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031話



「追い付いた時には、既に事が済んだ後でしてのぅ。金品を物色している野盗達を討つことしか出来ませんでしたのぅ」


 しかし、それでもゲイツさんは野盗達を討伐した後に、亡くなった人達を弔い、その人達の遺品をマインの街に戻って警備兵に事情を話して渡してから、再び僕達を追って来たのだ。


 僕達と別れた林の中に入り、踏み跡を辿ってココに辿り着いたらしい。


「それにしても、早かったですね」


「ハハハッ、大した距離でもなかったしのぅ。瞬動(・・)を使えば、このくらい大した時間もかからないからのぅ」


 風の魔術の1つで、風を足下に纏うと走る速度が増すというもので、病気になってこの国に帰る事に決めた時も、ひたすら瞬動を駆使して、実際は数年もかかるところを、9ヶ月で戻って来られたらしい。


 だけど、それで寿命を縮める事になったとゲイツさんは頭を掻きながら笑った。


「それで、どうするの?」


 椅子に座り夕食弁当を食べながら、地面に置かれたままの布袋に視線を向ける。


 ちなみに、僕達と鉢合わせした野盗さんは、イリスに気絶させられて木に縛り付けておいたが、ゲイツさんがやって来てアッサリ処罰されて、あっという間に消し炭に。


 残ったのは、この布袋だけ。


「中身の吟味する。なのです」


「吟味?」


「取り敢えず、中身を確認して見るかのぅ」


 布袋から、出てきた物。


 それは野盗が、襲った商隊の荷。


 黄金色の燭台、金貨や銀貨などのお金が数十枚、彫刻や宝石類のアクセサリーや、それらを収納するギラギラに飾られた宝石箱や魔石などが多数入っていた。


「細かい物が多いね?」


「1人で持って逃げるには、コレが精一杯だったということじゃのぅ」


「キラキラばかり。なのです」


「これらが換金率が良いのではないかのぅ」


 こんなの、僕達には本当は必要のない品物。


 だからといって、コレをこのまま放置するわけにもいかないわけで。


 この世界では、野盗を討伐したら、その時に手に入れた戦利品は、討伐した者に権利がある。


 なので、この布袋の所有者は僕達になる。


「で、戦利品(コレ)どうするの?」


「誰かに渡せば良いと思います。なのです」


「そうじゃのぅ、必要な人に渡せば良いかのぅ」


 結局、困っている人に渡すまでゲイツさんが預かるという事になった。


「だけど、盗賊が頻繁に現れるこの国って、大丈夫なのかな?ただでさえ魔物の存在もあって、大変そうなのに」


「治安の乱れは、国家の乱れ。というが、ちと乱れすぎじゃのぅ」


 内ばかりに一生懸命過ぎると、外が疎かになるものだけど……ひょっとして、グレナ王国って今大変だったりするのかなぁ。


「ゲイツさんは、国王に会ったことないの?」


「儂が拝謁したのは、前国王陛下でのぅ。現国王には無いのぅ」


 なんでも、数ヶ月前に前国王のデュエルさんが病気で死去した後に、長男のグエンさんっていう人が即位したのだと、宿屋で情報収集した時に、その話を聞いたという。


「そっかぁ。じゃあ国王になったばかりで、バタバタしていてる感じなのかもね」


「……そうかも、しれんのぅ」


 そろそろ家に入って休もうとした、そんな時、不意に草木の擦れる音を微かに耳にする。


「また、来訪者。なのです」


「……人、だね」


「む?」


「川の向こうから……怪我しているみたいだよ」


「では、行ってくるかのぅ」


 僕達がいる反対側の雑木林から、草木をかき分けながら、こちらへ向かって来る者がいると、ゲイツさんに教えてあげると、彼は軽快な動きで走り出していた。


「行っちゃいました。なのです」


「仕方がない。待ちますか」


 お茶を飲みながら待つこと、数分。


 人を背負ったゲイツさんが、川岸に姿を現した。


「カナタ殿、お願いできるかのぅ」


 怪我を負っている男の人を、僕の側で横たわらせながら、ゲイツさんは尋ねてくる。


 ボロボロの鎧姿のその人は、細かい傷を全身につけ、1番深そうな傷は背中に負っている。


 金属製の鎧を切り裂く程の、剣線の跡をみた僕は少し不思議に思う。


「……この近辺に大型の魔物っているの?」


「いや、この辺りには中型クラスしかいないはずじゃのぅ」


 ゲイツさんに出会って安心して気絶してしまったらしい彼が負っている傷は、やっぱり不自然で……。


「裏切られたカモ。なのです」


 ゲイツさんは、イリスの言葉にハッとした表情を見せる。


 確かに、その可能性もなくはないが。


 彼の細かい傷には、微かに魔術の匂いが感じられる。


……だけど、この感じ。


「魔術を使う魔物は存在するが、ココよりも遠く離れた土地に生息しておる。生態系が変化しておるのかのぅ」


「生態系の変化はしていないって、姉さんが言っていたから、その可能性は低いと思います」


 取り敢えず治療する事にして、事情は彼が目覚めた後に聞くことにしようということになった。


 少し悩んだが、ゲイツさんの頼みは断われない。


治癒せよ(キュラティフ)


 手をかざして唱えると、淡い緑色の光が彼を包み込み、傷が塞がりキレイさっぱり痕も残らず消え、ボロボロの鎧や服も見るに耐えなかったので、仕方なくついでにキレイにする事にした。


直せ(レナチュール)


 それから、ゲイツさんが以前愛用していたテントに鎧男を寝かせた僕達は、家へと戻って体を休めることにする。


……はぁ。

いい加減のんびり旅をさせて欲しい。

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