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052話



「では、改めて。ワシは、クレイブ・ログナー。このグレナ王国の魔法省にて長を務めておる者。周囲からは、王宮筆頭魔術師の肩書で呼ばれる事が多いのぅ」


 筆頭と言うからには、この国の魔術師の中では1番偉い人なのだろう。


……でも。

この人よりゲイツさんの方が実力は上だよねぇ。


「クレイブとは、ユルゲンを含めての腐れ縁でしてのぅ。儂が旅立った時にはまだ筆頭ではなかったが、ユルゲンを含めて出世していて驚いたのぅ」


「ふん、ユルゲンの奴はともかく。お主は、出世なぞに微塵も興味なかったではないか。真面目に宮仕えして居れば、今頃お主が筆頭であったろうに」


……あ。

やっぱりそうなんだ。


 クレイブさんと出会った僕達は、彼に案内されて庭園の一角のテラスでお茶をご馳走になっていた。


 季節のせいか、庭のあちこちには綺麗な花が咲いている。


 その中で驚いたのが、青い花の種類の多さ。


 何でも、グレナ王国の国色が青らしい。


 特産品としているグレナ王国の鉱物も熱すると、青くなるし、そういう関連からきているのかも知れないなぁ。


 そんな沢山の青い花がある中で見つけたのが、真っ青な薔薇だった。


 前世にも青い薔薇(ブルーローズ)と呼ばれている花はあったんだけど、そのどれもが紫よりの青だった。


 自然では、青い薔薇は存在していなくて、それらはみんな品種改良した人工的なものだった為、これ程の見事な青い薔薇が存在している事が驚きだった。


 まぁ暇つぶしに、インターネットで閲覧していた時に得た知識だから、キチンとした?青い薔薇があったかもだけどね。


「……でも、そんな偉い人がこんな場所でのんびりお茶していても良いのですか?」


「あぁ、先程まで会食という名の会議をしてきたばかりでのぅ。……全く胸糞悪い内容だったもんで、気分転換したかったところなんじゃよ」


「……この国は、駄目かのぅ?」


「――駄目じゃな。根が腐っておるからな、根こそぎ替えぬと先はないのぅ」


 顔を顰めながら話すクレイブさんを見て、あぁ、この国の崩壊はもう目の前まできているのだと実感する。


 ゲイツさんも、僕と同じ感想のようで頷いただけだった。


「陛下のぐうたら振りには、目も当てられん。その側近の連中も、己の利益を増やす事しか考えておらんのじゃ。前国王陛下も草葉の陰で泣いておるであろうのぅ」


「……あのぅ、そんなに過激な発言をして、クレイブさんは大丈夫なのですか?」


「ふん。ワシをどうこうする気概のある奴がおるのなら、まだこの国にも未来があるんじゃがな」


 皮肉が出てしまうほど、この国の上層部はダメダメで、クレイブさんは相当ストレスを溜め込んでいるようだ。


 気心の知れたゲイツさんの存在が、彼に愚痴を零させるのかもしれないけど。


「サクラ、それについては問題無いよ。クレイブさんは、キチンとこの周囲に盗聴防止の魔術を使っているからね」


「ほう、気づいておったか。やはり、ゲイツが仕えておる相手じゃのぅ」


 目を細めて感心した様子のクレイブさんに、僕は頬を人差し指で軽く掻いて照れを誤魔化す。


 サクラは、「主様(マイロード)、流石です」と言いながら妙にウットリしていたり、イリスがまるで自分が褒められたように胸を張っているが、取り敢えずそれはスルーだ。


「……いっその事、お主が上層部を一新したら良いのではないかのぅ?」


「阿呆ぬかせ。それができるのなら、とっくに手を打っておるわい」


「――出来ない理由は何かのぅ?」


「それを行うには、この国の貴族が半数以上消えないと無理じゃからな」


ーーふむ、ぐうたら貴族が半数以上かぁ。


それくらいなら、何とかできると思うけどな。


「あれですか?キチンとしている貴族の殆どは、位が低かったり、僻地に追いやられていたりしませんか?」


「そうじゃ、今の国王陛下が即位した時に、爵位の見直しがあってのぅ。前国王が信頼を寄せていた者の殆どはあれこれと理由を付けられ格下げを実行されて、それに伴って領地も僻地に変更という大幅な改悪が行われたのじゃよ――何故、分かった?」


「最初に無能がする事は、居心地の良い場所の確保ですからね。耳に優しい事を囁く連中が側にいれば良くて、厳しい事を発言する連中は耳障りで側に置きたくない」


「……耳に優しい事を囁く者は、無能。厳しい事を言うものは、有能。という事ですか?」


 サクラの問いに、頷いて肯定する。


「それを見極められない者も、無能。なのです」


「有能な国王に替えて、僻地に行ってしまった貴族を戻せば……まだ何とかこの国の寿命も幾ばくかは伸びると思います」


「……言う事は簡単だがのぅ。それをするには、ワシの力だけでは厳しいのが現状なんじゃよ」


「次の王位継承者は、誰になるのかのぅ?」


「――妹君のレイチェル様じゃな、ただし母親違いでの」


「何か、問題でも?」


「……母親の身分が低いんじゃよ。後ろ盾に誰もなりたがらんしの、厳しいのぅ」


「――それは大した問題ではありません。後は何かありますか?」


「大した問題ではないって……そうだのぅ、後はーー」


 クレイブさんの話を聞きながら、僕は頭の中でこの国のクーデターの計画を練っていく。


 終始、ゲイツさんは僕が妙に積極的になっている事に不思議がっていたけど、まぁその理由は追々教えるとして。


 僕は、最後にこれだけは尋ねない訳にはいかなかった事を口にする。


「……ところで、あの塔の最上階に囚われている者は誰ですか?」

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