064話
『ーー俺と勝負!』
そう何の脈絡もなく言い放ったソイツは、背負っている大剣を右手だけで軽々と引き抜いたかと思うと、目の前にいたゲイツさん目掛けて降り下ろす。
「……不意打ちとは、感心せんのぅ」
しかしここは、僕らのゲイツさん。
彼の斬撃を半身に捻ったかと思うとそのまま横に飛んで難なくかわし、空を切った大剣はそのまま地面を打ち付けるかたちになったのだが…………。
ドゴォォォォォォォン!
……結論から言いますと、地面がパカッと割れました。
「ーー馬鹿力。なのです」
だよねぇ。
既に避難済みだった僕達は、岩場にのんびり腰を下ろしながらキレイに割れた地面を見つめる。
長さにして約100m位で深さはざっと見積もって2m弱といった感じ。
それにしても見た感じ、彼の持っている大剣は何ら変哲もない鉄製に見えるのだが、見た目と威力が比例しないのにはどういう理由があるのか。
「アレは、魔剣の類いじゃの」
僕の疑問をすぐに察して答えてくれるところは流石は姫華、伊達に見た目は子狐、中身は大人ではない。
「ーー何か、失礼な事を思っているかの?」
僕の膝の上に位置換えをしていた彼女は、これまた察知したのかつぶらな子狐の瞳に若干鋭い光を込めながら、僕を見上げる。
「……断じて」
怖っ!
こわっ!
一瞬で全身から嫌な汗がブワッって出てきたよ!
……失念していた。
女性に年齢の話題は御法度だった。
「……まぁ、良い」
直ぐに、追求の手を緩めるところは流石……
って、危なかった!
また、地雷を踏むところだったぁ。
気を引き締めねば、うん。
「……魔剣ねぇ」
「へぇ。私、初めて見ました魔剣♪」
「普通。なのです」
魔剣と言われても、僕には余りピンとこない。
……だって、やっぱり見た目普通にしか見えないんだよね。
「それにしても、何故『勝負!』なのじゃ?」
「僕が知りたいよ……はぁ」
アイツは、何で勝負なんて挑んできているのか。
「う~ん。もしかして、この山に入るには、勝負をして勝って許可を得なければいけないのでは?」
「……そんな仕来たりが」
「ない。なのです」
「えっ?無いのってか、何でそんな事知っているの、イリス」
「アナベル様にお訊ねして、先程お返事を頂きました。なのです」
イリスは、アナベルの手紙を見せてくれる。
どうやら大剣の衝撃音で、姉さんからのお知らせアラームが聞こえなかったようだ。
手紙の内容は……
『久しぶりに手紙が来たかと思ったら、どうでも……コホン。では、可愛いイリスの為に質問に答えるわね♪ーー』
どうでもって……。
どうでも良いって事だよね。
本音。
隠しきれていないよ、姉さん。
『山の民の中には、注意を促す感じで声をかける者もいるにはいると思うけれど。力を示せと言う山の民は皆無ね。その子、自殺しが……コホン。そういう趣味なのかしら?ーー』
……ダウトだよ、姉さん。
女神の立場で、自殺志願者なんて言葉使っちゃ。
特に、姉さんを崇高しているゲイツさんが知ったら血の涙を流すから。
『えっと、それじゃぁまた何かあったら手紙頂戴ね♪
弟が大好きでたまらない女神より』
「……はぁ、姉さん」
「お主も大変じゃの……」
どうやら、姫華も手紙を読んだらしい。同情的な生暖かい眼差しを向けてくる。
「ってか、この文字読めるんだね」
「うん?あぁ、古代語であろう?巫女は強制的に覚えさせられるのじゃ」
へえ。
天族共通語ってこの世界では古代語になるのか。
新発見だ。
そんな会話をしていても2人の戦い(?)は続いているのだが……。
戦いというよりは、一方的にゲイツさんにあしらわれている悲しい現実。
正面から大剣を軽々と杖で受け止めてはそのまま弾き返しては吹き飛ばし、背中を向けて杖を回して大剣を受け止めた後、弾き返すと同時に相手の鳩尾に杖の先端を当てて吹き飛ばしたりしているのだ。
理由は不明だが、ゲイツさんは魔術を一切使っていない。
杖術だけで対応している。
僕としては早めの決着を望んでいるのだけれど、ゲイツさんの愉しそうな表情を見ていると、水を差すわけにもいかずに黙って見守るしかない。
……まっ。
これ食べてから放置して進むか、終わりまで待つか考えようっと。
僕は、姉さんが作ってくれたシュークリーム(クリームチーズ味)を口に運んだ。
●5/21 17:00より新連載始めます。
ついでに、目を通して頂けると嬉しいです。
理不尽な神様にもて遊ばれている件(仮)
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