017話
僕達は、縛られながら気絶している野盗連中を見下ろしていた。
「コレ、どうしますか?」
「うむ。騎士団の連中なりに、引き渡した方が良いかのぅ」
「このまま放置して、魔物の餌になればいい。なのです」
約1名が、なにやら物騒な発言をしているケド、気にしてはダメだ。
「騎士団っていっても、この近くに町があるわけ………あ、あった」
遠くに石壁らしきものが見えた。
「うむ。そんなに遠くないのぅ」
「あそこに、行きますか?なのです」
「そうだね」
ゲイツさんが、野盗の男達に近付いて行き、持っている杖の先で突っついて起こしにかかる。
「う、……う、うん」
気絶から覚醒し始める男達は、ぼんやりと僕達を見ていたが、現状を思い出したようで大きく目を開いた。
「な、なんだ!?お前達は、何者なんだよっ!」
おそらく、この今僕達に向かって叫んでいる男が、野盗のトップなのだろう。
他の連中は、男と僕達の様子を無言で見ているだけだしね。
「お前らは幸運じゃのぅ。命があるのだから」
ゲイツさんの言葉を聞いた男達は、顔色が変わる。
確かに、この野盗さん達は幸運かもしれない。
相手によっては、その場で切り捨てられる事だってあるのだから。
例え、これから刑罰が待っていようと、無惨な死を迎えるよりは幸運かもしれない。
まぁ、ひょっとしたら、彼らのこれまでの行いによっては、そのまま処刑かもだけどね。
そういえば、この世界には死ぬまで強制重労働の刑罰があるらしい。
こちらの方がかなり厳しく過酷で、極刑の方がマシかも知れない。
「これから、お前達を街まで連行して、そこで引き渡す流れじゃのぅ」
「ふざけんなっ!俺たちは行かねぇぞ!」
物語でも、こういった場面はよくあるが、その度に思う事がある、その自信はいったい何処からくるのかと。
勝算をもって襲ったのに、逆に返り討ちにあった挙げ句に捕縛されたのにだ。
今だって彼らの腕は後ろで拘束されて、本人達が気付いているかは知らないが、拘束している縄は全員に繋がっているため、まさに彼らは一蓮托生状態。
それに、力自慢の大人が華奢な子供に負かされたなんて、僕だったら心が折れるけどなぁ。
それなのに、だ。
縛られていながらも、強気な態度を維持し続けていられる、この男の精神状態が僕には理解出来ない。
「……それにしても、失敗したなぁ」
完全に油断していた。
広い草むらにいるのは、ボアだけとは限らないのに、他の魔物やひょっとしたら他の冒険者もいたかも知れない。
よく危機的管理能力が、日本人は低いって言われていたケド、この時に実感してしまうなんてね。
僕は、幸せな国にいたのだと。
そして、大人達に守られていた、只の子供だったってことを。
でも、ココは違う。
自分の身は、自分で。
これからは、索敵機能を常時ONにして備えを怠らないようにしないとな。
イリスには、申し訳ないけど。
両手をパンツのポケットに入れ、空を見上げて僕は反省する。
その時に丁度、腰のホルダーと繋がっている刀がカチャンと、音を鳴らした。
「――ヒッ!?」
野盗の中の1人が、その音に反応し声をあげた。
「ん?どうしたのかのぅ」
ゲイツさんが、僕を見て青ざめている男に声をかけるが、男はこちらを見たまま動かない。
「カナタ様の存在に、恐れ戦くが良い。なのです」
何?
その悪役系な台詞。
僕の隣で、声高々にイリスさんが笑っているけど、止めないよスルーだから。
「ホラ、立つんだ」
ゲイツさんが、野盗を杖で突きながら立たせる。
野盗達も、渋々立ち上がり歩き始める。
僕とイリスは、最後尾について歩き出した。
「石壁っぽいのが見えたから、次は街だよね?」
「楽しみなのです♪」
先頭を歩いているゲイツさんを横目に、草むらを眺める。
やっぱり、チラホラと魔物の影が見える。
そんな中、気になる光景を見つける。ウルフが駆けている後方から剣を持った少年と手甲の少女の姿が、またその後ろを弓を持った少年と、とんがり帽子を被ったローブ姿の少女が走っている。
「ウルフに追い付くのは、無理。なのです」
イリスも僕と同じ方向を見ていたようだ。
「――冒険者かな?」
「おそらく。なのです」
どんどん、ウルフと彼らの距離が開き始めている。
それでも、前の2人は諦める様子もなく追い続けているが、後ろの2人はバテている様子。
「ウルフが逃げているって事は、あの子達強いんだねぇ」
「近距離型が2人、遠距離型が2人、中々に攻撃バランスが良い。なのです」
確か、パーティっていうんだよね。
同世代の仲間達と冒険!なんて、青春を謳歌しているねぇ。
あ、魔女っ娘が転んだ。
「カナタ様、門が見えてきました。なのです♪」
イリスの声に、正面へと目線を移すと、10m位の高さがありそうな石の壁がそびえ立っている。
多分、この石壁が、ぐるりと街を囲んで魔物から守っているのだろう。
日本のお城で見かける、石垣のイメージだったんだけど、レンガ積みのきれいな壁だった。
「カナタ殿。門にいる兵士に、こ奴らを連れて行くので、少し待ってくださるかのぅ」
僕が軽く頷くと、それに頷いたゲイツさんは、野盗さん達を連れて門の方へと歩いていった。
「カナタ様、並びましょう。なのです」
イリスが、門に向かって並んでいる人達を指を差して言う。
「だね。じゃあ、行こう」
「はい。なのです♪」
僕達は、門に向かって歩き出した。




