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036話



「……メントを…殺したのか?」


「どっちだと思う?」


 背後から聞こえてきた低い声に、振り返らず軽く答えると、突風が僕らを襲う。


 そして、疾い剣筋が僕の首を横一閃にはしり…。


「遅い。なのです」


「……ガハッ!」


 もちろん、僕には剣先が届くわけがなく、その前にイリスのダガーが、声の主の腹部を打ち付ける。


 ずっと前から、気付いていた。


 メントとのやり取り中に、索敵で感知していたが、動く様子は見られなかったので、僕やイリスは彼を放置していたのだ。


 浄化を行なう時には、指輪の影響か不可視の恩恵が解除されてしまう為、必然的に僕達の姿は、彼にはバッチリ見えていただろう。


 逆に、僕達の姿が目の前に突然現れて、驚いたかもしれないけどね。


「……クッ…門番の警備兵から…メントが馬で外に出たと聞いて追いかけて来てみれば……生意気な子供(ガキ)が一緒とはな。オマエが誘い出したのか?」


「フン。僕の言う事なんて、信じないくせに」


 追いかけて来るくらいだ、以前からメントを監視していたのだろう。


 冒険者達を殺した後だったことも、彼がまた愚かな事をしないように、止めに来たのかもしれない。


「……どうも、オマエは胡散臭い。あのお人好しのゲイツを仲間に引き入れて、何を企んでいる!」


「無駄。なのです」


 再び、持っていた大剣に力を込めて僕の首元めがけて突き出すが、ソレもイリスが彼の膝にダガーを打ち込んで阻止される。


「いい加減にしてよ、ユルゲン爺さん。言わなかったかな?アンタは僕に勝てないって」


「グゥッ……オマエが強気でいられるのは、この娘のおかげなのだろう?ハッ……笑わせるわ!」


はぁ。

僕は力を使うのは好きではないけど、この戦闘狂いの爺さんには、どうやらソレを示さないといけないらしい。


 姉さんの手紙にもあったし、仕方がないか……。


 痛めた腹部を抑えながら、片膝をつきニヤリと僕を挑発する彼を僕は見下ろしながら、パチンと指を鳴らす。


「厶?な……何を!?」


「いやぁ。余りにも、僕を見くびっている態度にカチンときたんで。だから、アンタにレベルを合わせて死合してみたくなったよ。大丈夫、後でまた治してあげるし」


 痛みが消えた腹部を手で確認しながら、訳がわからない表情でこちらを見るが、僕の言葉に合点がいったように、大きく頷いた。


「腹部や膝の怪我を、負けた時の言い訳にされてもイヤだしね。望み通りヤッてあげるよ」


「……本当に、生意気な子供(ガキ)だな」


「範囲も決めないとね。障壁(バリエール)


 四方に白い光の壁を出現させる。


 広さは、前世の僕が通っていた学校の体育館位で、35mX23mに設定してみた。


うん。

中々の広さだから、コレで十分だろ。


 イリスは邪魔にならないように、まだ意識が回復していないメントの側で待機。


「あの壁が、僕達が自由に動ける範囲で、森をいくら壊しても後で修復されるし、大きな爆発音も消音効果で大丈夫。だからアンタは思う存分暴れられるよ」


「ほう、それは暴れ甲斐がありそうだ!」


 本当に、楽しそうに無邪気な笑顔を見せられて、僕はもう諦めることにした。


 僕の腰のホルダーに、繋がっている刀を指差しながら、ユルゲンは口を開く。


「会った時から気になっていたんだが、その剣は抜くんだろうな?」


「……コレは、剣じゃなくて刀。別に使う必要なんて無いんだけど」


「ほう、カタナというのか?だったらソレを抜いて、俺と闘え!」


 この刀を提げているのは、僕がこの世界を旅する上で、武器の所持をしないのは危険だからと、姉さんに言われたからで。


 僕にとっては、剣の心得がありますよ。のポーズ。


実際は、経験は無いんだけど……。


 でも、この天界人の僕の身体は、チート仕様。

 きっと、対応できてしまうのだろう。


「老人虐待の悪趣味なんて、僕は持ち合わせていないし、平和主義者なんだけど……」


「フン!俺が老人だと、コレでも言えるかぁ!」


 フライング気味に、大剣を振りかぶりながら、距離を縮めてきたユルゲンの行動の速さに、僕はため息混じりに、刀を刃のついていない方へと持ち直してから、ゆっくりと攻撃を受け流す。


「なぁあにぃぃ!?」


 彼にとっては重い斬撃を僕へと放ったつもりだったが、その攻撃をいとも簡単に、片手で受け流された事実に驚きを隠せない様子のまま、素早く距離を置いた。


 彼のレベルに合わせると宣言した通り、上手く力の制御が出来ていることに、一先ず安心した僕は、今度は反撃体勢をとる。


 一気に距離を縮め、ユルゲンの鎧の胴部分を、思いっ切り横一閃で打ち付けた。


「ぐわあああぁぁぁぁぁぁ!」


 初手の動揺が残っていたのか、それとも見えなかったのか、ユルゲンは防御することなく攻撃をマトモに受けて、背中で何本もの木を倒しながら、後方へと吹っ飛ばされる。


 そして、彼は白目を剥いたまま気絶していた。


「呆気なかった。なのです」


「う~ん。まだ、微調整が必要か。予定では後2回打ち合うつもりだったんだけど……」


 仕方なく僕とイリスは、気絶しているユルゲンを治してあげるのだった。


「……本当に不思議な術を使う、お前は……本当に何者だ?」


 粉砕してしまった鎧を修復し終えた僕に、それまで黙って様子を見ていたユルゲンの言葉に、姉からの助言通りに素直に話すことにする。


「私の名は、イリス・グラント。天界人の天使族、そしてカナタ様を護衛する守護天使。なのです」


「僕の名前は、カナタ・スフレール。天界人の神族で、女神アナベル・スフレールの弟です。そして、僕達がココ下界に降りてきた目的は……」


「天?守護?女神?弟?えぇい!……も、目的は?」


「観光です!」


 色々あってお忘れカモですが、あくまで僕達は観光しに来たんです!

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