048話
ゲイツさんに案内されながら、屋敷の中を歩いていく僕達。
ゲイツさんの屋敷もそうなんだけど、この様なザ・西洋屋敷。に慣れていない僕は、思わず挙動不審気味になってしまう。
携帯住居もそうだが、住み慣れているのはあくまで洋風の家であって、本場の西洋の家ではないのだ。
廊下に赤絨毯なんて敷かないし、照明もシャンデリアなんて設置しないし、一定間隔に花瓶なんて飾りはしない。
まず初歩的な事だが、靴を履いたまま家にあがったりなどしないのです。
まぁ、宿屋でもそうだったが、そこは前世でホテルに泊まった経験上、それ程抵抗はなかったのだが。
家になると、僕の中の意識も変わってしまう訳で。
誤ってぶつかり割れたらどうしよう。などと考えながらの緊張した時間を過ごし、リビングとして使用されている一室へと案内された。
「帰ってきた後に、掃除は一通りしたんじゃがのぅ。何事にも不備はつきものですからのぅ、埃っぽく感じたら素直に仰ってくださいのぅ」
紅色でベルベットの様な肌触りのソファーに座りながら、室内を見渡してみる。
高い天井からかかる大きなシャンデリアがある室内には、ゲイツさんの趣味なのか幾つかの絵画が飾られて居て、大きな暖炉が存在感を出していて壁はここも白を基調にしていて、あちこちに、花瓶や壺が専用の棚に置かれている。
そして、見る限り埃っぽさは感じなかった。
「……創世紀時代の遺跡とはのぅ」
装飾が施された石のテーブルの上には、高級感たっぷりのカップの中には、イリスが淹れてくれたロイヤルミルクティー。
ティーポットも陶器製で、某夢の国アニメ映画に出てきた物に酷似していたりするが、これも高級そうだ。
ちなみに、イリスがよく使っているのは神族製の耐熱ガラス製で、その透明な器だとお茶の色合いが見れて中々に楽しかったりする。
サクラの出逢いを話し終えると、ゲイツさんが少し考え込む仕草をしながら、僕の側に立っている彼女に視線を移す。
「魔法省の資料室や王立図書館にも、そんな歴史が書かれていた書物は見た記憶がないのぅ。じゃが、カナタ殿の言う通り秘密にして残さなかったというのも、あながち間違いではないかもしれないのぅ」
知的欲求を満たしてくれそうな人材が目の前にいるのが嬉しいのか、ゲイツさんの目はまるで少年の様な純粋な輝きを浮かべている。
その視線を笑顔で受け止めつつも、やはり怖いのだろうサクラの頬が若干引き気味だ。
「――取り敢えず、そういう感じでここに来るのが遅くなってしまいました。ごめんなさい」
膝に手を置きながら僕は頭を下げると、隣に座っていたイリスも同じ様に頭を下げる。
「……事情は分かりましたから、頭を下げるのは勘弁ですのぅ。これからは、一緒の旅仲間なのですし、宜しくのぅ。サクラ」
「はい、こちらこそよろしくお願い致します。ゲイツさん」
お互いにこやかに挨拶を交わしている様子に、一先ず安心した僕は、冷めないうちにとカップに口を付けた。
2人の間で交わされた呼び名に、少し違和感を感じたかも知れないので、少し説明すると、ゲイツさんの中での僕とイリスの立ち位置は、上位になる。一方サクラは元が機械人形ということもあり、自分と同等という視点からきているらしい。
サクラにとっても、ほぼゲイツさんと変わらない考えでいるようだ。
ちなみに、何度もマイロードと呼ぶのをやめてとサクラにお願いしたのだが、中々に頑固な彼女は首を縦に振ってはくれないので、諦めたんだよね。
「――して、これからどうしますかのぅ?」
「あぁ、せっかくだから王都を観光したいんだけど……」
庭へと続く窓に目を向けると、少しオレンジがかった空が見える。
屋敷に到着してから、かなりの時間が経過していたらしい。
他の街に比べて、魔石が取り付けられている街灯があちこちに設置してあるということなので、この王都の夜は長いらしいが、僕達のような見た目子供が出歩くには危険度が増すからやめたほうが良いらしい。
ーー王都の夜景っていうのも、見てみたいなぁ。
また、あの丘に登ってみるのも良いかもしれない。
「では、明日は朝から出掛けることにして、今日はこのままこちらでのんびりして頂く事でよろしいですかのぅ?」
「……ねぇ、ここの庭って広いかな?」
「ハハハハ。やはり、カナタ殿にはココは落ち着きませんかのぅ。大丈夫です、家を置ける広さは充分にありますからのぅ」
「ええっと……そのごめんなさい?」
僕の考えはお見通しのゲイツさんの笑い声は、一室に響き渡り、僕はなんか申し訳なくて頭を掻くしかできなかった。
魔術師として、屋敷を建てるにあたり訓練しても充分な広さを確保したのだと話してくれた。
「結局、近所迷惑になると妻に怒られてしまいましてのぅ。1度も訓練には使用せずに、妻の趣味だった家庭菜園に使われてしまいましたのぅ」
外に出て庭を案内する傍らに、昔の思い出話が出てしまうのは、きっとゲイツさんがリラックスしている証拠なのだろう。
いつも、僕達に優しい顔を見せてくれているけれど、今が一番優しい顔をしているから。
「では、設置します。なのです」
話の通りに、案内された庭はざっと見積もってもサッカー場くらいの広さがあった。
イリスはコートのポケットから、携帯住居のカードを取り出して、例の如くそのカードをポイッと投げる。
「……見慣れたと思っていましたが、やっぱりこの天術は不思議な感じがいたします。主様……」
「――いや、サクラ。これ、天術ではないから」
「天界の技術、略して天術。なのです」
うはっ!
イリスさん、胸を張って言う事じゃないからね。
「……やめようか。なんか、ややこしくなるから。色々と」
無邪気な2人に、苦笑しか出ないまま家の中に入っていく僕だった。




