021話
結局、彼等とお茶を飲むハメになってしまった。
ゲイツさんに状況説明しているレイナの隣には、剣の少年ディーンが座り、そんな彼と楽しそうに会話しているのは魔女っ子のアビー。
「――あのぅ」
アビーの隣で僕の近くに座っている、弓の少年カルロが小声で、僕に声をかけてきた。
なので、僕も彼に合わせて小声で返事をする。
「……何?」
「スフレールさんって、歳はおいくつですか?」
「17だけど、……それがどうかした?」
「僕達とは2つ上かぁ……」
ディーンとカルロは幼なじみで、1年前に冒険者登録でこの街に来た時にアビーに出会い、暫くは3人で薬草採取などの依頼をしていたのだが、3ヶ月前にレイナと出会い、4人共同い年ということで、パーティーを組んだのだと教えてくれた。
「――スフレールさんって、レイナの事苦手でしょ?」
「――カルロもだよね」
驚いた表情を一瞬彼は見せたが、すぐにホッとした表情になり、周りに気付かれ無い様に小さく頷いた。
「同じだったから気付けたって事ですね。スフレールさんの言う通りなんです。僕はディーンがいるからこのパーティーにいるんです。……なのに、彼女からパーティーを抜けてって、言われていてーー」
気弱そうな彼の目から、嫌な光が放たれているのが分かる。
………憎悪。
「……彼女はディーンが、幼なじみの僕の事を気にするのが不満らしくって」
その時の光景をを思い出したのか、足下を見つめながら、カルロは自身の服を強く掴む。
「あ〜。あの子、彼に好意を抱いているのが丸分かりなうえに、自分だけ見て欲しい願望持ちかぁ」
「――そうなんです!それに、リーダーはディーンなのに依頼を勝手に決めてくるし」
あのウルフの討伐も、レイナが勝手に決めた事だったらしい。
「……う〜ん。カルロはレイナを追い出したいと思っているかもだけど、ディーンはきっとそうはしないよ。多分だけどね」
僕らの会話を黙って聞いているイリスの頭を撫でながら、答えると先ほどまでの気弱そう雰囲気とは違い、不機嫌そうな顔をするカルロ。
「どうして、そう思うのですか」
表向きな印象と違い、どうやらカルロは先ほどの目といい、全く気弱な少年ではないようだ。
僕は紅茶を飲んで喉を潤し、テーブルに肘を置き両手で口を隠す。
遠目からだと、きっと某司令官っぽいハズ。
「……レイナには悪いけど、ディーンが好意を持っているのはアビーだよね?でも彼女はレイナを友として慕っている感じ。アビーの性格的に同性の友達は彼女が初めて。ならレイナを追い出したらどうなるか、賢いカルロなら分かるよね?」
気弱な少年を演じれば、勇者タイプのディーンは守ってくれると分かっているのだ。
おそらく、彼はディーンよりも強く賢い。
カルロはそれを隠してディーンに依存している、いや寄生しているようなものだ。
僕は、カルロが彼に依存する理由に興味はないし、知りたくもない。
それに彼に僕の声は、きっと届かない。
こじれた関係は、遅かれ早かれ破綻を呼ぶ。
「……そうですね。話を聞いてもらって有り難うございました」
丁寧に頭を下げるが、カルロの目にもう僕は映ってはいないだろう。
そんな彼から視線を移し、ゲイツさんが3人と楽しそうに話している様子を見ていると、イリスが僕のコートの裾を引っ張る。
「ーーダメな結末。なのです」
悲しそうに言うイリスの頭を撫でる。
分かっているのだイリスも僕も、このパーティの結末が決してハッピーエンドではないことを。
………あの時、草むらで見かけた時から。
「それにしても、ちと不味いのぅ」
ムサイ男達の方向を見ながら、ゲイツさんは言う。
「――どういう事ですか?」
その言葉に真っ先に反応したのはレイナだが、ゲイツさんはそんな彼女を見て、困った表情になった。
「いや、なんでもないのぅ。カナタ殿、イリス殿そろそろ宿屋へ行きますかのぅ」
「え?はい」
「分かった。なのです」
僕達が椅子から立ち上がると、ディーン達も同じように立った。
「では、オレ達も帰ります」
「シューマンさん達は、どちらの宿屋なんですか?良かったら、アタシ達が泊まっている宿屋にーー」
「確か、白銀通りの星屑亭だったかのぅ」
「――ほえぇ、この街1番の高級宿屋です」
大人しい魔女っ子が思わず声が出てしまうということは、これは期待しても良いかも。
だけど、ゲイツさんいつの間に。
しかし1番かぁ。
どんな所だろ。
それにしても、手甲少女はゲイツさんにロックオンしているな。
……女はコワイなぁ。
「一応オレ達は、旧街道の黒猫亭にお世話になっているので、もし何かあったら」
「そうじゃのぅ」
社交辞令を交わす2人を眺めながら、手甲少女のゲイツさんを見る目で考えが透けて見えるが放置。
「――シューマンさん、もし良かったら明日も」
結局、彼女の思惑が成功することはないのだから。
「すまんのぅ、明日の予定はカナタ殿達次第なので、まだ分からないのぅ」
手甲少女がキッとこちらを睨むが、僕はそれもスルーした。
強気な性格の女性は、本当に怖くて面倒で嫌いだ。
まだ15なのに……と思ってしまうのは、僕が平和な国から来たからで、この世界ではキレイ事ばかりではないのだろう。
ーー生きる為に、みんな必死なんだ。
そんな僕達は4人と別れ、ゲイツさんの案内で歩き始めた。




