055話
これが夜ではなかったなら、さぞかし良い眺望だったのだろう。
眼下に見えるのは、微かな灯りの道。
だけど、先程よりも家からの灯りが少なくなった気がする。
もうすぐ人々も眠りにつく時間らしい。
「――ココで合ってる?」
おっとりさんのレイチェル姫から教わった場所、聖センチカル教会のトンガリ屋根に僕とイリスは到着していた。
「でも気配が把握できません。なのです」
「そうなんだよねぇ。これって何なのかな?」
到着してから、千里眼で探っているのだが相変わらず靄がかかっている感じ。
それは、下に進むごとに濃くなっているようだ。
イリスも独自の方法で、様子を探っているようだが、結果は僕と同じみたい。
「……カナタ様」
「何?」
イリスは、四方に建っているトンガリ屋根の1つを指差している。
僕は彼女が指している方向を凝視してみると、何かの光を見つける。
僕はその場所へと飛び移り近付いてみると、それは石だった。
「魔石?」
「それにしては、人工的のよう。なのです」
「……言われてみれば」
トンガリ屋根に嵌め込まれたその石には、魔石のような力強い輝きがない。
取り敢えず、僕は嵌っている石を取り外してみる。
すると、先程まで石から出ていた光が失われた。
「消えました。なのです」
「……残りも取ってみよう」
僕とイリスは、他に嵌め込まれた石を取り外してみる。
えっ?
なんでそんな事するのかって?
……何となく?
「これって何なのかな?装飾にしては小さくて、誰も気付かないと思うのだけれど」
「……厄除け?なのです?」
「――教会で厄除けって……」
僕は、イリスの見当違いな発言に思わず苦笑してしまう。
せめて、魔除けと言って欲しかったな。
僕は取り外した石をイリスに渡しながら、再度千里眼を使ってみる。
「アレ?さっきよりもクリアに視える」
先程まで靄がかかっている状態から、今は視界がはっきり見えるようになっていた。
……なんでだ?
「この石が邪魔していた?なのです」
「どうなんだろう。……取り敢えずその石の謎は後回しにして、今は大司祭って奴を探さないと」
僕は視やすくなった教会の中を探索していく。
靄が濃くなっていた階下へ進んで行くと、そこは地下に広がる部屋だった。
灯りの少ないその部屋には、予想外の光景が広がっていて思わず息を呑んでしまう。
「……何?…魔法陣?」
思わず千里眼を解除した僕は疑問を口にすると、イリスは首を傾げながら視線を下へと向けた。
「何かの儀式の最中だったのですか?なのです」
「……多分。祭壇らしきモノの手前に、魔法陣が描かれていてその中心に台座、その上に人が寝かされていたから」
「他には?なのです」
「……それらを囲うように、黒装束の連中が数人いたかな」
フードを深く被っていて顔は見えなかったけど、確かにイリスの言う通り、何かの儀式の真っ最中のようだ。
「あぁ〜。この時間に何かの儀式って事は、……絶対善行ではないよねぇ」
「絶対に違います。なのです」
「……だけど、どうしたものかなぁ。アレ中断させるのは簡単だけど、儀式とか詳しくないけどさ、中断したら凄い事になったりしないかな?」
「凄い事とは?なのです」
「う〜ん。例えば、悪魔降臨!とか」
僕は夜空に向けて両手を広げてみる。
あ〜。
悪魔じゃなくて、星が今にも降ってきそうな位綺麗だなぁ。
「今やっている儀式が、正に悪魔降臨!かも。なのです」
イリスも僕を真似て、夜空に向かって両手を広げた。
あ〜、確かに。
イリスさん、正論ッス。
あの光景を見たせいか、若干引き気味の僕とは反対に、イリスは今すぐにでも突入したくてウズウズしている様子。
……こういう時に何度も思うことだけど、守護天使って、イリスみたいに好戦的な人ばかりなのかな?
今度、姉さんに聞いてみよう。
うん。
そうしよう。
「カナタ様」
「……何?」
「行くのですか?行かないのですか?なのです」
いや、行くよ?
だから、そんなキラキラしたやる気の眼差しを僕に向けないでください。
僕は、心の中で深い溜息をつきながら立ち上がり、片膝をついたまま見上げているイリスに頷きを返す。
「ま、何をしているかは分からないけれど、アレは止めないと。じゃなきゃ本当にこの国に未来はないだろうね」
コートのポケットから指輪を取り出して、それを指にはめる。
覚悟は決まった。
「はい。なのです」
僕達は近くの窓から侵入し、音を立てることなく迅速に目的の場所へと向かった。