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034話



「そうか……メント以外逝ってしまったか。しかしゲイツよ、メントを助けてくれたこと感謝する」


「私からも、助けて頂き有難うございました」


 マインの街に戻ってきた事情をゲイツさんが話し終えると、深々と頭を下げるメントさんとは対照的に、固いソファーに座ったまま、口だけのお礼を述べるユルゲン。


 眉間にしわを寄せながら、感謝なんて言われても、当然ゲイツさんには、素直に受け入れられるハズもない様子。


「……偶然だったのでのぅ」


 ゲイツさんは顎髭に手を当てつつ、少しだけ鋭さを込めた眼差しを向けているが、ユルゲンはそれに気付く素振りを見せずに涼しげな顔をしている。


 社会から外れ、自由気ままに旅をしてきた感じのゲイツさんと、冒険者ギルドの長にまで登り詰め社会の荒波に揉まれてきたユルゲンとでは、明らかに人生経験の濃さみたいなものが違いすぎる。


 素直なゲイツさんよりも、冒険者と領主のパイプ役を務めているユルゲンの方が、心理戦は日常茶飯事だろう。


 初対面でも感じたが、本当に食えない嫌な奴。


「それにしても、ゲイツがメントと一緒に現れた時には驚いたぞ。しかも、メントを助けてくれたと言うし、さすがは我が友だな!」


 僕には見せなかった豪快な笑い声を、部屋中に響き渡らせながら、ユルゲンは上機嫌でカップに口をつける。


「……ユルゲン、お前に聞きたい事があるのじゃがのぅ」


「ん?聞きたい事?……何だ。そういえば、あの生意気な子供(ガキ)はどうした?一緒ではないのか?」


「もちろん、一緒だ。お前の顔は見たくないと言って、別の所で待っておるのぅ」


「ふん、本当に生意気な子供(ガキ)だな」


 そう、このユルゲンの部屋に僕とイリスはいない。


 僕達は冒険者ギルドの近くのカフェで、のんびりティータイム中。


 その場にいない僕が、どうしてゲイツさん達のやり取りが分かるのか?


 答えは簡単、僕が千里眼を使っているから。


本当に便利な恩恵だねぇ。

千里眼。


 その場に居なくても、まるで一緒に居るかの様に、言葉のやり取りも分かってしまうのだ。


 何度か使用して、距離のとり方もスムーズに出来るようになり、盗聴防止などの対策を施しているユルゲンの部屋にだって、この恩恵は感知される心配は全くないしね。


「僕の事、生意気な子供(ガキ)だってさ」


「カナタ様への不敬は、死に値します。なのです」


 手にしていたカップを、笑顔で握り割るイリスの姿を見て、若干頬が引き攣ってしまう僕。


イリスさん、マジぱねぇッス!

天使族なのに、口から出てる言葉が魔族ですから!


「……にしても、ゲイツさん。ネームの森の出来事は、ユルゲンが仕掛けたって、疑っているみたいだけど、その証明出来ると思う?」


 割って散らばったカップの残骸の回収をしているイリスに、僕は鞄からライムエールを取り出しながら質問を投げかけてみる。


「それは、無理。なのです。例え、ネームの森に到着してから、術を発動するように設定していたとしても、全ては死人に口なし。証明する事など出来ません。なのです」


「……だよねぇ」


 喉に心地よい炭酸が通っていくのを感じながら、再び僕はユルゲンの部屋を覗いてみると、何やら重い空気に変わっていた。


 なんか、一触即発な感じ。


「ほう……俺が邪魔な奴らを消す為にヤッたと。お前はそう言うのか?」


「ユルゲン。お主、儂にも討伐依頼の要請をしてきおったのぅ?儂も消す算段だったかのぅ?」


「ハッ!何のことかサッパリだな」


 馬鹿馬鹿しいとばかりに、ユルゲンは鼻で笑うが、ゲイツさんはいたって真面目とばかりに、表情は崩さないままユルゲンを見つめている。


「ゲイツさん!ギルド長が、どうやってあんな事が出来たと仰るのですか!証拠があっての言葉でしょうね?でなければ、名誉毀損で処罰されても文句は言えないのですよ!」


「……ムム。しかしのぅ、あらゆる事柄がユルゲンを指しておるのは事実だしのぅ」


 被害者であるメントさんから非難されるとは思ってもいなかったのか、彼の強気な口調に押され始めるゲイツさん。


ありゃ。

やっぱり引っかかっちゃったよ。


「やめろ、メント。コイツは、昔から自分が賢い事を良いことに、時々こうやって思い込みで突っ走るんだ。大目に見てやってくれ」


「……ギルド長がそう仰るのでしたら、私に否はありません。ゲイツさん、寛大なギルド長に感謝して下さいね」


「ムム。そ……そうだのぅ…」


 納得は出来ないものの、証拠が無いのだから結局は相手に言い包められてしまう残念なゲイツさんが見られたものの、それからは、お互いにお茶を飲みながら他愛も無い昔話に花を咲かせ始めた。


そうか。

思い込みが激しい性格は、幼い頃からだったのかぁ。


 僕達が一緒に旅をすることになったのも、そんなゲイツさんの思い込みがキッカケだったしね。


「やっぱり、ゲイツさんには無理だったよ」


「結果は分かっていたこと。なのです」


 彼らの昔話には全く興味がないので、席を立ったメントさんを見送ってから、僕は千里眼を解き再びイリスに視線を移す。


 ちなみに千里眼には、使用している間は全ての感覚を遠くに飛ばしてしまう為に無防備状態になってしまうという欠点がある。


 だから、その間は誰かに守ってもらわないといけないのだが、僕には守護天使のイリスのお陰で、安心して使える。


「それじゃぁ、ココからは僕達のターンって事で」


「解決編。なのです」

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