004話
グレナ王国領土内にある、最北端に位置する森。
通称、未踏の森。
人も魔物も、この場所に立ち入る事ができないという理由から、その名がついた。
だけど、そうまでしてこの場所が存在している理由は簡単明快。
ココが天界と下界をつなぐ、隠しゲートがあるから。
僕とイリスは、天界からこの地に降り立った。
見渡す限り木々ばかり、緑の匂いが鼻腔をくすぐる。
「マイナスイオン満載。なのです♪」
クリーム色のワンピースに腰にはベルト、エンジニアブーツを履き、白色のフード付きロングコートに背にはランドセル型のカバン姿のイリスは両手を横いっぱいに伸ばして、大きく深呼吸をしている。
ちなみ、コートとカバンとブーツは僕とお揃い。
姉さんが、僕達が兄妹設定で旅ができるようにと、合わせてくれた。
「あ〜、お腹空いた」
剣と魔法の世界に来たという実感する場所でもない、森の中。
僕のお腹がグーっと悲鳴をあげた。
考えたら、死んで生まれ変わって、旅行の話がでて、準備してそのまま出発してって……その間に口にしたのは、天界産の紅茶にお茶菓子(マカロンに似てた)だけだったし。
あまりにも展開が急すぎて、まだ1日経っていない事にここに着いてようやく気付いた。
いくら天界製だからといっても、お腹も減れば睡眠も欲する普通の身体。
まぁ、それ以外は普通ではなかったりするんだけど、その性能に関しては追々話す事にして。
「その前に、先にお家の場所を確保しましょう。なのです♪」
「確かに、寝床の確保も大事だね」
イリスの提案に再び森の中を歩き、僕達は湖がある場所へと行き着いた。
「湖?」
「キレイ。なのです♪」
「それじゃあ、この近くにしようか」
太陽の光が湖に反射して、その光でイリスの瞳がキラキラしている。
基本、天界人が下界に降りる機会などほぼゼロに等しく、旅立つ前にイリスは「楽しみ。なのです♪」と笑顔で話してくれた。
「家のスペースって、どれくらいあれば良いの?」
「えっと〜、ちょっと確認してみます。なのです」
彼女はカバンを開き、取り出したのは銀色の1枚のカード。
「それが、家?」
「はい、なのです♪これはアナベル様特製の携帯型住居。なのです♪」
イリスの話では、別荘感覚で天界人の間では普通に使われているとの事。
姉さん特製の意味は、後から間取りを増やす事ができたり、調度品等のカスタマイズが可能という事らしく、一般の天界人が使用しているのは、そういった変更が出来ない既製品らしい。
カードの裏面に住居情報が記載されているらしく、イリスは熱心に目を通していたが、コートの中に手を入れ、彼女は自身の武器を取り出す。
取り敢えず、僕は彼女の動向を見守る事を決めて、少し距離を置いてみる。
黒い刀身のダガー2本が、イリスの武器だ。
姉さん曰く、天界では二刀流の使い手として、なかなかの有名人らしい。
イリスはソレを使って、目の前の木々に向かって衝撃波を放った。
どっがぁぁぁぁぁぁん!
轟音と共に、木々が跡形もなく消滅。
多分、消滅した部分が、家を建てる為に必要な範囲なのだろう。
目の前には、キレイな更地が出来上がっている。
…………これ、良いのかなぁ。絶対、森の外まで音いったよね?
力の行使は、必要最小限にとどめるように。と姉さんに言われていたけど、コレOUTじゃない?
「確保出来ました。なのです♪」
僕の心配を知らないイリスは、やりきった感を全面に出しながら凄く良い笑顔で振り返った。
「うん、アリガトウ。イリス」
僕は笑顔の彼女に近づき、頭を撫でる。
姉さんに言われていた1つ、イリスを褒める時は頭を撫でる事。
何でも、そうして褒めると彼女の中の幸福度が上がるらしい。
幸福度って、なんだよ。
イリスのフラグを立てて、何か意味があるのか?
今さらだが、姉さんに騙された感があるものの、1度やってしまうと、次からナシってわけにもいかないし、このまま継続だなぁ。
「それでは、実行に移る。なのです♪」
イリスは手に持っていたカードの隅を軽く押した後、ポイッと更地に向かって投げた。
カードが放物線を描きながら、更地に落ちた瞬間に発光。
光が収まると、ログハウス風の家が現れた。
「……家だね」
「はい、家。なのです♪」
なんかもう、一々反応するの疲れた。
立っていても仕方がないから、素直に僕達は家の中に入る。
だけど、部屋を見て僕は言葉を失う。
「素敵なのです♪」
外観はログハウス風だったのに、中は白い壁、システムキッチン、オシャレな現代風のテーブル&椅子、シャワー付きの風呂にトイレだったりと、前の世界観が形になっている家だった。
但し、PCだったりゲーム機だったり、TVといった娯楽系はなく、あっても棚にびっしり入っている本くらい。
それでも十分、僕の心は安らぎを覚えている。
なんだかんだ、初体験の連続でストレスが溜まっていたのだ。
イリスから僕の部屋と言われ、入ったそこは前世で生活していた自室と全く同じで、思わず嬉しさが込み上げてきた勢いのまま、ベットにダイブ。
空腹も忘れて僕は、そのまま眠りに就いてしまったのであった。
あ〜!やっと、長かった1日が終わりました。