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057話



「何者じゃ!」


 なのにあろうことか、目の前に現れたイリスを、普通なら見えるはずも無い彼女を、彼は認識した上で払い飛ばしたのだ。


『――イリス!』


 彼に払い飛ばされたイリスが、壁へ激突する前に僕は彼女の救出に成功し、再び天井の梁に避難した。


 彼の払った風圧が強かったのか、大きな爆音と共に壁に穴が開いてしまった。


 突然の大司祭の行動に、囲んでいた他の黒装束連中は驚きと、破壊された壁をみてそれが彼がやった事と分かった途端の恐怖心で、パニック状態に陥っている。


「落ち着かれよ!」


 右手を上に掲げながら、彼は黒装束連中を静めようと口を開く。


「……今宵は、予期せぬ侵入者が現れた。よって、此度はこれにて終了する。これを部屋まで送り届けよ」


 大司祭にこれといわれたのは、メタボ王の事だと気付いた黒装束連中は、慌てながらも彼の言う通りに何処からか担架を持ち出してきて、メタボ王を乗せて部屋を退出して行く。


……余計な手間を省いてくれて助かった。


 あの人数の記憶操作をするとなると、酷く疲れそうだったからだ。


……コイツを処理しても、まだ僕にはやる事があるんだよね。


『カナタ様、申し訳ありません。なのです』


『――怪我は無い?』


 僕の腕の中で縮こまっていたイリスは、申し訳なさそうではあったが、コクンと頷いてくれた。


 他の連中が退出してからも、大司祭だけは未だにこの場所に留まっている。


 どうやら、僕達の気配を探っているようだ。


 僕は、イリスを解放して隣に座らせる。


『望み通り、姿見せてあげますか。イリスは取り敢えず待機で』


『……分かりました。なのです』


 取り敢えず試す意味を込めて、僕は気配を消したまま、天井の梁から飛び降り、大司祭の背後に音を立てずに着地してみる。


「――そこか!侵入者ッ!」


 僕が彼の背後に立った瞬間、先程イリスに食らわせた暴風をこちらへと飛ばしてきた。


……へぇ。

やっぱマグレじゃなかったんだ。


 イリスは想定外の不意打ちで受けてしまったこの攻撃だったが、くると分かっていればそれを簡単に無効にする事は出来る。


 僕は、コートのポケットに入れていた手を、そのまま軽く外側へ向けて振り、迫りくる暴風を相殺する。


「――なっ!?」


 大司祭は、僕に当たらず尚且つ自身の攻撃が消えた事の意味が理解できずに、驚きの声を上げる。


「残念でした。そんなただの風、僕には無意味」


 やっと脳内会話をしなくて良くなった為か、若干頭は重く感じるものの、声を出せた事に気分がとても良い。


「――侵入者!貴様は、何者だ!何故、我の邪魔をする!」


 相殺した時の風をあびた大司祭は、フードから顔を出していたのだが、のほほん姫が言っていたような人物像にはほど遠く、大きく目を見開いて悔しさに歯を噛み締めているその姿は、明らかに下界の人族のそれではなかった。


……だって、頭に()があるし。


「……何者かとこちらに問う前に、お前が何者なんだよ?」


「良いだろう!聞いて驚け!我は、この国を統べる者!ギグス・バカールである!」


「……いや。あんた、ただの教会の大司祭だろ?」


……別に驚かないし、()あるケド。


「フン!大司祭なぞ、仮の姿だ!我は、ギグス・バカール!この国を統べる者である!」


……何故に、同じ事2回言ったのかな?


 自称・この国を統べる者は声高々に宣言しながら自分に酔いしれているフシがあるが、僕には関係ないので、気になる事を口にしてみる。


「……それ、何処で手に入れたの?」


 今だにフハハハと笑っている、大司祭は僕の問いに一瞬顔を歪ませたが、指を差している先をみて納得した表情を見せる。


「これか?これは、神からの授かりものだ!我は神から選ばれし者!」


……神からの?

何を言っているんだ?


 いまいち要領を得ない回答に、僕は首を傾げる。


 自己紹介の辺りから、少しづつだが彼の精神崩壊が始まっている気がする。


 焦点が定まっていないような気がするし。


「……でも。ま、どうでも良いか。僕、今少しばかり機嫌が悪いんだよなぁ」


「ハハハッ!だから、どうしたというのだ!我はこの国を統べる者……」


「――五月蝿いよ」


 ()大司祭だった者の、無駄口を聞き終える間もなく、僕はムカつく相手の顔を殴りつける。


「ギググググガァァァッー!」


 自称・この国を統べる者は、殴られた瞬間に訳の分からない声を出しながら、僕の攻撃をまともに受けて一直線に後ろへと吹き飛び、祭壇を巻き込んで壁へと激突した。


……うちの大事なイリスを驚かせやがってぇ!


 そう、僕はイリスに手を上げたコイツ(・・・)を許しはしない!


「……な…何が…お、起きた……の…だ!?」


 壁が崩れ粉塵が舞う中、状況を正確に判断が出来ないようで、視界を遮る粉塵を風で払い除けながら立ち上がるソイツは、壁に激突した時に頭を切ったのか額から血が流れ、僕に顔面を殴られたついでに、鼻が曲がった状況なのに痛みを感じてはいない様子を見せている。


「……お前、何者なんだよ?」


 そう、もう目の前の奴は、大司祭でもこの国を統べる者(自称)でも、ましてや人族でもない姿をしているから。


「な…何を……いっへ……いりゅ?わ、わ、われひゃこっこっこの、くくくく」


……精神崩壊の影響か。

いや、変異の影響だろう。


 頭から生えている大きな角が2本、黒装束は破れて服の機能はなくなり、そこから見えるはずの肌は毛むくじゃら、血走ったギョロ目で、尖った大きな耳に歪んだ鷲鼻、口から覗く歯が牙になり変わり、簡単に言えば化物へと変貌を遂げていたのだった。

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