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056話



 魔石が使われている街頭や室内照明があるというこの王都にて、照明には蝋燭が使われているこの場所、そんな心許ない薄明かりが不気味さを演出しているように思える。


 僕とイリスは、何の問題もなく侵入に成功していた。


 後から聞いた事だが、王族が神託を受けるなどする神聖な場所らしい。


 僕達が発見し侵入してからかなりの時間が経っているのに、今だ終わる気配のない儀式。


 よくわからない呪文を延々とボソボソ呟きながら、石台の周りをゆっくり歩いているのが、目的の人物の大司祭で、その周りを囲うように教会関係者と思われる連中が立ち、大司祭と同じ様にブツブツ言っていた。


 本当にこういう儀式の場面って、異様(・・)の一言に尽きる。


 正直、カルト系には関わりたくないものだけど。


 そうも言っていられないのが、今の僕の立ち位置。


……何か中間管理職的立場ってこういうものなのかも知れない。


『まだ動かないのですか?なのです』


 天井の梁に身を潜めながら、下で行われている様子を見ている僕の脳に直接語りかけてくる声に一瞬ビクッと体を震わせるが、直ぐにイリスからの問いかけと理解する。


 これも、天界人としての恩恵の遠隔感応(テレパシー)


 話したい相手の脳内回線を開いて会話が出来るため、内緒話には適しているこの恩恵だが、少し難点があり天界人でも使用を控えていたりする。


 これ使った後は、酷く頭が疲れるんだよねぇ。


 物凄く甘い食べ物が恋しくなるのだ。


『まだ兆候も出ていないし、この儀式の目的も分からないし。もう少し様子見で』


『……分かりました。なのです』


 この儀式事態が、もう兆候かもと思うんだけど、ハッキリとは言い切れない為に、待つしかないという選択を僕は取った。


 返事に少し間があったのが気になった僕は、イリスに顔を向けると、何となく彼女の顔色が悪くなっているのに気が付く。


『イリス?体調悪いの?』


『……この呟きを聞き続けるのが辛くなってきました。なのです』


……え!?

呟きって?

あのブツブツ言っているやつだよね。


それが、どうしてイリスに悪影響を与えているんだよ?


『……あの呟き、危険。なのです』


 僕は鞄に手を入れて、耳栓を探し取り出して、再びイリスに向き直り彼女の両耳に入れてあげる。


 安眠必須のアイテムのこの耳栓は、姉さん特製の遮音性抜群で僕のお気に入り。


『――どう?』


 イリスは初めての耳栓体験に、暫く手で両耳を押さえていたが、笑顔で頷いてくれた事に一先ず安心する。


『でも、どうしてイリスに影響が?……僕は平気なのに』


『分かりません。でも、天使族は神族よりも聴力に長けているのが影響しているかも。なのです』


天使族の耳が良すぎた上での支障かぁ……。


でも、聞いているだけで気分が悪くなるなんて、アイツらは一体何をしているんだ?


 それにしてもだ。


 あの石台の上の人物は誰だ?という事だ。


 おそらくあの人物が儀式の対象者で間違いないのだろうが、アレが悪魔祓い的なものだとしたら、あの対象者は苦しんだり、何らかの反応を示すはずなのだが、まるで深い眠りについているような無反応さが気になる。


……死人では、ないみたいだけど。


 黒装束の連中とは対照的に、白装束を身に纏っている。


 黒装束連中と同じで、フードを深く被っていて口元しか見えないが、メタボな体型からして男性のようだが。


……あれ?

あのメタボ体型、最近見た気がする。


『ねぇ、イリス。あの白装束男を最近見た気がするんだけど、分からないかな?』


 僕の質問に、イリスは少しの間石台の方へ視線を向けていたが、軽く頷いた後こちらへと顔を向けた。


『あれは、メタボ王。なのです』


『――メタボ王って?。……あぁ、そうだよ!この国の』


……あの、ほんわか姫の兄貴じゃないか。


 丘から城の様子を見た時、昼間から酔っ払っていたメタボ体型のダメな王様。


『何でこの国の王様を、石台なんかに寝かせているんだろう?』


『あの呟きには、時々ノイズが混じります。なのです』


……ノイズ?


 僕には全く聞こえないのだが、イリスの言う事に間違いは無いはずだ。


 僕は、注意深く何か原因となりそうな物を探していくように、黒装束連中を観察していくと、少し気になる物を見つけた。


 先程からグルグル周っている、大司祭が首から掛けている数珠のような首飾り。


……アレ?

あの首飾り、どこかで見たな。


 僕はこめかみに指を当てながら、目を閉じ記憶を探っていく。


 確か、この世界に降りた時に読んだ本の中に、似たような挿絵を見た気がする。


……確か、本のタイトルは。


『――不味いっ!イリス、あの大司祭が身に着けている首飾りを奪って!』


 僕の言葉に素早く行動を移したイリスは、僕の願いを叶えるべく音を立てずに、一瞬で大司祭の側へと辿り着き、相手が気付く事なく首飾りを奪うって終了。


……のハズだったのに。


 僕は予想外の出来事に、驚くしかなかった。

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