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005話



 未踏の森の中で1ヶ月。


 家の窓から湖を眺めながら、そろそろ出掛けようかなと思い始める。


 ほぼ引きこもり生活だったから、このままココで過ごすのも良いかな、という気持ちもなくはないが、この世界に来た目的が、観光だった事を考えると、この状況は好ましくない。


「そろそろ、出掛けようかと思っているんだけど」


 朝食を食べ終えた僕は、食後のお茶の用意をしてくれているイリスに切り出した。


「では、準備をします。なのです♪」


 僕の前にカップを置きながら、笑顔で答えるイリスはどこか嬉しそうな気がする。


 イリスが入れたお茶を飲みながら、彼女は僕を待っていた事を知る。


 ごめんな。と心の中で僕はイリスに謝り、それと同時にありがとう。と感謝する。


 1ヶ月のほとんどは読書の時間に費やし、気分転換に湖の周りを散歩する生活を送っていた。


 イリスは、その他に身体がなまらないようにと修練していたみたいだけど。


「本も読み終わったしね」


 そう言いながらリビングにある棚に目を向ける。


 棚の中には本がびっしり入っている。


 僕にとっては、それらの本を読む事が必要だったのだけど。


 アナベル姉さんが管理している世界の1つ。


 オールスラント。


 7つの国から成り立っている世界。


 人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、竜人族、妖精族などの多種族が住んでおり、そこから、ハーフを加えるとこの世界は若干混沌としている。


 その中で、人族が最も多い種族になり、姉さん曰く、妖精族が1番少なくて希少種という位置付けらしい。


 うん、設定は大事だね。


 僕が読んでいた本は、この世界の一般常識や歴史などが書かれている物。


 この世界に降りる前に、姉さんに頼んでいたのだ。


 前世の僕がよく読んでいたラノベには、突然異世界に転移された主人公が、その世界で右往左往している話があった。


 気持ちに余裕がないと、のんびり観光が出来ないと思った僕は、まず世界観を知る事にしたのだ。


 その作業も、先程最後の一冊を読み終わり、引きこもる理由がなくなった。


「じゃあ。準備ができ次第、出発ということで」


「はい。なのです♪」


 カップの中のお茶を飲み干した僕は、準備にとりかかる為、自室に戻る。


 といっても、必要な物は既に鞄の中なので、白のフード付きロングコートを羽織り、ベットの側に立て掛けてあった刀を腰のホルダーに引っ掛ける。


 僕の武器は、刀。

 正直、必要性を感じなかった。


 物語の主人公達のほとんどは、武器を手にして興奮していたっけ。


 男のロマン!ってね。


 だけど、僕は魔王を倒す勇者じゃない。


 理不尽な世界に立ち向かう、正義感満載の主人公じゃない。


 僕は、ただ(・・)の旅行者なのだから。


「――丸腰なんて危険!カナタに何かあったら、心配で私死んでしまうわ!」


 だけど、心配性の姉が僕にと用意したのが、この刀。

武器の種類は、僕のリクエスト。


 まぁ、僕も日本男子の端くれだったということで。


 出来上がったソレは、見た目は日本刀だが、僕が知っている反りがない。


 それに、刃渡りも短い。


 武器の所持に乗り気ではなかった僕だったけど、イリスの「必要なのです」の言葉に、NOとは言えなかった。


………でも、女神が丸腰って。


 天界人の言葉のチョイスは、何だかおかしい。


 次に机の上に置いてある、メガネケースの中から眼鏡を取り出す。


 横長で銀色のアンダーリム(フレームが下枠だけについた)眼鏡。


 これは、前世の僕がかけていた眼鏡と同型。


 今の僕の視力は、とても良い。


 良すぎて困るくらいだけど、10年近くかけていた僕としては、裸眼のままは落ち着かない。


 だから、姉さんにお願いして作ってもらった。


 ケースは鞄の中に仕舞って、眼鏡をかける。


 うん。やっぱり落ち着く。


 この重みが、僕には心地よい。


「イリス、準備できたかい?」


 リビングに戻ると、イリスは既に準備万端で待っていた。


「はい。なのです♪」


 イリスは笑顔で答え、ピシッと敬礼する。


 本当に、楽しみで仕方がないらしい。


 絶対、尻尾があったらブンブンだね。


 僕は、笑いを噛み殺し咳で誤魔化す事にする。


「ゴホン。それじゃ、行こうか」


 イリスが先行して玄関のドアを開ける。


 僕は、履いていたスリッパを脱ぎ、ブーツに履き替えて外に出た。


 湖を見ながら、軽く伸びをして振り返ると、イリスの手元には家カードがのっていた。


「どうやったの?」


「印を押すと、戻ります。なのです」


 印?


 僕は気付かなかったけど、イリスに分かるならそれでいっか。と気持ちを切り替えて歩き出す。


「どれくらいで、森を抜けられるかな?」


「急げば、1時間もかからないのですよ」


 イリスが言う急げば、は天界人としての力を発揮した場合。


 もちろん、却下。


「急がす、のんびりと。だと?」


「2日なのです」


 隣に並んでイリスは、僕を見上げながら答える。


 アナベル姉さんは、僕の身体は前世の僕のデータを元に作った、と言っていたから170cmだが、イリスの身長は150cm。


 本当に、第三者から見たら兄妹と思うに違いない。


「じゃあ、それで」


「はい。なのです♪」


 僕達は、観光という名の旅の1歩を踏み出した。

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