045話
不思議な出会いもあった、謎の研究施設跡を出た僕達は、10日間かけて歩きに歩いて、ようやく王都が一望出来る高台に立っていた。
本当に、長かったような短かったような。
やっと、1つ目の国の最終目的地にもうすぐ着んだと思うと、ちょっと胸に込み上げてくる感情が………別に、ないね。
うん。
全然ないや。
本当は真っ直ぐ王都に行くつもりだったのだけれど、凄く立派らしいと道行く人々から聞いていたのもあって、「それじゃあ、王都を見下ろしてみよう」という話になり、僕達は高台を目指して少し遠回りをして今に至るわけです。
「アレが王都なのですか?なのです」
「うん、すごいね。星を象る様に城壁が建っているよ。その中心の建物のアレが王城だねぇ。ウホッ♪西洋系の城ってリアルで観るの初めてなんだよね〜。へぇ、城周りにも堀が形成されているんだぁ」
それでも、前世でも映像や写真でしか見たことがなかった西洋の城というものは、歴史好きな僕としては少し興奮気味になってしまう。
星形に沿っている城壁を囲うように、堀が造られており、王都に入る手段は東西南北に架かっている橋を渡らないと駄目らしい。
「外堀と内堀の2つの堀かぁ。戦争の事を考えて設計されたみたいだね。中々に攻め難そう」
僕は前世で習った戦国時代の知識を、目の前の建造物に重ねた。
授業で習った防御に特化した城は、大体城周辺に川や貯水池などの堀を設けていた。
でも、星形にするなんてセンスあるよねぇ。
まさにこの国の象徴を体現している気がする。
「あちこちがキラキラしていますね。アレは何でしょうか?」
風に乱されないように、手で長い髪を押さえながら聞いてくるサクラは、イリスが良くするワクワク顔をしている。
サクラ、創世紀時代後期に製造された機械人形。
サクラの透き通っている赤い瞳は、ズーム機能も備わっているらしく、僕達並みに視力が良いらしい。
ここに到着するまでに、彼女の話を色々聞いたけど、文明の後退にひどく驚いていたっけ。
『村民の生活水準が、こんなにも低くなっているなんて……信じられませんし、まず魔石を常備していない家が殆どなんて……一体、私が眠っていた間に何があったのでしょうか?』
創世紀時代の頃は、それほど頻繁に魔物に遭遇する事は無かったので、後退の原因は恐らく魔物の増加と凶暴化なのではないかと云う。
山深い場所の人が立ち入りにくい場所が、かつての魔物達の生息地であり、そこから出てくる事は滅多になかったらしい。
それほどに、出会う確率はかなり低かった魔物達の住処を脅かす何かが起こり、魔物達が山から下りてきて今に至ってしまったのかもというのが、サクラの考えだけど、残念ながらそれを証明することは不可能なわけだけど。
昔は王都や街は勿論、村や集落にさえ石壁で囲われ守られており、作物を守る為に野生の動物や魔物避け機能が付属された鉱石を四方に設置していたと教えてくれた。
おそらく創世紀時代が終焉を迎えてから、それまで当たり前のように存在、使用されていた技術が徐々に失われていき、気付いた頃には全てが風化した後だったのかも知れない。
それにしても、完全に遅刻だよね。
あ〜。
ゲイツさん心配しているよねぇ。
絶対。
「アレは、硝子の光。色ガラスを組み合わせて作られている、ステンドグラスといわれている物。なのですよ」
「へぇ、とても綺麗です」
まさに王都と呼ばれるだけあって、立ち並ぶ建物群は白の石材で統一されていたり、そこで生活している人達の身に着けている服装といい、華やかさに溢れている。
アレ?
あそこは、貴族街だから当たり前かぁ。
少し密度が高めの場所へと視線を移すと、おそらく商業施設が建ち並んでいるのだろう、人の行き交いが激しい。
それだけ、活気で溢れているというのが分かる。
一般人に関しては、地方から来ている者も多いようで、身なりに統一性はなかった。
更に外壁に近い場所には、貧しい者が集まって生活している様子も見える。
……格差社会の極みだねぇ。
「それにしても、あれがこの国の王様かぁ。善政をひく人物には見えないね」
城の中心に千里眼を使用して覗いてみると、豪奢な具に囲まれて、悪趣味に飾られているソファーに、ドカリと腰をおろして、赤い液体が入っているグラスを傾けている人物を見つけた。
小さい頃に読んでもらった童話には出てきた、ダメダメなメタボな王様の絵を、そのまま体現した人物だ。
まだ、昼を少し過ぎた頃だというのに、もう彼は出来上がっているようだ。
「あの感じだと、政務をまともにしている様子は微塵もないね。あ〜、この国の未来終わってるよ」
「そうなのですか?……主様が仰るのでしたら、そうなのでしょうね。私が知っている王は、とても立派な方でしたので残念です」
「サクラが知っている王様は、どんな人だったの?なのです」
イリスに問われ、頬に手を当て首を傾けながら、考えている様子の仕草を見せるサクラを、僕は初めて出会った頃よりも変に意識せずに接することが出来るようになっていた。
どう見たって、僕達と何も変わらないのだから。
「……私が知っている王は、ただ一人。ガゼイン王だけですが、民のことを第一に考えて行動する立派な方でした」
サクラが挙げた人物は、僕がこの世界に降りてきて読んだ資料の中に、創世紀時代の有名な王様として登場した名前だった。
「確かガゼイン王って、武に優れ、知にも長けていた創世紀時代後期の王様だよね」
「さすが主様、その通りで御座います。精悍な体躯を持ち、大きな器の持ち主でお優しい方と認識しております」
サクラがニッコリと優しい微笑みを見せてくれる。
「偉大な王の末裔が、あんな体たらくなんて、草葉の陰でご先祖様も泣いていることだろうね」
「メタボな王様が良い王というのは、あまり聞きません。なのです」
「まぁ、偏見かもだけど。このご時世、武にも精通していないと色々駄目な気がするけど、今この国は比較的平和な日々が続いているから、その影響もあるのかもね」
メタボな王様の側に控え、高級感ある衣服に身を包み、何やら会話をしている男性もやっぱりお腹に脂肪を溜め込んでいるメタボだ。
王が変わってから治安が悪くなったと、通り過ぎた町や村でちょくちょく聞いていたから、もしかしてと思っていたけど、まさか本当にあんなぐうたら生活している奴らだったとは。
もしかしたら下に仕えている者達も、同じ様に職務怠慢を犯しているのかもしれない。
「……姉さんの言っていた事って、コレの事だったんだ」
「グレナ王国に異変アリ。なのです」




