002話
なんだろう。異世界に転生って話を却下したら、あっという間に、女神様の弟になることが決定してしまった。
「フフッ。では、奏多さんはこれからカナタ・スフレールですね♪」
キャーと言いながら、両頬に手をあて両足をバタバタさせて、喜びを表現している女神様。
「では、早速カナタの器を造りますが、要望とかあったりします?」
…………………。
「カナタ?」
女神様の勢いに押され思考を停止していた僕は、ハッと我に返る。
器って何ですか?
「はい。カナタの身体ですね、要望あったりします?」
身体かぁ。
女神様の弟になるなら、顔は女神様寄りで良いのではないかと。体型等は、お任せします。
「私寄り?そうですね♪フフッ。お・と・う・とですもんね♪」
それでは。と女神様は、僕に向かって両手をかざしながら、ブツブツ言い始める。
すると、目映い光に僕は包まれ始めたと感じた時、『承認致しました。実行致します』と機械的な声が聴こえた瞬間、目の前がホワイトアウトした。
「…カ………タ!」
誰かの声が、僕の耳に届く。
何か必死な声だなぁ。と他人事のように思う。
「目を開けて下さい!カナタ!」
目を開ける?あぁ、僕は目を閉じていたのか。
「あ、良かった!成功しましたね♪」
ゆっくり目を開けると、笑顔の女神様と視線が重なった。
その時、女神様の瞳の中に見知らぬ顔が映っていることに僕は気付いた。
「……誰?」
「――えっ!?私は……」
「――ううん。違う」
僕は女神様の瞳を指さした瞬間、違和感の正体に気付く。
さっき、女神様は何て言った?
目を開けてと…言わなかったか?
そして、女神様と僕の間には人差し指を伸ばしている手。
そして、理解がやっと追い付いた。
「……大丈夫みたいですね」
「うん」
どうやら、僕の身体は仰向けのまま床の上に寝ている状態だったらしい。
両腕で身体を支えながら、全体を確認する。
前の身体との違いは、腹筋が若干割れていることくらいか。
……ん?腹筋?
「って!なんで僕、全裸なんだぁ!?」
僕は大事な所を両手で隠し、慌てて立ち上がりながら女神様を見ると、やっぱり笑顔だった。
「あらあら。私ったら、失敗♪」
「もう、失敗って。……ハァ」
「ムムム。このままだと、姉としての威厳が。……ほ、ほら。カナタの意見を聞いた方が良いかなと」
明らかに、今考えたな。
目、泳いでるし。
「取り敢えず、何でも良いので服を着させて下さい!」
「そう?じゃあ、こんな感じかしら」
パチンと女神様が指を鳴らすと、再び僕を光が包む。
「うん♪似合っているわ、カナタ」
何処からか現れた鏡に僕を写して、後ろから肩に手を置きながら笑顔の女神様。
僕はというと、銀髪の無造作ショートに女神様に似た顔、白いシャツにグレーのベスト、下はベージュの七分丈パンツ、黒のエンジニアブーツ姿に少し戸惑いを覚える。
「これが、僕?」
「そうですよ。カナタ、可愛いです♪」
完全に別人の姿に、『あぁ、本当に自分は死んだんだ』とこの時になって、ようやく現実を受け入れられた瞬間だった。
「で?」
「ん?」
「僕は、これで女神様の弟になったのですよね?」
「そうですよ♪嬉しいわ、フフッ」
本当に嬉しいのだろう。口元を両手で隠しながら、ピョンピョン跳ねている女神様を見て、流されるまま弟になった僕だったけど、まぁいいか。と思った。
「そういえば、女神様の弟って……」
「アナベル姉様」
「はい?」
「女神様ではなく、アナベル姉様。もしくは、アナベル姉さん。あ、アナベルねぇでも良いですよ♪」
確かに、姉弟になったのだから呼び方もそれらしくした方が良いのかも知れないけど。
……正直、困った。
前世の僕には姉はおらず、一人っ子だったのだ。親戚に年上の女性はいるにはいたが、名前にさん付けで呼んでいた。
「……僕、前世は一人っ子でしたので」
「だから?」
控えめに答える僕に対し、笑顔のままの女神様。
その笑顔が怖く感じるのは、僕の気のせいだろうか。
「……あ…〜〜っ!……姉さん」
「はい♪カナタ。何ですか♪」
「ハァ。僕が弟になって、これからどうすれば良いのかな?」
羞恥心に耐えた僕は、弟なのだからと半ば開き直り、タメ口で質問する。
「はい♪これといってありません♪」
「はい?」
………………え?
「いやいや!だったら何故、僕を弟に!?」
「それは、魂の輝きが好みだったから♪」
なんだろう?第一印象と目の前の人は同じに見えない。
あれか、先程の彼女は仕事モードで、これが彼女の素なのか。と勝手に納得してみる。
「でも、確かにただ天界にいるのはつまらないわねぇ」
「天界?ココはそういう場所なんだ」
ただの白い空間が天界と言われても、いまいちピンとこないけども。
「そうですね。もうカナタは私の弟になったのだから、移動しましょうか」
彼女はそう言いながら、僕の手を取り先程までテーブルなどがあった方へと歩き出す。
そして、おもむろに彼女が歩きを止めた瞬間、足下が発光したかと思うと、僕達は何処かの庭園に立っていた。
一瞬何が起きたか分からない僕だったが、彼女は特に気にする様子もなく歩き始めるので、コチラも黙って付いていく事にする。
色とりどりの花壇を横目に、しばらく歩くとチラホラと人影が見えるようになった。
そのまま僕は手を引かれながら、なんとか神殿的な建物の中へと入った。
「ココなら、ゆっくり話ができるわね♪」
建物内に入って体感時間約10分後、手を引かれるままに歩いていたから、道順など全く覚える事もなく、僕はその中の一室のソファーに座り、姉さんが出してくれたお茶を飲んでいた。
「ねぇ、カナタ。」
「何?」
エメラルドグリーン色の瞳の奥が、妖しく光ったのを僕は見逃さなかった。
「貴方、世界旅行に出掛けてみない?」