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043話



 姉さんからの贈り物を見つめながら、暫く思考を停止している僕だったが、体の振動にふと我に返ると、イリスが両肩を掴んで揺らしていた。


「……コレは、何かの冗談なのかな」


「アナベル様は、いつだって本気の方。なのです」


「……本気が、コレなのかぁ」


 再び、小包の中身に視線を落とす。


 小包の中身は、ピンク色のハート型鉱石だ。


絶対、姉さんのセンスはおかしい。


 手紙には、コレを人形の胸の前に翳せと書かれてあるという事は、ハートの形をしたコレは心臓の役目を果たすものだということが容易に想像できる。


 機械人形(オートマトン)について、記載されている本はないかと、鞄に手を突っ込んでグルグル漁っていると、硬い何かが手に当たったのでそれを取り出してみると、僕は一冊の本を手にしていた。


 ページを捲りながら、機械人形(オートマトン)が記されている箇所を探す。


「……あった」


 創世紀時代、とある魔法使いから機械人形(オートマトン)がもたらされてから、使用人扱いで使う人々が増加したという。


 その過程で、機械人形達(オートマタ)の技術も発展していき、人工知能(AI)も実装される。


 三度進化経て、使用人程度の扱いだった機械人形達(オートマタ)は、戦争の数合わせであったり、慰み物になったりと、用途が多岐に渡り増えていった。


 各国が機械人形(オートマトン)の製造に力を入れると同時に、問題も増えていく事に当時の支配者達は頭を悩ませ始める程に、更なる進化を遂げていった。


「……問題とは何だったのでしょうか?なのです」


「さぁ?でも、前世の僕がいた世界では、このAIっていうのが厄介で、自我に目覚めたロボットが、人類に復讐する創作映画があったなぁ」


「では、創世紀時代の滅亡の影に、機械人形(オートマトン)ありだったのでしょうか?なのです」


「……本にはこれ以上記載されていないな。だからと言って、その可能性を否定する材料もない、でも肯定も出来ない。ただ、それも理由の1つだったかも知れない。というくらいかな」


「この子が目覚めたら、その事情も知っているのでしょうか?なのです」


 今はまだ、椅子に座ったままの物言わぬ人形に、僕とイリスは視線を落とす。


「どうだろう?ずっと、ココにいたのなら知らないかも」


「では、目覚めさせて聞いてみる。なのです」


簡単に言ってくれるねぇ。


 小包に同封されていた、一枚の紙。


 それは、機械人形(オートマトン)を目覚めさせる方法が書かれてある。


「まず、(コア)に……この鉱石の呼び名かな…に主の名を彫るって、これは誰の名前?姉さんの名前かな」


(あるじ)なら、カナタ様。なのです」


うん。

イリスならそう言うと思っていたよ。


「……でもなぁ。あっ、目覚めさせたら機械人形(オートマトン)は、主の魔力を供給して動くらしい……この場合は、僕から抜くから神力かぁ」


「神族は、私達天使族よりも、膨大の神力を持っています。なのです」


「じゃあ、結局僕の名前を彫るのは決定かぁ。……えっと、彫り終わったら(コア)を胸の前に翳して唱える。だって」


「それで、目覚めるのですか?なのです」


「覚醒したら、機械人形(オートマトン)が自分で詳細の設定をするから、お任せって事みたい」


 やれやれ、僕の言葉を聞いて、嬉しそうに穏やかな眼差しを人形に向けているイリスの素直さを、少しは見習わないとね。


 だけど……と、不思議に思う事もある。


 魔力の供給がないと、稼働できないのなら、創世紀時代ではその問題をどう解決したのだろうか?


 どれくらいの量が必要かは、今の時点では定かではないにしろ、戦争の道具にもされていたのなら、大量生産は確実だ。


「まぁ、それについて答えてくれる人はいないよね」


「どうかしましたか?なのです」


 僕の独り言にイリスが反応するが、首を横に振って何でもないと教える。


 小包から(コア)を、左手でそっと取り出し、右手人差し指の先に光を灯す。


 (コア)の表面に、収束光をレーザーに変えて、天界語で名前を彫っていった。


 彫り終わると、微かに(コア)が輝き始めると同時に、僕は人形の胸の前に突き出す。


「それじゃ、やりますか」


「はい。なのです」


 胸の前に(コア)を翳したまま、目を閉じ軽く深呼吸をして、リラックスな状態に自分をもっていく。


 頭を真っ白にしようと、ただひたすらに邪心を無くす作業に没頭し、やがて僕の頭の中は無になる。


結合(ルリエ)


 無心のままに、自然と言葉が口から出た時、手に持っていた(コア)が熱を持ち始めたかと思うと、スッと人形の胸の中に、ソレ(・・)は吸い込まれるように入っていった。


「成功ですか?なのです」


「どうだろう。取り敢えず、要観察ってことで」


 無言のままで僕とイリスが、しばらく様子を見ていると、ピクンと人形の体が痙攣して、ずっと閉じられていた目が、ゆっくりと開き始める。


 その宝石の様な真っ赤な瞳が、僕達を捉えた。

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