062話
雲ひとつない真っ青な青空の下、緩やかな風が髪や頬を撫でていく長閑な日。
グレナ王国からの出国した僕達は次の国に向けて、馬車も使わずに徒歩でのんびりと進んでいた。
後2つ山を越えれば国境が見えてくるだろうと、ゲイツさんの言う通りに歩いている僕は、今日も何も無い穏やかな日になるだろうと、欠伸をしながら空を見上げながらそう思っていたんだ。
・・・のはずだったのに。
「ハハハ!若いの、もう終わりかのぉ」
「―――まだまだ、ぜ!ッシャオラァ!」
ドガァァァァァァン!
「ハハハッハー!ほれほれ」
ドバァァァァァァン!
「ーーーだあぁぁぁ!」
ズババババァ!
・・・何コレ?
山の切り立つ岩の上に腰を下ろしている僕の眼下では、冒頭で表現した情景とは非常にかけ離れた景色が繰り広げられている。
「なかなかに愉快じゃのう」
「もっとハッスル。なのです」
ーーハッスルって。
イリスさんてば、実は昭和の人なの?
此方と彼方との温度差がかなり違うのは、この際仕方がない。
なんせ、今のこの状況は僕としては、とても不本意なものだったからだ。
……あれは、丁度1つめの山の入り口に差し掛かった時、ソイツが現れた。
「ーーおい!お前ら、この山に何の用だ!」
ソイツが現れる直前までの僕達は、今日のアナベル姉さんのおやつが何なのかというくだらない話が予想以上に白熱していて気付くのに少し時間がかかってしまったのだが。
その間、僕達の前に立ち塞がったソイツは仁王立ちのまま、鋭い視線を此方に向け微動だにしなかった。
「……誰?」
「うん?知り合いかのぅ……否、違うのぅ。はて?」
僕のフードの中で寛いでいた子狐姿の姫華が、肩越しに顔を出して前のソイツを見ていたが、暫くすると僕の右肩に顎を乗せたまま興味を失ったのか軽く欠伸をする。
姫華は、僕のフードの中がお気に入りで移動中はそこが彼女の定位置だ。
彼女曰く、「良い気がもらえるのじゃ」と言うことらしい。
普段はフードの中で体を丸めてスッポリ収まり大抵寝ている。
彼女曰く、「力を取り戻す為には良い気を受けながら、ジッとしていることが望ましいのじゃ」と言うことらしい。
……それにしても。と、視線を前方へと戻す。
目の前のソイツは、生地の質は違うだろうが見た目だけだと拳法でもやりそうなチャイナ系の服を着ており、体格は僕とたいして変わらない。
しかし、その背には体格に似合わないゴツい大剣を背負ってる。
「殺る?なのです」
ーー嫌っ!
イリスさんの物騒発言!
お願いですから!
コートから手を出して!
得物に手をかけないで!
おい!
そこの魔術師!
「久し振りに腕がなりますのぅ」とか両手をワキワキしない!
……全く、僕のパーティーは交戦大好きなんだから。
ってか、本当に何者?
なんで不敵な笑みを浮かべているの?
何なの?
それは何か意味のある自信なの?
全く、此方からしたらのんびり旅が終わりそうな感じがヒシヒシと伝わってきて、本当に関わりたくないっていうのに。
僕の気持ちなど知るよしもないソイツの態度に少しムカッ腹立つ。
……なので、ここはスルーだな。
というわけで、仁王立ちをしているソイツとは目を合わせることなく、横を通り過ぎて歩みを進めていく。
「……馬鹿が現れたのじゃ」
「ーーシッ、見てはいけません」
僕の動向を見守っていた他のメンバーも後をついてくる。
「……えっ?ーーちょっと待てって!」
僕達が相手をすることなく通りすぎた事実に、ソイツは一瞬戸惑った様子だったが、直ぐに走って僕達を抜いて再び仁王立ちを決める。
「ーーおい!お前ら、この山に何の用だ!」
……何?
この面倒くさい生き物。




