桜日和
現在の私は、とても毎日が幸福なのであります。
過去が、不幸せだったのか。と言われたら、それはそれで幸せだったのかもしれませんが、今に比べたらやっぱり幸せ度は低めだったかも。
あの頃は、皆さん私に優しくしてくれましたが、ただそれだけでしたし。
主に仕える為に生まれた私の存在価値は、この頃は無に等しかったのです。
現在の私の主様は、神族のカナタ・スフレール様です。
何と、女神アナベル様の弟君様なのです!
仕える主人が、まさか天の方なんてあの時目覚めた私に想像なんて出来るはずもなく、その事実を耳にした時、私のこの身は感動で震えたものです。
以前、『主様が交代した時点で、蓄積されている記憶から前任者に関する情報は消去され、名前もそれに該当致します』なんて、初対面ではそんな嘘をついてしまったのを、少しばかり後悔していますが。
まっさらな気持ちで、新たな主に仕えたかったからと言ったら、カナタ様は何とおっしゃってくれたのでしょうか?
ーーきっと。
ただ、にこやかに笑って許してくれますよね。
私がお慕いしている主様は、とても器の大きな方。なのですから。
付けていただいた新しい名前も、私はとても気に入っています。
主様の好きな花の色と、私の髪の色が似ていたからだと、由来について教えてくれたあの時……少しばかり主様の表情が曇ったのは、なぜなのでしょうか?
普段は、にこやかな笑顔を見せてくれていますが、時々……本当に時々、主様の表情が寂しさや悲しさといった感情が混ざったようなお顔をされる時、私の胸の奥がズキンと痛みます。
きっと、人形の私ではお力になれない事だと理解はしています。
時折、天族としての自分の立場に何か思うことがあるのかも知れません。
主様は、そんな時『僕は、まだ生まれたてだから』と困った顔で頭を掻きながらおっしゃいます。
返答の意味は、私には理解出来ませんが。
そんな、お顔も私は大好きです。
優しい声音も、暖かな眼差しも。
全て、大好きです。
もちろん、他の方々も素敵な人達ばかりで、毎日がとても楽しいのです。
守護天使である、イリス様。
普段は言葉少ない方ですが、心は熱いお方です。
……特に、主様の事になると急に殺伐とした雰囲気を出したりします。
とても、おちゃめな愛されるお方です。
ベテラン魔術師のゲイツさん。
主様からは、『尊敬すべきダンディ』と評されているくらい素敵な方です。
毎日が、とても楽しくて、心がとても暖かくて。
ある時、この気持ちについて、イリス様に聞いた時『それは、幸せ。なのです』と教えてくれました。
それからは、私は幸せという言葉を使う様になりました。
主様と笑えて、幸せ。
主様と旅ができて、幸せ。
そんな私の事を、皆さん暖かい眼差しを向けてくれます。
再び、イリス様にその理由を聞いてみますと、『サクラの様子が、微笑ましく感じる。なのです』
と教えてくれましたが、また私の中で?で一杯です。
幸せを感じることが、微笑ましい?
ーーえっ?違う?
私の笑顔が幸せを具現化いているようで、微笑ましい?
笑顔になるのは当たり前です。
だって主様と一緒ですから、本当に幸せの毎日です。
それと、やっぱり。
私は皆さんに出会えた事が、一番の幸せなのです。




