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026話



「……では、説明してもらおうか?」


 ギルド長の自室の、固い革製のソファーに座らされた僕に対し、鋭い目を向けてくる偉そうな態度の頬に傷を持つ男性。


 事実、偉いのだろう。

 ここ、マインの街の冒険者ギルドの長なのだから。


 ゲイツさんの友達と聞いていたから、てっきり僕は友達も魔術師だと思っていたけれど、目の前の男は筋肉質の体つき、壁に飾ってある大剣のコレクションを見る限り、戦士タイプのようだ。


 でも、僕は相手の態度が気に入らないので、口を閉ざしたまま。


 相手がどんなに偉くても強くても、人を見下したような態度をする人間は、年上だろうが聞く耳は持ちたくない。


 例え、相手を知るために装っていたとしても、人を試す態度が尚更気に食わない。


「ユルゲン、カナタ殿達は巻き込まれた側だしのぅ。その態度はどうかと思うがのぅ」


 相手の態度が、気に入らなかったようで、嗜めるように言うゲイツさんにも反応せず、彼は僕から目を離さずに更には威圧感も出してくる。


 一般な人ならきっとビビるくらい、ひょっとしたら腰を抜かしてしまうかもしれないレベルの脅し。


 その威圧感にビビる者達は僕を含めて、ココにはいないのだか、短絡的なその態度に、癇に障った僕は口撃にでる。


 結局、相手の思惑に乗ったようで不本意だが。


「1つ言っておきます」


「――なんだ」


 僕が根負けしたと思ったのか、勝ち誇った様に彼の右の口角が上がった。


「僕の心を読もうとしても、無駄だよ」


 溜め息混じりに言う僕の言葉に、彼の瞳孔が開く。


 彼の方が、本当に分かりやすい。


「見ての通り若輩者なので、目上の人に対しての言葉使いでないことを先に謝っておきます。で、もう一度言うけど、僕の心を読もうとしても無駄。獣人族の能力を手に入れた経緯に興味はないし、知りたくもないけど、使う相手は選んだ方が良いよ。後その無駄な威圧もね」


「……ほう」


 内心は物凄く驚いているのに、それを抑えられているのは、流石は年の功か。


 でも、僕にはバレバレだ。


 広い額にうっすらと汗をかいているし。


 相手を制する前に、己を先ず制したほうが良いと言ってやりたいが、教えてやんない。


「――オレにそんな口をきくか、小僧」


 それでも、一生懸命に威厳ある態度を保とうとしている彼に同情をするつもりはない。


「そんな口って?ギルド長のオレにって事?それこそ、僕にはだから何?って感じ」


嫌だなぁ。


 自分の態度に自己嫌悪を抱いてしまう。


 この世界で僕やイリスに勝てる者は存在しないけど、だからといって自惚れたくはないとは思っているんだ。


 力の誇示なんて、傲慢でしかない。


 なるべくこの世界の人達と同じ目線でいたいから。


 でも、そう思っていても例外は出てきてしまう。


 それは、僕がまだ子供で経験不足で、上手く相手をあしらう術を持っていないから、結局は力には力になってしまう。


「小僧も冒険者だろう?そんなヤツが、ギルド長にその態度でただで済むと思うのか?」


 こんなに、親切に忠告していても正す気はないらしい。


 くだらないプライドなんて捨てればいいのに。


「それこそ、アンタの勘違いだね。僕が冒険者のカードを持っているのは、手続きをスムーズに済ませたいから、税金払っても良いんだけと、手続き面倒だから。それだけの理由だ。だから、今アンタに取り上げられても痛くも痒くもないよ」


 僕の言葉に、彼の眉間に皺がよる。


 今まで僕のような若者に出会った事がなかったのだろう、今はあからさまに不機嫌そうな表情を見せている。


「それと、アンタは小僧(・・)の僕には勝てないしね」


 やれやれとばかりに、固いソファーから立ち上がり、僕は彼をコレが最後とばかりに見下ろす。


 ほんの少し、威圧を彼に向けて。


「……言い切るか、小僧」


 僕の挑発的な態度にニヤリと笑うが、それでも右の頬に引き攣りが見られる。


 威圧が効いたのか、明らかに心に余裕がなくなってきている証拠。


「闘っても良いけど、ギルド長が小僧(・・)に負けたなんて、他の冒険者に示しがつかないだろ?それでも関係ないって言えるなら、僕はそれでも構わないよ……闘う(やる)?」


 殺意を込めた僕の視線に、最悪の状況を想像したのだろう、先ほどまで力を込めていた拳を彼はゆっくり緩める。


 元々好戦的な性格なのだろう、そうじゃなきゃ冒険者稼業で登り詰めたりしない。


 ま、人望で今の地位についたのかも知れないけど、子供を試す大人なんてロクな人望じゃないね。


「ゲイツさん、本当はこの街にもう少し滞在したかったのですが、僕とイリスはこの街を出ます。ゲイツさんがもう少しユルゲン(コイツ)と話したいのであれば、後から追ってきてください」


 僕はこれ以上話すことはないとばかりに、彼等に背を向け部屋のドアノブに手をかける。


「いや、儂も一緒に行くとするかのぅ。残念じゃよ、ユルゲン。暫く会わないうちに、くだらない男になったのぅ」


 酷く悲しげな声音で友達に声をかけた後ゲイツさんは、僕達と一緒に部屋を出た。


 階段から下りて来た僕達を、職員や冒険者の連中は僕達と目を合わせないように視線を反らすが、僕は気にせずにギルドから外に出た。


「カナタ殿、イリス殿、すまんかったのぅ」


「ゲイツさんが謝る必要なんてないですよ」


「謝るのは、馬鹿なユルゲン。なのです」


 こんな僕達に謝るゲイツさんは本当に尊敬すべき大人だと僕は思う。


 あのギルド長は、ただ僕の人となりが知りたかっただけだろう。


 だけど、彼が選んだその手段が僕には気に入らなかった。


 大人同士では日常的に行われている駆け引きを、子供の僕に用いたのだ。長いこと大人をやり過ぎて、麻痺してしまったのだろう。


「カナタ様、ユルゲンと闘えば良かったのに。なのです」


「ハハハッ、そうじゃのぅ。そうすれば、ヤツの頭も少しは冷えただろうがのぅ」


「やめてください。本当に負かしたら、僕達の旅に支障が出ちゃいますよ」


 僕の情けない声に、2人は可笑しそうに笑う。


「あ〜、それにしてもお腹すいたぁ」


「お弁当の用意しますか?なのです」


「う〜ん。この街でキチンとした食堂で食べたことがないから、出る前に食べようかな?」


 ギルドで起こった事など、すぐに記憶の彼方へと飛ばした僕達は、美味しそうな食べ物を出しているお店を探すのだった。

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