040話
ブーツの音が響き渡るのを聞きながら、僕とイリスは、手を繋ぎながら階段を降りていく。
やはり、ココは何かの研究施設だったようだ。
下へ降りながらも途中に、部屋がいくつもあった。
そこには、今の時代よりも技術が進んでいたと思わせるいくつかの設備を目に出来た。
「凄いね。創世紀時代って、今よりも進んでいたんだね!」
中の脆さを心配していたが、石や土の壁ではなく全て金属製で出来ていて、丈夫さではこの上なく安全な場所だった。
軽く壁を突付いてみたけど、並の武器ではキズを付けることができそうにはない。
僕がいた世界にもこんな金属があったのかな?
まだ勉強途中だった僕には、この金属の正体の仮説を立てられるほどの知識が足りない。
「どうして、今まで手付かずの状態だったのでしょう?なのです」
「確かに、何かの原因で建物が崩壊して、扉が瓦礫で隠されたけど、そのまま放置って不思議だよね。今は開いたけど、以前は何重にもロックを掛けてあったみたいだし、開けるのを断念したのかな?」
「崩壊した後に掘り返した形跡はなかった。なのです。この場所は何処にも記していなかった可能性もありそう。なのです」
「トップシークレット的扱いっていうのは、確かにありそうだよね」
王族でも一部だけしか知らなくて、内緒にしたまま資料にも残すことなく、この世を去ってしまったなんていうのもあり得る話だ。
そんなことを考えながら、僕達は階段で下へと降りていく。
階段で降りて、部屋がある通路を通り過ぎて、また階段を降りるのを何度か繰り返す。
「ここ部屋が沢山あって、環境も良さそうで住むには充分。なのです」
「今のところ、住居区画なのかな?ワンルーム住居ばかりだし」
覗く部屋は全てベットや机と質素な感じだった。
「あ、ココはお風呂場みたい。なのです」
イリスの後に部屋に入って行くと、脱衣所の先に大浴場があった。
風呂の材質が、外にもあったツルツルの石で造られていた。
やっぱり、大理石っぽい。
「ここからお湯が出るのでしょうか?なのです」
龍の形に彫り込まれ、口は大きく開いている。
「ここに窪みがあるから、ココに魔石を嵌め込むのかな?」
浴槽と龍の境の所の、大きな窪みに触れながら僕は何となくその風景を思い浮かべる。
何の為にココで生活していたかは分からないが、それでも、昔の人でも疲れを癒やす為に風呂に浸かっていたと思うと、いくら最先端技術を使っていたとしても、生活環境は今も昔も変わらない事に何となく微笑ましい感情を抱いてしまう。
「……どうして笑っているのですか?なのです」
不思議そうに、僕の顔を覗き込んでくるイリスの頭を取り敢えず撫でて誤魔化すことにした。
風呂場を出て、隣の部屋を覗く。
「ここは、食堂。なのです」
広い部屋の中には、いくつもの長テーブルと椅子が置かれていて、奥にはカウンターがあり、きっとその奥にはキッチンがあるのだろう。
僕はその中の椅子に座って、テーブルの上で大きく伸びをする。
地下に入ってから随分と歩いた気がする。
椅子に座ってみて、何となく疲れと空腹を感じた。
「イリス、お昼ごはん食べたい」
「では、準備します。なのです」
テーブルを軽く殺菌してから、お弁当箱と飲み物の準備に入るイリスは、本当に良く出来た子です。
「入る前に、空気清浄をしたけど、その必要は無かったみたいだね。この施設、キチンと清浄機が設置されているみたい」
「部屋も埃っぽい感じがしません。なのです」
「……掃除ロボットでもいるのかな?」
おぉ。
本日のお昼ご飯は、カツ丼。
ーーこれもリクエストしておいたんだよね。
やっぱり、10代男子はガツン飯が、食べたくなるのだ!
「卵が美味しい。なのです♪」
「出汁で、味が付いているからね♪あ〜、カツが旨い!」
天井には照明器具が取り付けてあるが、きっとあれも魔石を嵌め込むのだろう。
今は僕が飛ばしている光球が、周りを照らしてくれている。
「なんか、国の税金がこの施設にはかなり使われていたみたいだねぇ」
「トイレも便座の水洗式でした。なのです」
「不思議な金属を使っている以外は、僕達の生活環境と変わらないよね」
いや、むしろこの施設の方が環境は上なのかもしれない。
でも、無機質な施設過ぎて、このまま生活するには息が詰まりそうだ。
……病院みたい。
白色の壁と天井の部屋と通路や階段が、病院をイメージさせる。
テレビや映画の研究機関って、やっぱり病院みたいな感じだったなぁ。
携帯住居は、色があるから落ち着く。
色が単一って、何だか病んでしまいそう。
「最下層は、後どれくらい降りれば良いのですか?なのです」
「多分、あと3階下かな」
スキャンした結果、この施設は地下8階あり、上の2階は会議室や応接室といったような広い部屋が数部屋あった。
その次の3階は、僕達が今いる食堂を含め個室や大浴場があったように、住居区画になっている。
残りはあと3階は、一体何があるのだろう。
「下は資料室とかか、研究室かな?」
「そういえば、荷物が何もなかった。なのです」
「……生活していた形跡は確かにないよね。新築の建物みたい」
どこの部屋もピカピカしていて、汚れもキズも見当たらないし、クローゼットの中も何も無かったし。
ベットにも、布団や枕も無かったし。
そう考えると、本当に実際にココで生活していたのかは謎のままである。
「まぁ、色々考えるとキリがないから、最下層までそれは置いておこうか」
「はい。なのです」
まだ嫌な感じが拭えない僕は、ソレを忘れるようにカツ丼を口に掻き込んだ。




