、そこに行くのですか?なのです」


 首を右に傾けながら、僕に尋ねるイリス。


 イリスの役目は、僕の護衛。


 だから、行き先は僕に決定権があるが、なるべくイリスの意見も聞くつもりでもある。


 これから一緒に、この世界を旅する仲間なのだから。


「う〜ん。村よりも町の方が良いかな?僕のイメージの村って、宿泊施設がない感じ」


「場合にもよると思う。なのです」


「例えば?」


「その村が、何かの名産地だったり。なのです」


 イリスの言葉に、僕の脳が反応する。


「確かに、買い付けにくる商人達が出入りする所だったら、その人達の為の宿泊施設があるよね」


「はい。なのです♪」


 そこで先程視た村を思い浮かべるが、何となく当てはまらない気がするんだけど。


 ザ・寂れた村。


 って、印象を受けたんだけどなぁ。


 でも、僕がそう感じただけで、この世界での村は、全てあんな感じなのかも知れないと思い直す。


「じゃ、行こっか」


 僕達は、村がある方角に向かって歩き出す。


 それにしても、この草原。踏み荒らした跡がないのだけど、ここまで人や魔物は近付いて来ないってことなのかな?


「ねぇ、イリス。ここの草原も、結界が張ってあるのかな?」


「いいえ。結界は森の周辺だけなのですよ」


 だよねぇ。

 気配、感じないし。


「おそらく、森からの影響で人も魔物も、近付きたがらないだけ。なのですよ」


 成る程。

 それで、手付かずの土地になっているのか。


 これなら、意外な草とか花があっても不思議ではなさそうだけど。


 そんな風に考えながら、のんびり歩いている僕のお腹がグーと鳴る。


 この世界に降りて判明した、ちょっとした特技。


 僕の腹時計は何気に正確です。


 それを聞き逃さないイリスは、鞄を下ろし昼食の支度を始めてくれる。


 流石は僕の、守護天使兼お世話係なイリスさん。


 イリスが鞄から最初に取り出したのは、ミニチュアのテーブル&椅子。


 ソレを1つずつ両手で包むように持ち、ポイッポイッと投げると、ミニチュアだったテーブル&椅子が、僕達に丁度良い大きさになる。


 正直、家と同じで仕組みなんてサッパリ分からないから、そういうモノなのだと。僕は思うことに決めた。


「今日の、お昼は何かな♪」


 用意された椅子に座り、鞄に手を入れる。


 すると、何かが手に触れる感覚、僕はソレを掴んで鞄から外に出しテーブルの上に置く。


 僕が取り出したのは、二段重ねの弁当箱&箸。


 蓋を開けると、僕の好物のオカズが詰まっている。


「流石、姉さん。厚焼き玉子、今日も入れてくれている♪あ、ハンバーグもある♪」


 弁当の中身は、前世の僕が口にしていた物で、食べ慣れている方が良いだろうと、姉さんの優しい配慮だ。


 確かに、知らない素材の知らない料理を食べる勇気はなかったから、姉さんの配慮は凄く有り難かったけど。


 だから向かいで、お茶の準備をしているイリスが笑っていても気にしない位、僕のテンションはMAX。


 この世界に降りてからの僕の最大の楽しみは、姉さん手作りの弁当なんだ。


 僕とイリスが使っているお揃いの鞄は、姉さんと繋がっていて、過保護な女神は、僕達の食事の心配もして、弁当を鞄に入れてくれている。


 最初は、イリスが自分が作ると言ったのだけれど、「弟の食事の世話は姉の役目!」と訳の分からない事を言い出し、結局イリスが折れた形で収まった。


 姉さん。そんなに弟が可愛いと思ってくれているのなら、何故に旅に出す?


 しかも、初日に追い出したじゃん。


 まぁ、僕好みの弁当だから文句はないけど。


 僕達の鞄、マジックバックの中は、時間が止まっていて、例えば温かい物を入れても、冷めることなく、どんなに長時間放置していても、取り出すと入れる前の状態のまま、腐ることもない便利アイテムなんだ。


 きっと、僕の鞄の中は沢山の弁当が入っているに違いないハズ。


 まだ森で生活し始めたばかりの頃、そういう話をイリスにしたことがあったけど、「怖いから」と止められたっけ。


 別に僕は大食漢ではないから、1回の食事は弁当1つで十分足りるからその時は気にしなかったけど、今考えてみると無尽蔵に弁当が出てきたら……。


 うん。

 確かに怖い。

 別の意味も含めて、恐怖しかないね。


 まぁ。気にしたら負けな気もするし、それよりも今は目の前の恵みに感謝して。


「よし。では、いただきます♪」

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