022話
貴族屋敷方面へ歩きながら、両側に連なるお店をイリスと一緒にウインドウショッピング。
2人で看板を見ながら、入り口から中を覗いて何の店なのか確認していく。
入りやすそうな雰囲気の店もあれば、入るには敷居が高そうな雰囲気の店も。
「あそこの店は、嫌な感じがする。なのです」
「あの店員、感じが悪そうだねぇ」
僕達が好き勝手に批評しながら坂道を歩いていく後ろを、ゲイツさんが笑顔でゆっくり歩いている。
そんな感じで坂道を上りきった先に、宿屋のマークの看板を見つけた。
「ゲイツさん、あそこがそうなのかな?」
振り返って、後ろから来るゲイツさんに問いかけると、彼は大きく頷きを返す。
「あれが、白銀通りの星屑亭じゃのぅ」
「この通りが白銀通りだから?」
「道の名前をつけると、見つけやすいという工夫じゃのぅ」
確かに、迷子防止には良いことかも。
「それにしても、いつ宿屋をとったの?」
「謝礼金を貰いに行った時に、宿の事を尋ねたらココを紹介してもらっての、そしたら、次いでに予約しておく、と申し出てくれた警備兵の青年がおってのぅ。それではと親切心に甘えたのじゃ」
「へぇ、そんな事が」
それは、きっとゲイツさんの人柄によるものだと推察してみる。
良い人には、良い縁があるもの。
「1番の高級店って言ってたけど、確かにそんな雰囲気っぽいケド」
2階建てって所は他と変わらないけど、幅も奥行きも他とは違い明らかに広いことが分かる。
「何でも、ここは他の貴族がこの街に立ち寄った時に泊まる所らしくてのぅ。安心安全でゆっくり休めるらしい」
なるほど、じゃあ部屋や食事の不安はなさそうだ。
そう思いながら、宿屋の扉を開けて中に入るとすぐに大階段が現れた。
……ちょっと、悪趣味な装飾で赤絨毯で階段を覆っているって所に少し引いてしまう。
カウンターは、右にあり手続きの為に近付いていくと、店員がゲイツさんに気付いて頭を下げる。
「いらっしゃいませ」
「予約していたゲイツ・シューマンじゃ」
手続きは、ゲイツさんに任せて周りを見渡すと、左側から良い匂いがしてくる。
あっちは食堂かなって、やっぱりこういう場所の食事はアレだよね。
……かたっくるしいのは、正直苦手だなぁ。
でも、屋台で食べた感じだと、口に合わなくはなかったし。
あの、ケバブっぽい食べ物は美味しかったなぁ。
何の肉かは(怖くて)敢えて聞かなかった。
「――カナタ殿」
「部屋とれました。なのです」
部屋は2階にあるらしいとのことなので、僕達は大階段を上がり、伝えられた部屋へと向かった。
「へぇ、部屋はこんな感じなんだね」
今は、利用客が少ない時期らしくて、良い部屋が取れたとゲイツさんが教えてくれた。
「これで1人分?広くない?」
「ココで3人一緒に泊まリます。なのです」
そっかぁ。
3人一緒かぁ。
確かに、それだったらこの広さも納得だね。
でも、赤のカーテンに金色の装飾って。
ココの宿屋、僕からすれば趣味が悪い気がするけど、でもこういうのが一般的な貴族が好む内装なんだろうか?
よく見ると、ベットがある場所には仕切りがある。
ってか。
ベット広っ!
「食事はどうしますか?なのです」
「僕は、勿論弁当で」
やっぱり、食事は姉さんの弁当が1番だし。
「そうじゃのぅ。ベントウはとても魅力的だが、儂は情報収集も兼ねて食堂に行こうかのぅ」
「情報収集?」
「ここ何年もの間、グレナ王国を離れておったからのぅ。今の国情を知ろうと思ってのぅ」
「情報はとても大事。なのです」
「というわけで、食堂に行ってくるかのぅ」
部屋を出ていく際に、久し振りのグレナワインが飲めると楽しげに出て行った。
僕達は、そんなゲイツさんを見送ってから鞄から弁当を取り出す。
「おっ、今回はオムライスじゃないかぁ!姉さん、早速用意してくれたんだ♪」
「では、頂きます。なのです」
食事をしながら、1通の手紙を手にとる。
弁当箱と一緒に取り出した物。
姉さんからの手紙だ。
紅茶が入ったカップを手にしながら、手紙の内容を読む。
「アナベル様はなんと仰っていますか?なのです」
僕は黙って、そのままイリスに手紙を渡す。
イリスは受け取った姉さんからの手紙を静かに読み終えると、顔を上げてこちらを見る。
「カナタ様はどうされますか?なのです」
弁当を鞄に仕舞いつつ、僕は考える。
でも、答えは決まっているのだ。
部屋のドアへと視線を向ける。
ゲイツさんには、話していない事が僕達にはある。
これからも、話すことない事。
『この500年もの間は、確かに問題ない世界だったのよ。でも、少し闇が深くなっている感じがするのよねぇ。でもどの世界でも闇の存在は、大なり小なりあるものだけど、それでもチョット気になるのよねぇ。カナタには悪いんだけど……』
「――カナタ様?」
イリスの声で、僕は我に返る。
「大丈夫だよ」
僕は、壁にかけてあったコートを羽織り、刀を腰のホルダーにかけ、コートのポケットから指輪を取り出し右手の人差し指に嵌める。
そして、窓を開けて外を見上げた。
雲ひとつない月の光が、この街を照らしている明るい夜。
窓の縁に足をかけながら、後ろのを振り向きスタンバイOK状態のイリスに声をかけた。
「それじゃあ、行きますか」
窓の縁を蹴って、僕達は空を飛んだ。




