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059話



 街の灯りも落ちた頃、僕とイリスは王城の一番高い塔のテッペンに到着していた。


 下を見下ろせば暗闇が、上を見上げれば月や星の明かりで、思わず目を細めてしまうくらいの眩しさがあり、天と地が逆転してしまったかの様な錯覚をしてしまう。


あ〜。

そんな情緒的な思考は、今は置いておかないとだねぇ。


 悠長に構えていられない現状の中、どうにも現実逃避してしまいがちになってしまう僕なのだか、傍にはストッパー役のイリスが、僕のコートの袖を引っ張り現実に引き戻してくれるので重宝していたりいなかったり。


「まだ入らないのですか?なのです」


 コートの袖を掴んだまま、僕にお伺いを立てるイリスの表情は、やっぱりワクワクだった。


「入れそうな所を見つけないと」


「破壊、侵入。なのです」


「イリスさん、物騒発言」


「冗談。なのです♪」


 普段は僕しか分からない程度の表情しか見せずに、周囲からは無表情で淡々と話すイメージが定着しているイリスだが、今の彼女はコロコロと分かりやすい表情を僕に見せる。


はぁ。

僕に足りないのは、彼女の様に何でも愉しむ気持ちの余裕か。


「イリスは、いつも楽しそうで見習いたいよ」


「カナタ様と一緒だと楽しい。なのです」


 首を傾けながらそう言って笑うイリスは、超絶可愛いです。


「それは、光栄だけどさぁ。実際、楽しい事なんてしていないんだけどねぇ」


「天界にいた時よりも、カナタ様に出会ってから、ずっと楽しい経験ばかりなのです。これからも、ワクワクなのです」


 空に浮かぶ月を見上げながら、その先の天界に思いを馳せているのかイリスは微笑んでいる。


そっか。

イリスにとっては天界は狭かったのかな。

だから、姉さんは僕の付き添いに彼女を選んだのかも知れない。


「……そうだね。僕もイリスと一緒だから出来る経験ばかりだよ」


「嬉しい。なのです」


「これからも、沢山一緒に色んな経験をしていこう」


「はい♪なのです」


 お互いに笑顔の交換をすると、同時に気持ちを切り替えるように頷き合って塔の中に入れそうな鉄格子を見つける。


 塔の鉄格子を手こずることなく外して、僕達は中へと侵入して気になっていた場所へと向かった。


 長い螺旋階段を軽い足取りで登って行く。


 そこには、小さな窓にこれまた鉄格子が嵌め込まれている木製のドアが1つ。


 夜間の為、覗いても中は真っ暗で何も見えないが、何かの気配は感じられる。


 どうやら、時間も時間なので就寝しているようだ。


 僕は、鍵が掛けられているドアを特に苦労もなく開けて入り口から部屋へと光球を放つと、一気に部屋が明るくなり気配の主が姿を現した。


 中は質素という言葉以前の問題で、ベッドも机もなく毛布とは呼べない布が一枚と用を足す為の穴があるだけ。


 そんな部屋の左端の壁に目当ての相手がいた。


 布に包まったまま、突然の明るさに目を細めながら腕で灯りを遮りながら、こちらを見つめている。


「はじめまして、こんにちわ」


「なのです」


 僕とイリスの空気を読まない挨拶に、戸惑いを見せている様子の相手。


「……誰?」


 クリクリの瞳からは怯えの光が見える。


 僕はなるべく警戒の色を消すように、努めて明るさを維持しながら話しかける。


「う~ん。それは、僕の名前を聞いているのかな?それとも何者かって事かな?それとも敵か味方かって事かい?」


「……全部」


「そっか。では、僕の名前はカナタ・スフレール。で、彼女が――」


 僕は傍にいるイリスに視線を移すと、彼女は軽く頷いて一歩進み出ながら口を開く。


「イリス・グラント。なのです」


「で、何者かは一先ず置いておいて。敵か味方かでいうと、僕達は味方かな――でOK?」


「……オーケー?よく分からない。何しにきた?もう妾には、力は無い」


 弱々しい声。

 声を出すのも億劫な感じだ。


「力?ひょっとして、君がココに囚われている理由?」


 僕の問いかけに、小さく頷いて口を開いた。


「この姿も長くは……」


 どうやら、その力を搾取された為に見た目よりも衰弱が酷いようだった。


 ギリギリ間に合ったのかな。


「取り敢えず、ココから出よう。イリス」


「はい。なのです」


 イリスが近付いて毛布ごと抱え込む。


「……大丈夫。目が覚めたら、きっと楽しい事が待っているからね」


 閉じそうになる目を僕に向けるから、安心させるように呟くと、その言葉に安心したのかもう限界だったのか、ゆっくりと瞼を閉じながらほんの少しだけ口角をあげてくれた。


「にしても、ココにいたなんてね。この国では、見かけなかったのに」


「可愛い。なのです」


 毛布に包まったまま、寝息を立てて眠っている様子を僕達は微笑ましく見守ってしまう。


「可愛い、()さん。なのです」

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