051話
貴族街を抜けて、上り坂を歩くこと15分。
城壁越しに塔が見えてくる。
しかし、城を守るように堀がグルッとあり、それに沿って城壁がそびえ並び立っているので、城の全貌を見る事が出来ない。
「……見えません。なのです」
「……見えないねぇ」
「流石に、入場はできませんよね」
門前には重厚な鎧に身を包んだ兵士が左右に2人、槍を手にしたまま立っていて、そう簡単には通してもらえそうにない。
分かってはいた事だが、それでも3人に落胆の色が出てしまう。
「壁邪魔。なのです」
「壁壊せば、お城見えますね」
「……壊しちゃ駄目だからね」
女2人が、何やら物騒な発言をしているので、やんわりとそれを止める。
……本当に、やりそうで怖いよ。
城壁を見上げると、チラチラと槍の穂先が見え隠れしている。
どうやら、上には巡回兵士がいるようだ。
城壁の上からの眺めも見てみたいなぁ。
……夜こっそり行ってみようかな。
「――カナタ殿」
途方に暮れている僕達3人の側にいつの間にか居なくなっていたゲイツさんが現れた。
「王城へ入れる許可がもらえましたので、行きましょうかのう」
「え?……入れるの?」
「やった♪なのです」
「あら?ゲイツさんって実は凄い人だったのですか?」
「ハハハッ。以前は魔法省に勤めていましてのぅ。その時のツテにお願いしたら、快く許可を得ましたのでのぅ」
ゲイツさんはなんて事ない風に理由を話してくれるが、きっとそんなに簡単ではなかったと思うのだけど。
それでも、こうして許可を得られたのだから、素直に感謝しよう。
「有り難うございます。ゲイツさん」
ゲイツさんの人柄による縁で、僕達は無事に入場が叶う。
石造りの橋を渡り、大きな木製の門をくぐり抜けて正面に目を向けると、大きな白亜の城が視界いっぱいに入ってきた。
「あれが、王城かぁ」
門から石畳の道が真っ直ぐ王城まで続いている。
そのサイドには、よく手入れされた庭や木々の緑。
「きちんとお世話されていて、見るだけで幸せになりますね」
「正門から入ってすぐに目に付く場所だからだよね。乱れていたら、国自体の品格が問われるしね……にしても、こんだけ広いと職人さん達の人数凄そう」
よくテレビでだと、広さの例えを○○球場○個分って言っていたりするけれど、よく分からないので割愛させてもらいます。
「右側は庭園が迷路になっておりますのぅ」
「迷路?……楽しそう。なのです」
言われてみると、右側の植木は垣根になっているようだ。
僕達はのんびりと歩くことこれまた10分くらいかけて、ようやく目当ての王城に到着する。
塔が何箇所に立っていて先端がとんがり帽子みたいな形の城、某夢の国の城みたいな感じ?のイメージしていた城とは少し違って、尖りが一切無いタイプの城だった。
この城の塔は1つだけ。
……上部は、チェスのルークに似ていているねぇ。
あ、姉さんに頼んでチェス盤送ってもらおう、久し振りやりたくなってきた。
ゲイツさんなら、すぐにルール覚えそうだし。
「残念ながら、城内の許可は取れんかったので、外観だけになるんじゃ。申し訳ないですのぅ」
「いえ、それで充分ですよ」
「はい。なのです」
「……中は魔の巣窟のようなので、許可があっても私は遠慮したいですね」
サクラの一言に、僕はギョッとする。
彼女が見ている視線の先は、塔のテッペン。
……そういう探知能力でも備わっているのだろうか?
確かに、高台から見た時に僕も気になっていた場所だったから。
「……確かに、ここは国の政を行う場所ゆえに、貴族の企み事満載のドロドロな感情渦巻く地獄絵図が見れますのぅ」
……ゲイツさん。
誰が聞いているか分からないんだから、そう言う事を言わないで欲しいです。
例え、その通りであっても。
「――相変わらず、正直な奴じゃな」
左の庭からやって来たのは、とんがり帽子を被ったご老人。
ーーおぉ。
以前のゲイツさんと同じ格好の魔法使いさんだ。
右手には、形こそゲイツさんの持っている杖に似ているが、ご老人の背が低い分杖も短めだった。
「クレイブか、久しいのぅ」
懐かしさのこもった声色で、魔法使いのご老人に言葉を返すゲイツさん。
「――なんじゃ、ワシよりも若返りよってからに。ムカつくわ」
「ハハハッ。これも天命なのだから、仕方がないのぅ」
……天命って。
何だか言い得て妙な発言だ。
「――して、この子供達はお前の子か?……それにしても、似ておらぬが」
「無論、儂の子ではないのぅ。今の儂は、こちらのカナタ殿にお仕えしている身でのぅ。カナタ殿、こちらは、現魔法省の長のクレイブ・ログナー」
「――ほう?群れを嫌っていたゲイツが仕える相手を見つけたのか……にしても、随分貧弱そうな子供ではないか?」
……また、コレか。
でも、大丈夫。
ボク、オトナニナッタ。
「初めまして、カナタ・スフレールと言います。こちらは手前から、イリス・グラントとサクラです」
今にもご老人を殺しそうなイリスを牽制するように、僕は早々に彼女達を紹介する。
「あまり、軽率な発言は控えたほうが良いのぅ。カナタ殿もイリス殿も、儂等が何十人いや何百人束になっても、叶う相手ではないからのぅ」
「――フハハハッ。ゲイツが言うなら事実なのだろうな」
ん?
このご老人、素直に信じたよ?
「ん?なんじゃ、信じないと思ったのか?」
「……えっと、はい。以前、ユルゲンは信じませんでしたから」
「フハハハッ。――アイツにも会っていたのか。アイツは戦闘狂いの脳筋馬鹿じゃからのぅ。少年とただ戦ってみたくて挑発したのじゃろう。……して、結果は?」
「3分も持たなかった。なのです」
「ハハハッ!ユルゲンのヤツ、気絶したそうじゃのぅ」
「――なんと!気絶しおったかっ!フハハハッ、それはワシも見てみたかったな!」
ご老人の本当に愉快そうに笑う姿を見て、普段からユルゲンとはウマが合わないのだろうと理解した。
……にしても、この年代の人達ってこんなに豪気な感じの人ばかりなのかなぁ。




