019話
春のような暖かな日差しを浴びながら、のんびり紅茶を飲み、ほどよい甘さのケーキを食べながら、まったりな空気を満喫している僕とイリス。
小鳥のさえずりが聴こえてきそうな、平和な風景。
……………。
「オラオラ、それだけかぁ。ガキィ、ゲハハハ」
「――クソッ。ま、まだだ!」
「もう、ヤメて!死んじゃうわ!」
……ナンダロウ。
このテンプレ的な会話。
深い溜め息を出しながら、声が聞こえてきた方向をみると、どうやら先ほど揉めて連中が、案の定喧嘩に発展した様子。
人垣が邪魔でこちらからは見れないが、索敵機能では輪の中心には、4対4同士で向かい合い会話の感じからして、若いグループと大人なグループのようだった。
どうせ、大人のグループが若いグループを馬鹿にして、若さ故の過ちで自分の力量では敵わない相手の喧嘩を買ってしまったのだろう。
「ヤバい。僕、なんだか老けたみたい」
「カナタ様は、素敵な人。なのです♪」
うん。
よく分からないフォロー、ありがとう。
僕が、そんなイリスに苦笑していた時、突然人垣が割れ、そこから何かが飛び出してきた。
「――ディーン!」
どうやら飛び出してきたのは、ディーンという名前らしい。
飛ばされた彼は、見えない壁にでもぶつかったかの様に、僕とイリスが座っている目の前で止まった。
いやぁ念の為に、危険防止に障壁を張っておいて良かったねぇ。
倒れている彼の所に、3人の少年少女が駆け寄ってきた。
「ウルフを追っていた子達。なのです」
「え?あ、あぁ。あの時の……」
草むらでウルフを追っていた、若い冒険者パーティがいたなぁ。
確かに、僕が見た彼らと特徴が同じだった。
倒れている彼はあの時の剣の少年で、彼の名を呼んだのは手甲の少女で、心配そうに様子を見ているのは、弓の少年と魔女っ子の少女。
手甲少女の何度かの呼びかけに、ようやく剣の少年が目を覚ます。
「……あれ?……オレは…痛ッ」
起き上がろうとした彼は、立ち上がれずに右足を押さえ、座り込んでしまう。
どうやら足を捻ったようだった。
「――ディーン、大丈夫?」
「――ああ、だけど右足を痛めたみたいだ」
いやいや。
痛めているの右足だけじゃないじゃん!
片目腫れてるし、鼻や口から血が出てるし、服装もズタボロなのに、やせ我慢しすぎでしょ。
「――アビー、回復薬を!」
「――うん!」
アビーと呼ばれた魔女っ子は、ローブの中から1本の細長い形状の瓶の中身を彼に飲ませる。
すると、腫れていたり切り傷があった悲惨な顔が、みるみるうちに治っていく。
……血は付いたままだけど。
へぇ。
試験管っぽい入れ物にコルク?で栓をしている中身は薬なんだ。
薬草かな?
あの魔女っ子、回復魔術は使えないみたい。
彼達の様子を聞きながら、紅茶が入っているカップに口をつける。
あ〜。
紅茶は嫌いじゃないけど、そろそろ炭酸が恋しくなってきたなぁ。
「ゲハハハ、なんだもう終わりかぁ?」
下品な笑い声を上げながら、彼等に近付いてきたのは、筋肉ムキムキのむさい男。
どうやら、この男が元凶のようだ。
「さっきまでの威勢はどうしたよ?」
「くっ!」
力の差を思い知った彼は、下品そうな男に反論できず顔を歪める。
「たかがランクEのガキが、ランクDのオレ様に勝てるとでも思ったか!ゲハハハッ!」
男の後ろにいる仲間の男達からも、下卑た笑いが上がる。
そして、周りの傍観していた人達からも……。
若いパーティは、その状況に下を向いてしまう。
悔しいよね。
自分達の力不足が招いたとはいえ、それでも……。
「……顔を上げなよ」
「――え?」
僕は椅子から立ち上がっていた。
「弱いなんて自覚していたんだろ?」
僕は彼等と男の間に立っていた。
「それでも。許せない事があったから、コイツに立ち向かったんだろ?」
僕はメガネに触れた後、ムサイ男を見上げる。
「……ナンだぁ?オマエ」
「コイツらは、ウルフを倒してきたアタシ達を、まぐれだって馬鹿にしたのよ!ランクEが倒せるワケがないって」
後ろから、多分手甲少女だろう。が諍いの原因を教えてくれる。
あぁ。
あの後、無事に討伐に成功したらしい。
「そりゃ、そうだろうよ。オマエらみたいな貧弱なガキが倒せるワケないんだからよ!ゲハハハッ」
男の発言に、その仲間だけじゃなく周りの者達もつられて笑っている。
あ〜。
気分最悪。
「1つ質問なんだけど、ランクEがウルフを倒すのって難易度高いの?」
「え?えっと、ウルフは群れで行動するし、動きも速いから、倒すのは確かに大変だけど、無理ではないわ」
振り返り手甲少女に尋ねると、驚きながらも教えてくれた。
「そうか。じゃあ、アンタは彼等のパーティが、仲良くしているのが気に入らなかっただけか」
「あぁ!ナンだぁ!」
「だって。見たところ、アンタは男だけのパーティみたいだし。アンタも含めモテなさそうだし」
僕の言葉に、所々から笑いが漏れ始め、それが耳に入った男はゆでダコのように顔を真っ赤にする。
「女の子と仲良く話している彼に、ムカついただけで喧嘩吹っかけるなんて、男の僻みや嫉みって醜いだけだよねぇ」
「うるせぇー!」
硬そうな拳を僕めがけて振り下ろす。
誰もが、僕が吹っ飛ばされると想像していただろうが、ソレを壊してしまうのが僕の役目。
「え?」
この言葉は誰が発したのか分からないが、おそらくこの光景を見ている誰もが、思った言葉でもある。
今の僕は、男の拳を受け止めていた。
片手で。
「オマエェェ!何しやがったぁぁぁ!」
顔を真っ赤に力を拳にいれる男だが、全くピクリとも動く事は出来ない。
「ランクDって言うから、力量がどんなものなのか知りたかったケド、一般ではこのレベルかぁ」
僕が軽く押すと、力んでいた拳は腕ごと後方へと弾かれ、男の大きな体も一緒に後ろの仲間も巻き込んで吹っ飛んでいった。
「イジメ、ダメ、ゼッタイ」




