039話
特に急ぐこともなく、のんびり準備をしてからイリスの案内の元、目的地に到着する。
そこは、森の中のひらけた場所にコッソリと存在していた。
瓦礫の山と聞いていたが、山ではなく建物が朽ちた残骸の跡だった。
石材に蔦が覆っていたり、砂化が進んでいるそんな場所。
ここに建っていたのは、住居ではなさそうだ。
屋根らしきものが見当たらないのだ。
朽ちてしまったのだろうか?
それとも、一際瓦礫が積もっているものが屋根の残骸か?
四方には石柱だったものが、何本か折れて倒れている。
「……コレって」
僕は、朽ちかけて横たわっている石材に近付いて観察してみる。
転がっている石板に、この世界に降りてきて初めて目にした紋様を見つけた。
鞄から創世紀時代の本を取り出し、紋様について記載されていたページを開いて、目の前の紋様と似たようなものがないかと調べていく。
創世紀時代には、幾何学模様の紋様を用いていたらしく、今の時代は動物を模した紋章を用いている。
幾何学模様の紋様は、様々なパスコードの役目もしていたと言われており、今の時代では解読が叶わずに失われた遺物とされてしまったらしい。
「……あった」
「創世紀時代の遺跡ですか?なのです」
「うん。この紋様は、当時の王族の印みたいだ。という事は、ココは昔王族が住んでいたか、管理していた建物の跡だったみたい」
「この石、ツルツルしています。なのです」
イリスが触りながら言うように、確かに石の質感が今まで見てきた物と違う。
今まで目にしてきた建物は、白い石材でザラザラした感触だったが、コレは大理石みたいにツルツルした感触なのだ。
特別感がヒシヒシと伝わる建造物だったのではないかと推察されるが、どうして朽ちるまで放置されているのかも謎すぎる。
「イリスは地下があるって言っていたけど……」
「コッチ。なのです」
僕がキョロキョロと、地下の存在を探していると、側で一緒にしゃがんでいたイリスが立ち上がり、確認した場所へと歩いていく。
「ココの下に空洞があります。なのです」
イリスは、空洞があるという地面を、ブーツの先でコツコツと音をさせて僕に知らせてくれる。
地面に手を当て、目を閉じて空洞を探るように、探索をかけてゆっくりと調べていく。
確かに、イリスが言うように地面の下には空洞が幾重にも張り巡らされているようだ。
「……コレって、ダンジョンになっているのかな」
「ダンジョン?なのです」
「地下に何層も、空洞が拡がっている感じがするんだよね」
「魔物の気配は?なのです」
僕は、首を横に振って否定する。
「地下通路が拡がっている。の方が正しいかも」
「入口、分かりますか?なのです」
「ちょっと待って」
再び、地面に手を当ててスキャンを開始。
最下層に生体反応ではなく、人影らしきものを確認した後に、そこから逆算するように入口を探し出せた。
「あそこだね」
僕は、一際崩れが重なっている方へ指を向ける。
彼女は、僕が指し示した方へと駆けて行き、積み重なっている瓦礫をダガーで吹き飛ばしてしまう。
あ〜ぁ。
吹き飛ばされた瓦礫が、木々を倒して大変な事になってるし。
「ありました。なのです」
吹き飛ばしたそこには、確かに以前は入口だったであろう石の扉が存在していた。
「うわぁ、コレって絶対にヤバい気がするね」
石の扉は地面に埋まっている感じに設置されており、気配から幾重にもロックが掛けられていたようだった。
長い時間の経過でなのか、誰かが解除したのか分からないが、今は問題なく開きそう。
でも、大事な何かを閉じ込めていたのか、大事な何かを隠していたのは確かだろう。
先程にチラッと感じた人影らしきモノ。
アレが、そうなのかな?
「行ってみますか?なのです」
扉の前で思案中の僕に、イリスはコートの裾を掴みながら聞いてくる。
僕は持っていた本を、イリスの顔の前に出したまま口を開く。
「……本では、創世紀時代のこの国の王は、何かの研究していたって記述があるんだけどぉ」
「それが、ココにあるのですか?なのです」
「姉さんも、その事については記載していないんだよねぇ。だから、ヤバいものではないと思うっていうか思いたい」
「では、行くのですか?なのです」
明らかに、イリスは行きたくて仕方がない様子だ。
好奇心旺盛でワクワクが止まらない彼女にやめようなんて、僕としては言いたくない。
「行くのには同意するケド、入る際に約束して欲しいんだけど……」
「はい?なのです」
「地下は埋まってから随分年月が経っている。どういう構造か分からないケド、脆くなっている可能性もあるから、決して暴れない事を約束して?」
イリスは基本手加減をしないのは、今までの行いで分かると思う。
特に無機質な物に対しては、本当に容赦ない。
地下で倒壊なんて事になったら、僕達は生き埋め確実だ。
死にはしないが、抜け出す為に、この場所周辺がかなり被害を出てしまう可能性は大。
それは、僕的には本意ではないから慎重に事を進めたいのだ。
「分かりました。なのです」
冷静を装って返事をするが、目がキラキラで体中ワクワクなイリス。
きっと言葉の真意を理解していないし、言葉もきちんと届いているかも怪しい様子のイリスに、僕は静かに溜め息をつくしか出来なかった。
扉を開けると、下に続く階段がある。
空気が濁っている可能性があるのを考慮して、空気清浄を施しておく。
光の球体を、一定間隔に設置していく。
そんな感じで、一通り準備を済ませてから振り返り、ワクワクのイリスに向かって口を開く。
「じゃあ、行きますか」
「はい。なのです♪」




