025話
どうして、こうなったのだろう?
そして、どうしてこの世界の人達はこんなに喧嘩が好きなのかなぁ?
なんとかと喧嘩は江戸の華。なんて祖父が言っていたけど、ココは江戸ではありません。
ココは、間違いなくファンタジー世界です!
現実逃避中の僕の前には、イリスと大男が向かい合っている。
イリスの身長は150cmで、一方の大男は2m強といったところか。
「ガハハハッ。お前みたいなガキが、俺とヤリあえるのかぁ!大怪我するだけだぞぉ」
「大怪我は、ソッチ。なのです」
きっかけは、イリスのような小柄な少女が、ランクDなんて、オカシイだの間違っているだのと難癖を言い始めて、だったらオレと勝負しろとイリスに売り、それを彼女が買ったのだ。
まぁ。
イリスは強いから安心だけど。
……カードが偽造っていうのは本当だからなぁ。
ちなみに、受付のお姉さんその2が本物と確認がとれたりしている。
「弟分が、正体不明のヤツにボコられたって聞いてよぉ、俺は今無性に機嫌が悪ぃんだ。手加減できねえから、そのつもりでなぁ!」
ん?
なんだろう?
少し引っかかるけど。
うん、気のせいだよね。
「いいから、かかってくる。なのです」
大声で、喚く大男とは違いイリスは平常運転。
2人の体格さとテンションの違いが、全く正反対過ぎて変な感じの空気を作っている。
気付けば、昨日の様に野次馬が集まりだしていた。
「なんだぁ!?何だって、あんなに小さい女の子と戦う事になってんだぁ!グフのヤツ」
「何でも、あの子供がランクDらしくて、アイツが間違いを正してやるとかなんとか」
「ウッソ!?あんなに小さい女の子が、ランクDぃ!信じられないわ」
う〜ん。
ランクなんてただの目安じゃないのかな?
昨日も思ったけど、EとDの間は何がそんなに違うのだろうっていうか、ココにいる連中は完全に見た目で判断している事に、段々腹が立ってきた。
あれだ。
固定概念っていうやつだ。
恐らく、この街の冒険者達は少なくとも、小柄な高ランク者を見たことがないんだ。
この街の掲示板を見る限り生活するのに、それなりの腕があれば、苦労はしなさそうだし。
だったら他の街へ転々とするより、この街に腰を落ち着かせた方が良いと考えるだろう。
事実、そういう連中が僕が目にしているやつらだろう。
井の中の蛙大河を知らずってやつだ。
「負けた後に、知らなかったなんて言い訳されても困るからよぅ、先に言っておくぞ?オレのランクはCだぜ!」
「それが何だと言うのですか?負けた後に、何かの間違いなんて言わせない。なのです」
もう、早くしなよ。って言いたくなる。
どうせ、イリスが一瞬で決めてしまうのだからと。
なので、きっかけを作ってあげることにする。
「……ハ、ハックション!」
「っ!?行くぞ、オラァァァ!」
僕の合図で先に動いたのは、やはりというか大男の方だった。
極太な腕をイリスめがけて振り降ろす、速度もソコソコにあるが、イリスにとっては超スローモーションに見えていることだろう。
「なっ!?」
大男のパンチは、地面を抉るほどの破壊力だったが、そこにイリスの姿はない。
流石はランクCと言えば良いのか、後ろからの気配を感じた大男はまた振りかぶりながら、後ろを振り向いた。
しかし、振り返った大男の目の前には、ちょうど蹴る態勢のイリスが既にいた。
「セイッ。なのです」
対して声に抑揚のない感じの掛け声を発したイリスが、大男の鼻に蹴りを軽く当てた瞬間。
「ガアアアァァァァァァ!?」
巨体が蹴られた横向きのまま、勢いよくゴロゴロと転がって壁に激突した。
………………。
何が起きたのかが分からない、もしくは現実を直視できないのか、野次馬連中は転がっていった大男を見たまま、口をあんぐり開けて茫然とした表情。
「――上出来かな」
大男の事など気にすることなく、僕の側に戻って来たイリスの頭を撫でる。
「はい♪なのです」
僕に撫でられすごく嬉しそうだ。
「お、おい!アイツ!?昨日、巨熊の穴蔵の連中をまとめて倒したヤツだ!」
野次馬連中の1人が、僕を指差した。
その声で一斉にこちらを向く。
ヤバイ。
笑いを堪えるのが大変だ。
巨熊の穴蔵って。
あなぐらって。
なにソレ、センスなさすぎでしょ。
「嘘でしょ!?あんなに華奢な体で、しかも可愛い顔なのに?」
「マジだって!昨日見たんだからよぉ!」
そうかぁ。
僕の顔は可愛い部類に入るのかぁ。
ま、姉さん寄りにしているからその影響だと思うけど、言われて初めて知ったよ。
「――お、お前がぁぁ!アイツ等を……っ!」
弱くても伊達にランクCを名乗ってはいないなというべきか、体が無駄に丈夫だなと褒めるべきか。
鼻はイリスによって完全に粉砕されているハズなので、鼻からの出血は止まることなく、それでもゆっくりと体を起こそうとするが、うまく立ち上がれない様子だ。
「人違いだ」
僕はしれっと嘘をつく。
「何をしているんだぁ!お前らぁ!」
突然、背後から威圧感のこもった大声が広場中に響き渡った。
振り返ると、これまた精悍な顔つきの男性とゲイツさんが立っていた。
「ユ、ユルゲンギルド長がキター!」
ギルド長と僕の目が合う。
あぁ。
コレ絶対巻き込まれるパターンのやつだ。
僕は再び溜め息をつくしかなかった。




