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046話



 景色を堪能し小高い丘を下りて来た僕達は、整備された道を歩いて王都の入り口付近に到着する。


「凄い人。なのです!」


「……主様(マイロード)、今日中に入場するのは不可能な気が致します」


 2人が口をポカンと開けたまま、目の前の光景に戸惑いを見せているが、それは僕も同じなわけで。


 かなり先に門が見えてはいるが、そこに向かって人の列が半端なく続いているのだ。


 遠目で見た橋はそれ程長く感じなかったが、門までの距離はかなりあり、幅も3mくらいあって、そこには人と馬車が、きれいに別れて並んでいたのだから。


「ホントだね。僕達が来た方向からは、そんなに王都に向かう人達とは出会わなかったから、楽に入場できるかと思っていたけれど、別ルートからは人や馬車が沢山やってきていたんだねぇ」


 王都人気を甘く見ていたようだ。


 何かを売りに来ている人達が殆どの様で、編んだカゴに品物を詰め込んで背負っていたり、布で巻かれている品物を両手で持っていたりと様々だが、目的は同じ一般の人々だろう。


 馬車でやってきているのは、貴族か商人か冒険者の様だ。


 華美な馬車や、シンプルなデザインの馬車に、荷台を引いた幌馬車だったりと様々だった。


 僕達のように、軽装で徒歩で来ている者は見当たらないので、列に並ぶと前にいた人が不思議そうに見てくる。


「アンタ達、何処から来たんだい?」


 僕達の後ろに並んできた村民風の服装をしたご婦人が、声をかけて来た。


「マインの街の方から来ました」


「へぇ、マインからかい。……まさかとは思うが、歩いてかい?」


 見た目ふくよかなご婦人は、僕の格好を下から上へと視線を移しながら聞いてくる。


「……まさかではなく、歩いて来た。なのです」


「本当かい!?よく無事に来られたもんだねぇ」


「どういう意味でしょう?」


「マイン方面は、最近治安が悪くて、野盗が増えたって聞いていたからさ。行くなら馬車じゃないとってね」


 ふくよかなご婦人は名をエルマさんといった。


 旦那さんのアマデオさんと息子さんの3人で、王都に店を開くために、東の村からやって来たという。


 僕達も、名前と冒険者であるという簡素な自己紹介で済ませるが、エルマさん夫婦はそれで納得する。


 本来、冒険者稼業をしている者には、諸事情持ちが多いため、詮索することはタブー。


 なので、エルマさん達夫婦も例外なく、大人未満の僕達の事を不思議に思っていたとしても、深くは聞けないのだ。


「おやぁ、カナタちゃん達は冒険者さんだったのかい。だったら、徒歩で来たのも納得だねぇ」


 僕達はエルマさんから頂いた干し芋を齧りながら、ゆっくり門に向かって歩いている。


 もらった干し芋は、丸干しでしっとりしていて、蜜が濃厚で中々に美味しい。


主様(マイロード)、少しずつ進んではいますが、これでは日が暮れてしまいます」


 サクラの食事は僕の神力なので、彼女は干し芋を食べられない。


 手持ち無沙汰を補うためなのか時折、背伸びをしたりピョンピョン跳ねたりしながら、前方の様子を伺っている。


「アタシ達は、店の下見とかで何度か来ているけど、この調子だと後3時間くらいかかるかねぇ」


 同じ様に、門の方向を見ながらエルマさんが教えてくれた。


 半年をかけて、王都へ何度も足を運び店兼住居の下見をしていたそうで、「今日は少ない方よ」と笑って言う。


「店って、何関係ですか?」


「アタシらは、飲食店さぁね。村でやっていたんだけど、王都から来た冒険者さん達に結構評判が良くてねぇ」


 旦那さんの顔を見ると、両腕を胸の前で組みながら、少し自慢げな表情をしている。


 以前は、自分も冒険者をしていたと言っていた通り、腕を組んだ瞬間に盛り上がった筋肉が、それなりに強かった事を物語っているし、無口なのも冒険者っぽさを演出している感じ。


そうだよね。

自分の仕事が褒められるのは、嬉しい事だよね。


「出る気はなかったんだけど……隣村が魔物に襲われてから、何だか怖くなってねぇ。旦那と話し合って、王都に出ようって事になったのよ」


 何度か足を運んで手頃な物件を見つけて契約して、本日は引っ越しということだった。


 息子さんが先に荷を積んだ馬車で入っているというので、僕達ほどではないにしろ、2人は比較的身軽だった。


「魔物による被害って、酷かったのでしょうか?」


「……ほぼ壊滅状態だと聞いたな」


「復興は、難しいって聞いたわねぇ」


 サクラの質問に、大人2人は渋い表情ではあったが答えてくれたのを見て、僕はきっと言葉で聞くよりももっと酷いのだろうと思った。


 『父』が創造した箱庭である、オールスラントはそういう世界なのだと納得するしかない。


「何処に店を構えるのですか?」


 僕は、話題を変えることにする。


「あぁ。広場から少し離れた、けやき通り沿いの琥珀亭さぁね。5日後に開店するから、そしたらウチに食べにおいで。沢山おまけしてあげるからね」


「その時には、是非お願いします」


 エルマさんの明るい笑顔につられて、僕も笑顔で返した。


5日後かぁ。

出来れば、行ってみたいものだね。


 その前に、ゲイツさんを見つけるのが先なのだが。


 そんな風に考えていると、全身鎧に身を包んだ騎士が一人、ガチャガチャと音をたてながら小走りで近づいてくるのが目に入った。


「……誰かを探している感じ。なのです」


 僕のコートの裾を引っ張りながら、話しかけてくるイリスに皆が反応して、近づいてくる騎士に目を向けた。


「なんか、あったのかねぇ」


「……たまに、巡回も行っているから。それかも知れない」


 アマデオさんの呟きに、僕はそんな事もするんだと納得してしまう。


 騎士は僕達の前を一度通り過ぎた後で、すぐに戻ってきて、僕を見下ろした。


「貴殿が、カナタ・スフレール殿であらせられるか?」


「はい」


「元魔法省のゲイツ・シューマン殿の命で、お迎えに上がりました」


「…………はい?」


 突然のゲイツさんからの、サプライズに軽く驚いてしまう僕だった。

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