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054話



 不可視の恩恵のもと、僕とイリスは王都を駆けていく。


 ゲイツさんが話していた通り、夜になってからそれなりの時間が経った筈なのに、通りには魔石が取り付けてある街灯が等間隔で設置されているせいか、明るい街並みが眼下にあった。


 オレンジ色の灯りが、幻想的な街並みを演出している。


 ……以前僕がいた世界は、ここよりももっと明るかったけど、こっちの方が僕は好きかもしれない。


 そんな街並みを横目に見ながら、僕とイリスは家が連なる屋根の上を駆け、城壁を軽く飛び越え、王城の右隣奥にある建物へと真っ直ぐ進んで行く。


 2階建ての大きな屋敷の数ある部屋から、僕達は迷う事なく2階奥の一室へと跳躍する。


 部屋へと続く窓を音をたてることなく開けて、ゆっくり足を踏み入れると、そこにはソファーに腰を掛け優雅なティータイムを過ごしている目的の人物がいた。


「――あら?どなたですか?」


 僕とイリスの侵入に対して驚く事なく、ややゆっくりめの口調の彼女。


 金髪のふわふわロングに、レースがふんだんに使われているナイトウェア姿。


 ただ座っているだけだというのに、彼女からは生まれ持った王族の気品さが滲み出ている。


 彼女はこちらを見たまま、左手にはカップを持ち、もう片方の手は本を持っていた。


 寝る前の楽しみな時間を、突然の訪問者が奪ってしまっているというのに、嫌な顔を微塵も見せず寧ろにこにこと笑顔で対応してくる彼女の反応に、少し戸惑いつつも目的の為に僕は口を開いた。


「僕の名前はカナタ、そして彼女はイリス。こんやは訳あって貴方に会いに来ました」


「レイチェル姫、本人に間違いないですか?なのです」


 僕は、なるべく警戒心を抱かせない様に注意を払いながら彼女へと向かうが、それも必要無い様子だった。


「――えぇ。私がレイチェル・カテリーナ・グレナですわ……それにしても、お二方はとても不思議な色を纏っていらっしゃるのね♪」


 お姫様は警戒心など持つこともなく逆に和気藹々な雰囲気を醸し出してくるのだ。


「……色?」


「私、相手の色が視えるんですのよ♪」


 尚も、にこやかに話してくるお姫様に対して、いつの間にか僕達は彼女のペースに合わせていた。


「……例えば?」


「――そうですわねぇ。……この離宮や王城を訪ねてくる人達の殆どが、その身に黒に近い灰色を纏っていますわ。そういう方達には、なるべく近付かないようにとお父様から言われております」


 このお姫様、何気に天然風だけど、どうやら他人(ひと)を見る目を持っているようだ。


 彼女が言っている事は、恐らくオーラと呼ばれているものの類だろう。


相手の感情を色で判別する能力の持ち主かぁ。


――これなら、安心して彼女を女王に出来るな。


「……でも、お二方のような神々しく眩しい色を視たのは生まれて初めてですわ♪」


「――神々しい、か」


「当たり前。なのです」


そこ。

自慢げに無い胸を張らない。


「……当たり前?」


「いや、こっちの話。……ところで、少し話が逸れるんだけど、真っ黒な奴に会った事ありますか?」


「え?真っ黒?……そうですわねぇ。あ、お一人だけでしたらお会いした事ありましたわ」


 纏う色が視えるらしい彼女の話を聞いて、僕はものは試しにと聞いてみたのだが、意外にも彼女の口から対象者の心当たりがあったようだ。


「――それは、誰ですか?」


「確か、大司祭様でしたわ。表情は常に笑顔でいらっしゃるので、市民からも優しいお方だと思われておりますの。――でも、その笑顔が崩れたことは一度もなくて、まるで笑顔の仮面を付けている印象を持ちましたわ――お父様にその話をしたら、彼には近付かないようにと言われましたのよ」


……ここにも、やっぱりいたのか!


大司祭っていうと、教会の偉い人ってことだよね。


 高台から王都を眺めた時には引っかからなかった。


……なんで?


「――そいつが居るのは何処ですか?」


「え?聖センチカル教会ですわ」


「――方角は?ここからだと、どちらにある?」


「えっとぉ。南南東ですわね、それがどうかしましたの?」


 僕は、直ぐにその方角へと千里眼を発動させる。


……なんだ?

何だか、視界がボヤけるんだけど。


 何かが建物に干渉していて、対象者を見つける事が出来ない。


 千里眼が使えないなんて初めての出来事に僕の心に焦りが生まれる。


……全くもって、嫌な予感しかしないんですけど。


「……申し訳ありません。レイチェル姫、急用が出来てしまいましたので、今夜は帰りますが、また改めて会いに来ますので、今夜の事はどうか内密に」


 お姫様に話をする筈が、予定が変わってしまった。


「――分かりましたわ。どういったご用件か存じませんが、お二方に会えるのを心待ちにしておりますわね♪何時でも、いらっしゃってください」


「有り難うございます。それでは、また」


 突然やってきて何もする事なく出て行く僕達に対して彼女は最初と同じ姿勢のまま、僕達を見送ってくれる。


……このお姫様、肝っ玉半端ないッス。


 僕とイリスは、再び夜の王都へと飛び出して行った。

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