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037話



 朝風呂を浴びて気分良くリビングにやってきた僕を、食卓の椅子に腰掛けながら、ジーッと視線を向けてくるゲイツさんは口を開く。


「……カナタ殿、少しよろしいかのぅ?」


「はい。なんですか?」


「ユルゲンに話して良かったのかのぅ?」


「まぁ、姉さんからの指示だから……」


 食卓のテーブルには、朝食用のお弁当が置いてあり、蓋を開けると半分には白米、半分にはおかずが入っている。


おぉ!

今日は、海老フライがメインで、他にはタコさんウインナーにだし巻き卵にミートボールまでも入っているじゃないか!


 栄養バランス云々を考えていない内容だが、僕的には大満足。


「しかしのぅ。結局ユルゲンの奴は、非協力的ではあったしのぅ」


「求めてないから、別に構わないです」


 僕は、グラスに注がれているライムエールを飲んで喉を潤す。


あ〜っ!

風呂後の炭酸はサイコーだねぇ♪


 そのまま、一気に飲み干すと、イリスが空になったグラスにおかわりのライムエールを注いでくれた。


「ありがとう」


 お礼を口にすると、イリスは椅子に座りながらニッコリと笑ってくれた。


「……カナタ殿、話聞いていますかのぅ」


「その前に、お腹が空いたので食べたいです」


「いただきます。なのです」


 イリスの声に、渋々祈りを捧げた後に食事を始めるゲイツさんを一瞥してから、僕も食べ始めた。


 今の僕達は、王都の一歩手前くらいの人気のない雑木林の中に、携帯住居を設置してのんびりしている最中。


 ネームの森での件で、ユルゲンには僕とイリスの事を話したが、メントの件は話していない。


 それは、知る必要のないことだから。


 メントは、今も変わらずユルゲンの補佐役としてマインの街の冒険者ギルドにいるが、ネームの森の事は全く無く、幼い頃の記憶は一部欠損という状態になっている。


 それらの事は、ユルゲンに丸投げだ。


 ゲイツさんは、僕とイリスが天界人と明かしても、態度を一切変えないユルゲンに対して、かなりご立腹の様子。


 そんなユルゲンはというと、のんびり歩いて行くからと断ったのに、「王都まで行ったら返せ」と言って僕達に御者さん付きの馬車を押し付けてきたのだ。


 お礼という名目上、受取拒否は不味いとゲイツさんに窘められて、渋々受け入れて仕方なく馬車に乗りこんだは良いが、余りにも整備が未発達の道を木製の車輪で走ると、ガタガタという名の振動が、僕の体を襲う。


 荷馬車?幌馬車?みたいなやつではなく、しっかりとしたドア付きの馬車なのだが、揺れが半端ない。


 よく昔の映画なので、馬車での会話シーンを見たことがあるが、実際はガタガタ音が大きすぎて、会話にならないし、おしりが痛いし良いことがない。


 以前読んだ小説の主人公が、馬車を改造してしまった話があったが、確かに改造したくなるくらい乗り心地が最悪であった。


 何と言っても、御者さんの存在が、携帯住居を使えず野宿になる事に我慢が出来なかった。


 僕以外は、快適そうに乗っていることには驚いたが、それでも僕の我が儘で馬車を返却。


 痛さを我慢しながら乗っていて気が付かなかったが、ソコソコ馬車は距離を稼いでくれたようで、王都にだいぶ近付いていた。


 馬車に乗ったことにより、思った以上に僕の中でストレスを抱えてしまったらしく、天界人でもダメージがあるのに驚きだが、体調を崩した僕を休ませるべく、近くの雑木林の中に携帯住居を設置して今に至るというわけ。


 僕の体調が落ち着くまでの数日は、自室の前でゲイツさんが、オロオロしていて少し面白かったケド、落ち着いたら「ユルゲンに文句を言いに行く」と言って家から出ていってしまい、完全に体調が戻った頃に帰ってきたゲイツさん曰く、ユルゲンは僕達のことを敬っていないと怒っていた。


 千里眼でチラッと見た時には、広場の真ん中でゲイツさんとユルゲン爺がバトっていて、そのすぐ近くでオロオロした様子のメントと警備兵達の姿があったりして、結果は引き分けだったけどかなり面白かったなぁ。


「ヤツめ、本当は信じていないのではないかのぅ……そうだ、そうに違いないのぅ。もう一度言いに行くべきかのぅ」


 ゲイツさんは、お酒を飲みながら独り言をこぼす。


 どうやら酔い始めているらしい。


「おそらく、もう二度と会わない人なので気にしない方が良いと思いますよ」


「……ん?二度と会わない?」


「マインの街を再訪する時は、この世界を全て見終わった後になりますから」


「その頃にはユルゲンいない。なのです」


 僕達の言葉を口を開けたまま聞いていたゲイツさんは、酔いのせいで理解が遅かった様子だが、少しして眉間に皺を寄せ下がり眉になり、口はへの字で見るからに悲しそうな表情でお酒の入ったグラスに口をつける。


 そう、僕達の旅は始まったばかりとは言っても、これから何十年とかかる旅路なのだ。


 65歳のユルゲンと再び会うのは、確率的にもうないかもしれないのだ。


「……そうだのぅ。何時くたばってもおかしくはないからのぅ」


「生命力だけは強そう。なのです」


「確かに、100歳は軽く生きそう」


 ゲイツさんは、僕達の言葉に微笑を見せたあと、豪快に笑った。

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